平らげる好意「シリル、何か食べたいものあるか?」
唐突なラウルの質問に、シリルは片方の眉を器用に上げた。
質問の意図がまったく読めない。
というのも、数分前にラウルが用意した食事を終えたばかりなのだ。
正直、この邸宅に来てからシリルは普段食べる量を遥かに上回る量の食べ物を口にしている。
だが、過剰に見えるもてなしも彼の好意の一つであることをシリルは分かっているので、魔術の特訓を多くして調整していた。
この前少し量を減らしてもらえれば、という提案については、
「ごめんなーこうして自慢の野菜を食べてもらえるのって嬉しくてつい作りすぎちゃうんだよ〜」
とこっちが照れくさくなるくらい眩しい笑顔を返された。
でも少し改善してもらえている気はしている。(まだ品数は多いが)
時々いや常々シリルはラウルが七賢人であることを疑う時がある。
この前も、
「シリル、シリル。俺やってみたいことがあるんだ」
これから就寝だと言うのに、ベッドに乗り上げたラウルが枕を握っていた。
少し嫌な予感がしたが、
「なんだ」
どんな時もまずは話を聞いて判断しようとするのは、シリルの美徳である。
「枕投げって知ってるか?」
知らないと答えればいいのに、シリルはこくりと頷いてしまう。
そこからは言うまでもないが、シリルとラウル、ピケとトゥーレによる枕投げが行われた。
動体視力の運動にはなるということを知れたのは良かったが、はしゃぎ疲れたのか起床時刻が遅れたので、プラマイゼロである。
「どうしたシリル?」
黙り込んでいたシリルを不思議そうな顔で覗き込むラウル。
そうだった、何を食べたいかと聞かれていたのだった。
と言われても腹が満たされた状態で思いつくものはない。
「……特にない。任せる」
言葉を口にしてから、シリルは失言をしたことに気が付いた。
任せるなんて言ってしまえば、ラウルは張り切ってしまうだろう。
「おう!任せてくれよ!食べさせたいものはまだまだあるんだぜ」
案の定である。
目の前の美丈夫の微笑みを前にしてシリルは訂正なんてできようもなく、翌日もたっぷり用意される食事を前に引き攣る口角を押さえるシリルであった。