芸能パロ石乙 ジャンルがジャンルなだけに、今までの共演者は比較的年上が多かった。それでもひとたび違うジャンルのドラマに参加すれば、自分が意外と中堅の役者であったことに気付かされる。出演作見てますと、代表作を口にしてくれ、それだけでもありがたいのに、最近若い子の間で流行っていることなんかも教えてくれる。
「え、龍さんって、インスタもやってないんですか?」
最近参加した刑事ドラマで共演した彼、乙骨憂太もその1人だ。まだ若干二十歳の売り出し中の若手俳優で、演技はかなりの体当たりだがその一生懸命さに好感を抱いた。
ドラマの中ではバチバチにぶつかり合った役柄だったが、そういう役ほどオフショットで仲良しなところを見せるといいよ、なんてスタッフにいわれて、乙骨とツーショットを撮ったのがすべての始まり。最初は自分を前にガチガチに緊張していたのだが、機械音痴で上手くスマホのカメラを扱えない自分に、僕がやります!って率先して撮影したのを皮切りに、打ち解けた。後からもっと怖い人かと思ったら意外と優しいしお茶目なところもあって全然怖くなくなりました、なんて笑って言われた。まぁ仲が悪いよりはいいよな、なんてその時は思ったけれど。
そんな乙骨からスマホの使い方を教わり、今度はSNSにチャレンジしてみようという話になった。乙骨くらい若いやつの間では、今はいんすたぐらむ?ってやつが主流らしい。乙骨のアカウントを見せてもらえば、乙骨の写真や他の共演者とのオフショットやらがたくさん投稿されていた。その中には自分とのツーショットもあった。
「龍さんとのツーショット、すごい反応あったんですよ。あの怖いおじさんと仲良しでかわいいとか、ほら」
「…悪かったな、怖いおじさんでよ」
そんな風に返せば、乙骨はフフッと笑った。
「龍さんのファンだって、普段の龍さんのこと、知りたいと思うんですよ」
「どうだろうなぁ、逆に役者はオフの姿をあんまり見せるべきじゃねーんじゃねぇかなって俺は思うがね、役のイメージを壊しちまうというか」
「いかにも古い考え方ですね」
「ああん??」
「じゃあ、新しいファンの獲得のために始めてみるとかは?僕のインスタにお互いの写真を投稿してみたりしたら、僕のファンの子が龍さんのインスタをフォローしてくれるかもしれませんよ?」
乙骨のその提案に、ふむと少し考えた。確かに、自分の既存のファンはわりと年配の人が多いし、そういう人はいんすたぐらむとかやらないかもしれない。それなら彼らのイメージを壊すこともないだろうし、逆に今まで自分のことを知らなかった人に自分のことを知ってもらうために始めてみるのもいいかもしれない。
そんなこんなで自分もインスタのアカウントを作成した。乙骨が早速フォローしてくれて、龍さんのフォロワー一番乗り!と嬉しそうに笑った。
「とりあえず何を載せるかな」
適当に今日のお昼に食べた弁当でも載せるかと思ったら、ダメダメ、ちゃんと龍さんの姿を載せなきゃと乙骨が言って来て。
「僕とのツーショ載せましょ、はい!」
合図と共に顔をむにゅっとくっつけてきて、パシャッとシャッター恩がした。仲良さげなツーショットが撮れたし、まぁ良いかと思ってそれを自分のインスタグラムの1枚目に投稿した。
それからしばらく、乙骨にせがまれて撮ったツーショやら、撮影の合間に眠りこけてる乙骨の寝顔を撮ってこっそり載せたりそんなことをしていたら、フォロワーがどんどん増えた。その殆どは乙骨のファンの子たちみたいだったが、まぁこんなおっさんも若い子の中に浸透してきてよかったかなって思った。
「なぁ乙骨」
「どうしました?」
「この、たまにコメントにある『石乙てぇてぇ』ってどういう意味だ?」
「あ~~~~僕と龍さんが仲良しで微笑ましいってことじゃないですか?」
そんな乙骨の言葉にフーンと頷きつつ、まぁ乙骨と仲良くして悪く思われてないならよかったなって、呑気に思っていた。