学パロ石乙 ベランダの手すりに肘をついた状態で、石流は咥えていた煙草から口を離し、ふぅと息を吐いた。
口から吐き出された紫煙が目の前に広がったと思えば、他の空気に紛れて霧散していく。先程まで自分がしていたことも、こんな風に見えなくなってしまえたらいいんだが、と一瞬思ってしまったが、それはさすがに無責任すぎるか、と頭をガクリと下に落とした。
そのまま石流は後ろに振り返る。ベランダに面した窓の向こうは寝室で、カーテンの隙間からベッドが見えた。そして、そのベッドの上には1人の少年が肩を露出した状態で眠っていた。何だかんだ最後までしてしまったのだから仕方ないと思ったし、何だかんだ最後までしちまったなぁ~~と思って石流は更に項垂れた。
(いやまぁ……今更後悔はしてねぇけどさ…マジで冗談では済ませられなくなったな…)
もとより冗談で済ますつもりもないのだが、ヤってしまった事実を鑑みて少々賢者タイムになってしまっているのだ。
石流は先程、教え子の1人である乙骨のことを抱いた。つまりはセックスをしたのだ。数日前に、乙骨を自宅に来ないかと誘って、自宅の場所を教えて、そして今日、部活帰りの乙骨が石流の自宅に立ち寄った。今日は石流の出勤日ではなかったのだ。
石流は部活の後だからシャワーを浴びたいと言った乙骨をスルーしてそのまま寝室に連れ込んで抱いた。正直ずっと我慢していたし、まさか本当に乙骨が来るとは思わなかったので気持ちのタガが一気に外れてしまったのだ。
もちろん乙骨の同意はちゃんと取った。少し強引になってしまったのは否めなかったが、乙骨も戸惑いながらも、石流とキスより先をしたいとハッキリ言ったのだ。そして、してる間も嫌がるようなことは言わなかった。むしろ、石流がしたいように身体を動かして、求めてきて──。
そこまで思い出して、石流は自分の目元を手で覆った。いや、真面目にあれはヤバすぎた、まさか乙骨があんなに積極的に求めてきてくれるとは思わなかった。えろすぎてますます自分のムスコは元気になってしまったくらいだ。
(そこそこいい歳したおっさんなのによ…)
一応30手前ではあるが、高校生相手にしっかりがっついてしまった自覚はあった。薄暗い空に冷たい風が熱くなった自分の顔を冷ました。
石流は1つ深く長く息を吐いた後、そのままベランダの窓を開いて部屋の中に戻った。
と、その時、ベッドの上の乙骨ももぞりと動いて、薄らと目が開いた。
「……あ…」
「……気がついたか?」
石流がベッドに座り、ベッドの上でぼうっとした顔の乙骨を伺った。乙骨はぼんやりと天井を見つめていたかと思うと、ゆっくりと石流の方を見てきた。
「……せんせい?」
「…身体大丈夫か?もう少し休んどけ…って言いたいところだが、そろそろ帰らないとまずいかもな」
部屋の時計を確認したらもう20時近い。乙骨の家の近くまで送ってやるとしても、寄り道した言い訳は少し考えてやった方がいいかもしれない。
石流がそんなことを考えていたが、乙骨は瞬きをしただけで、そっと石流の方に手を伸ばし、着ているシャツの裾をぎゅっと掴んだ。
「……泊まっちゃ、ダメですか?」
「…っ、はぁ…!?」
乙骨のその言葉に思わずそんな素っ頓狂な声をあげてしまった。それから慌てて口元を抑える、思わずニヤけそうになったのだ。
(いやいやいやいやそれはダメだろどう考えても…!)
石流は一度目を閉じて「うーん」と唸ってから、乙骨に向き直った。
「…ダメだ」
「…なん、で……」
「俺はお前との関係をこれっきりにはしたくないからだ」
キッパリとそう言いきれば、乙骨が目を細めた。
「だから今日はダメだ。その、また今度……ちゃんと親御さんにどっか泊まりに行くって伝えてから泊まりに来いよ。そしたらちゃんと、一晩中傍にいてやるから」
そう言ってそっと乙骨の方に手を伸ばし、その頬を指で撫でた。柔らかな肌が暖かくて、乙骨もそっと石流の手に擦り寄ってきた。
「……………分かりました」
少し沈黙は挟んだが、乙骨は頷きもそもそも身体を起こした。さっきシャワーは浴びさせたから、シャツとショートパンツは身につけていたが、それでも首筋に残る赤い痕に気付いて、「あ~」と思った。
「……ここ」
「え?」
「悪い……ちょっと痕が残っちまったから、気をつけろよ」
「へ?あ?」
乙骨からは見えない位置なので一生懸命覗き込んでいる姿がちょっと可笑しかった。石流が「ここだ」って指で押してやれば、乙骨は「そんなところに…」と呆れたように呟いた。
「……虫刺され、で誤魔化せますかね?」
「それっぽいし、誤魔化せはするんじゃねぇかな…」
本当に悪い、と石流が言えば、乙骨はベッドの下に畳んである制服に腕を通しながら「いえ…」と返した。心なしか、少し顔が赤いような気がした。
制服を着てしまうと、そういえば乙骨は自分が教えている学校の生徒だったなと思い出してしまって少し心の奥が重くなる。それでも「先生?」と見上げてくる乙骨を見て感じるのは「好きだ」って想い。それをぎゅっと胸に抱き締め、そっと乙骨の肩を抱いた。
「…憂太」
「…っ、…」
さっき抱いた時も何度も呼んだ、乙骨の名前。乙骨もおずおずとこちらに顔を向けてきながら言ってきた。
「……りゅう、さん…」
──だから、その呼び方はヤバいから勘弁しろよ。
内心そう思いながらも、その瞳が求める通りに、そっと口付けを落とした。
この部屋の扉を出たら、元の教師と生徒の関係に戻らなければならない。だからせめて出るまでは、こうしていたい──そんな風に思いながら、2人はしばらく唇を求め合っていた。