貴方の居る世界でいつも隠れて生きてきた。
抵抗する術もなく、僕らはいつでも奪われる側…悔しいと思うより先に何時しか恐怖がそれを上回る…そんな生活に疲れさえ感じていたんだ。
あの時も同じ、折角作った住み処を壊されて…でも逃げることしか出来なくて。
泣いて不安そうにする仲間を励ましながら、自分の不甲斐なさを痛感した…僕は何も守れない。
僕は、余りにも弱すぎる。
仲間も僕も飢えや疲労で、もうここまでかと誰もが思った…それと同時に今までの悔しさや悲しさ、恨めしさが腹の底から湧き上がってくるのを感じた。
どうして、僕達の誰もが悪いことなんて一つもしていないのに…奪われて追われて何も残して貰えない。
ドロドロと思考が掻き混ざって視界もボヤけてきてしまう…ああ、僕はもしかして涙を?
そんなのダメだ、だって僕には泣く資格なんてないんだ…まだ何も成し遂げてさえいないのに。
黙りとした僕を心配そうに仲間が様子を伺うのを感じて、余計に何での気持ちが強くなる。
皆、優しいんだ…自分よりも仲間の為に…僕はそんな皆を守らなくちゃいけないのに!
「おい、そこの狸。」
リン…と冷たい音が響く。
僕は全身の体温が一気に下がるのを感じて、咄嗟に槍を構えた。
夜の森は暗闇ばかりが続いて声の主は姿形もない、風ばかりが僕の頬を撫でる。
震える仲間の気配を背後から感じて、僕は槍を持っていた手により力を込める。
「そう怯えるなよ、とって喰いやしねぇよ別に…それよりお前。俺様が声を掛けなきゃ、あのまんま堕ちてたぜ?」
ポン!何処からか小鼓の音が聴こえた気がした。
次いで僕らを囲むように、紅く朧気な炎が揺らめき踊る…誘われるように炎を視線でおった僕はハッと息を飲む。
視界の先、雲で隠れていた月明かりが照らした姿はどう言葉で表して良いのかも分からない程の…美しい者の姿。
九つの尾を持った狐は三日月のように瞳を細め僕らを見下ろし、扇を開いて愉快そうに口元を隠した。
その一連の動作を、僕は呼吸さえ忘れ見惚れてしまう。
「恨みってのは厄介なもんだ、残り続けてまた次へ次へと生み出しちまう。俺様の縄張りでそんな置き土産残されちゃたまったもんじゃねーな。」
「す、すみませ…!」
「ククッ、そこで謝んのかよ…さっきまでの威勢はどこ行っちまったんだ?」
慌てて頭を下げると、クツクツとその人は可笑しそうに笑う。
僕はもう何がなんだか分からなくて…仲間達も同じく戸惑い混乱する事しか出来ずにいた、けれど不思議と怖さは感じられなかった。
「よぉし、決めた。お前らその感じから察するに…行く宛がないんだな?しかもこーんな大所帯じゃあ、なかなか腰を据えられる場所もねぇと見る。」
図星を全て突かれ思わずビクリと体を揺らす。
そんな僕らを見て、また愉快そうにニンマリとした表情を浮かべた姿に僕は少しばかり警戒を強める。
そんな僕の事など見透かしているかの様に、パチンッと閉じた扇を僕らに勢い良く向けながら、声高らかにその人は言った。
「んじゃあ、野良の狸を幾ら拾おうと誰も文句は言わねぇな!お前ら全員、今日から俺様の子分になれ!」
理解が追いつかず、本当に目玉が零れ落ちるんじゃないかという位に僕も仲間も目を見開いて固まった。
声も発せない僕らを余所に、その人は満足そうに笑いながら名前を告げた。
その時の笑顔を僕はきっと一生….否、死んでも忘れる事はないのだろう。
それが僕らと僕らの愛する主人との出会い。