秘められた想い半ば飛び出すように彼女の部屋を出て、階段を降りる。
そして熱くなる目頭をぐっと押さえた。
鏡を覗き込んでみると、頼りなく下がった眉と潤む瞳、とても他人には見せられない顔をしている。
(しっかりしろ、シリル・アシュリー)
自分にそう言い聞かせて、すっかりぬるくなってしまった珈琲を口に含んだ。
本来あのお方がモニカの為に用意した珈琲はほんの少し苦く感じる。
でもシリルを落ち着かせるには十分で、困難な状況にある時でこそ、冷静でになることが何よりも大切だ、と言われているように思えた。
今この瞬間もあのお方は戦線に出ている。
自分の身がどれほど危ういかもわかった上で。
危険を顧みず遥か先へといってしまうあのお方を引き留めたい……でも自分では止めることはできない。
繋ぎとめる最後の糸はやはりモニカにつながっているのだ。
ならば自分はここにいる者全員を守るという使命を全うしなければならない。
……まだ望みはある。
今の彼女が覚えていなくても、自分たちが覚えている限り、すべてが失われたわけではない。
ソフォクレスに教えてもらった通りに手を動かし、願いを託した紙のバラ。
思えば彼女におまじないを渡すのはこれで三度目だった。
シリルの言った「勇気が出るおまじない」をモニカは信じた。
だから自分も信じている。
沈黙の魔女としてではなく、モニカ自身の強さを。
どんなに時間がかかっても苦しくても彼女はきっと立ち上がるだろう。
だからそれまでの間、彼女が恐れるものの前に立ち塞がり、決して倒れぬ盾となり、待ち続ける。
彼女に捧ぐ三本のバラに誓って。