石乙散文 部屋に入ってすぐ、首に腕を回してきて、唇を押し付けられた。ようするにキスをされたのだが、突然すぎて思わず瞬きをした。
「……どうした?」
思わず唇が離れてすぐそういえば、相手は「いえ」と言ってほんのり頬を染めて照れくさそうな顔をした。
「いつも先にされちゃうから、今日は僕からしたいなって思って」
そしてそんなことを言うものだから、胸にぐさりとときめきと言う名の矢が刺さった。
「オマエ…」
それはお誘いとみていいのかと口に出そうとしたら、逆に乙骨の方からこちらの胸に抱きついてきて、唇を寄せてきた。
「お、い……」
「ん……石流さんの筋肉、好きです…触っても気持ちいいし、匂いもアナタのものを強く感じる…」
すんすんと鼻を鳴らし、腰回りをペタペタ触り、終いには鎖骨の辺りをペロリと舐めてきた。
「…っ、やめろって…」
「……どうして?いつも僕の身体にはアナタの方からベタベタ触ってくるのに…」
足の間にするりと乙骨の太股が入り込み、股間をきゅっとそこで押された。誘うどころかそっちから襲ってきてる勢いじゃないか?
それにむむんとした顔を返せば、乙骨はクスリと軽く苦笑した。
「…変なの、いつもは簡単に僕に触れてくるのに、僕の方から触れたらそんな戸惑うんですか?」
「……そりゃあオマエ…俺がオマエに手を出すのと、オマエがそうするのは全然違ぇだろ…」
そう言えば、乙骨は「どこが?」という顔で首を傾げてくる。当然だ、きっとこんなこと、こいつは少しも考えたことねーだろ。
「……オマエには、俺じゃなくてもいいだろ?」
胸のうちを一割も出さずに、それでも乙骨にも分かるだろって言い方でそう言えば、乙骨は目を見開いた後、小さく息を吐いた。
「そんなこと?」
「おま、そんなことって…」
「言っときますけど、僕がこんなことをするのも、されるのを好きにさせるのは、アナタだけですからね?」
そう言って再びちゅっと口づけられた。掌はこちらの身体を這い、撫でるように昂ぶらせるように触れてくる。半身に触れられたときは、ああくそと思いながら、その身体を抱き締め返した。
「…っ、とに…どうなっても知らねぇぞ…」
「そっちこそ、いい加減、勝手に僕のこと気にするの止めてくれません?」
こっちはとっくに、気持ちを決めてんですよ。
そう言わんばかりの強い瞳に惹かれて、ハッと軽く笑った。そういえば、こいつはこういうやつだった。
「…っとに、オマエは最高にSWEETだな、乙骨」
君の未来を憂うより、今の君を堪能したい。