髪を切ったから、もしかしたら気付かないかもしれないと思ったそうだ。後から聞いた話である。
それは、夏だったからなのか高専の頃と比べてのことなのかはわからなかったけれど、最後に見た頃よりも随分大人びた表情と、確かに短く整えられた髪と、落ち着いた声で七海はそう言った。
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諸々の事務手続きを終えて、あとは書類を手渡すだけだ。七海が呪術師に戻ることになり、伊地知は少なからず興奮していた。ひとつ上の先輩は、学生時代から慕っている、頼りになる人だ。この界隈では珍しい、常識ある話の通じる術師である。日頃担当することが多い、話の通じない人ナンバーワンの顔を思い浮かべながら、少し苦笑いをする。そのナンバーワン、五条悟に学生時代から向かっていけた数少ない後輩が、七海建人その人であることも、また伊地知を少し楽しい気持ちにさせた。
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