星に願いを沈黙の魔女、彼女について考えるときだけ、死んだはずの僕が息を吹き返す。
それが狂いだしたのは、きっとモニカがアイクを見つけてしまったあの夜からだ。
皆の記憶の中に残さなくてはいけないのはフェリクス・アーク・リディルだけだったはずなのに、その彼とよく似たモニカには自分を覚えていてほしいと思ってしまった。
時が来たら、偽物は舞台から退場する。
そしたらモニカは何を思ってくれるだろうか。
皆を騙していた僕を軽蔑するだろうか。
今日二人で見上げた星空を一人で見上げながら息を吐き出す。
ここのところ随分とフェリクスは日常を愉しんでいた。
たったひとつの願いを叶えるためにここまで来たのに。
きっと心の優しい彼なら、
「それでいいんだよ」
そう言ったはずだ。
「ううん。これじゃだめなんだ」
どれだけ犠牲を生んだとしても、たくさんの人を傷つけたとしても。
今日彼女にあの話をしたのはけじめでもある。
沈黙の魔女は遠い存在だから、滅多なことでアイクは呼び起こされなかった。
けれど、モニカの前でアイクを名乗ってしまったことで綻びは生まれた。
彼女は本当に自分を覚えていてくれるか、確認してしまいたくなる。
彼を思い出させる彼女の言葉を期待している。
殻の器には満たされるものなんてあってはいけないのに。
だけど……ほんの少しでも彼女が悲しんでくれたならいいな。
楽しい思い出より、苦しい思い出のほうが、一生忘れることはないということを僕は知っている。
「アーク、もう少しだけ待っていて」
彼を想って、星に手を伸ばした。