完璧すぎる弟子「モニカ、何か食べたいものはあるかい?」
モニカの弟子となったアイクという人間はすこぶる有能だ。
モニカが苦手なことを大抵はできるし、料理も彼の得意とするものの一つ。
アイクはモニカの知らないたくさんの料理を知っていて、彼の作る料理はどれも美味しいし、苦手だと感じたものもない。
だからこの問いはモニカを大いに困らせた。
何でもというのも少し任せっきりな気もするし、だからと言ってモニカは指折り数える程度しか料理名を知らない。
うんうん悩み、一つの食べ物のことを思い出した。
「えっと、あの……おひさまみたいに黄色いふわふわの卵の料理が…」
拙すぎる説明にもかかわらず、アイクはにこやかに笑って、
「わかった。少し待ってて」
とキッチンへ消えていく。
そしてあっという間にモニカの言っていた料理を置いた。
「お待たせ。オムライスだよ」
おひさまみたいに黄色いふわふわの卵の正体はオムライスというらしい。
モニカの脳内に今度は名前がしっかりと刻まれた。
見るからにふわふわで綺麗な表面の真ん中にはリディル王国の国旗が描かれた小さな旗。
本当にアイクは器用だ。
「アイクは凄いです」
「ん?」
「ほんとにほんとに凄いです」
アイクはよく大したことじゃないよというけれど、モニカにしてみれば、アイクが生み出す料理はまるで魔法だ。
それ以外にもアイクの飲み込みの速さや提出されるレポートは素晴らしい出来だし、自分に足りない配慮と気配りで幾度となく助けられている。
それを上手く伝えたいのに、モニカは中々いい言葉を見つけられない。
「それを言うなら僕のお師匠様だって凄いんだ。この前だって竜害被害に備えた論文を発表して、たくさんの人に希望を与えた」
「そ、それはアイクが纏めてくれたレポートがあったからです。私一人の力じゃなくて……」
「たったあれだけの情報を元にすぐさま魔術式を試算できるのはこの世で僕のお師匠様だけだよ」
アイクを褒めるつもりが、いつの間にかモニカのほうが褒められている。
あわあわと狼狽するモニカを見兼ねて、
「さ、お喋りはここまでにしよう。ほら、冷めないうちに召し上がれ」
そう言って掬われたオムライスはやっぱりとっても美味しくて、出来の良すぎる完璧な己の弟子を前にモニカは今にも落っこちてしまいそうな頬を押さえることしかできなかった。
モニカ完敗なり。