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    あさい(ぼらけLABO)

    @AsaiKmt

    成人済・腐/邪まな目で見て気ままに文字を書きます。

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    POIPOI 6

    現パロ:尾月。二人が付き合い出して初めての仕事納めの日の話。
    当たり前に同棲してます。

    特別な申請をした 執務室の静けさに月島は年の瀬を感じる。一年の終わりまで残すところたったの数日、仕事納めの日。月島は自分が手を止めた瞬間に音が消えた部屋の中で、ふとパソコンの画面から顔を上げた。わかっていたとおり、部屋の中はがらんとしていた。人がいないだけで、随分と見通しがよい。
     そもそも今日は、朝から部屋の中は閑散としていた。月島の会社では、年末年始は可能な限り連続して休暇を取得することが励行されている。率先垂範するかたちで上司たちが早々と冬期休暇に入り、これ幸いと月島も部下たちに声を掛け、さっさと休みを取らせた。今日出勤してきた部下たちにも、年始に休みを取らせる算段を付け、定時過ぎに早々に帰らせた。そして、自分はひとり、定時を越えても淡々と残った仕事を処理しているのである。
     月島にとって、目の前にあるこの光景を眺めることが、年末の、ある種の風物詩だった。年末年始、帰るべき実家も地元も月島にはないし、一緒に過ごす相手も長いこといた試しがなかったので、仕事納めの日も大抵は会社にいたし、次の日やその次の日も会社にいることだってあった。年が明けたあと、仕事始めの日からの日々もそうだ。中間管理職になってからはなおのこと、上司の不在を埋め、部下の不在を埋めているうちに年末年始というのはいつの間にか終わってしまっているものだった。
    「まだ帰らんのですか」
     声は月島の左斜め前から届いた。ほとんど空の執務室の中で、唯一パソコンが開かれたデスクの前、オフィスチェアに座ったまま、月島のほうに向き直ったその男は、いつものとおり右手で自分の髪を掻き上げてから、大袈裟に肩を窄めて見せた。
    「そろそろ帰るかな。尾形。お前は?」
    「あんたが帰るなら、帰ります」
     ガラガラとキャスターを転がし、尾形はキーボードに手を伸ばすと、さっさとパソコンの電源を切りに掛かる。画面が切れるより早く立ち上がった彼は、足元に置いてあった自分のバッグをどんとデスクの上に置き、さっさと片づけを始めた。彼の口許にはゆったりとした笑みが浮かんでいる。
     彼のパソコンがシャットダウンされる随分と前から、尾形のパソコン画面が暗転と明転を繰り返していることに月島は気づいていた。なんなら執務時間中から、尾形は暇を持て余していた。今年中にやるべき仕事はクリスマスのあたりに大体始末と目途をつけていたし、本来なら彼の同僚たちと同じように、クリスマス以降有給を取ってしまったってよかった。けれど、取らなかった。月島が休みを取らなかったから、仕方なしに一緒に出勤し、仕方なしに残業にも付き合っている。
     尾形はバッグに手を置いて、月島のほうに向き直り、ゆっくりと瞬きをした。月島が自分に倣って帰り支度を整えることを、少しも疑っていない顔つきだった。月島は小さく苦笑を漏らしながらも、尾形に促されるまま、そそくさとファイルを保存し、パソコンの電源を切る。
     月島と尾形は恋人同士だ。職場で敢えて公言してはいないが、半年ほど前からは一緒に住み始めてもいる。同じ家から同じ会社に向かい、同じ会社から同じ家に帰るのだけれど、いつもは二人とも別々に家を出るし、別々に会社を出る。二人が付き合う前の出勤時間と退勤時間を維持しているだけで、そのことに特段の意味があるわけでもない。とはいえ、こうやって一緒に帰ることは彼らにとってとても珍しいことだった。
     さっさと帰り支度を終えた尾形を待たせながら、デスクの上を整理し、鞄にあれこれを突っ込みながら、月島はむず痒さに襲われ、ついでにデジャブにも襲われる。
     確か、前にもこういうことがあった。尾形と二人きりで仕事を終えて、一緒に帰ることになったことが。
     ちょうど去年の今頃──去年の仕事納めの日の、定時を過ぎてだいぶ経った頃、月島は尾形と連れ立って執務室を出た。当時の二人はまだ、ただの上司と部下で、たまたま帰りが一緒になったことに深い理由のひとつもなかったはずだった。
    「少し、飲みませんか。折角ですし」
     部屋の鍵を守衛室に納めたあと、裏口から会社を出て、地下鉄の駅へと向かう道すがらで尾形が唐突に言った。彼は月島の斜め後ろを歩いていて、小さく首を曲げ、月島の耳元に慎重に言葉を落としてきたのだ。
     思いのほか近くから吹きかかった息の熱さに月島が弾かれたように振り返れば、尾形は少しだけ背を反らすような姿勢で、左手を上げていた。半端な高さで白い手のひらが左右に揺れた。
    「いや。予定がないなら、ですけど。仕事納め、ですし。家帰っても、俺は、飯ないんで。よければ、どうかな、ってだけで。嫌なら、別に、」
     尾形の目は月島の目を見ていなかった。彼の目線は月島の喉元に留まっていた。尾形は途切れ途切れに口を動かしながら首を窄めていたから、その口許は巻かれたマフラーに埋もれてよく見えなかった。マフラーから覗いた鼻先がほんのりと赤かった。外気に晒された頬は、街灯の光に洗われてやけに澄んだ白色をしていた。
     ヒュウと冷え冷えとした風が吹き、既に葉の散った街路樹を揺らした。師走も終わりに近い寒い夜だった。月島はスタンドカラーに鼻を埋め、正面に向き直った。
    「いいぞ」
    「え」
    「さっさと店決めるぞ。寒いし。腹も減ったしな」
     ちらと斜め後ろを振り返れば、尾形のがっしりとした顎が見えた。先ほどまで窄めていたはずの尾形の首がぴんと伸びていた。わずかに見開かれた目。妙な姿勢の良さも相まって、その姿はミーアキャットに似ていた。月島はつい笑いそうになって、自分の唇を噛んだ。
     目だけでなく、尾形は口もぽかんと開けたままでいた。その唇には血色がなかった。また正面に向き直りながら、月島は今日は鍋にしようと決めた。一人では味気ない鍋を、誰かと囲う仕事納めというのは悪くないように思えた。それに、暖かいものを食べて、尾形の頬やら唇を赤く色づけてやることも、悪くないと思えたのだ。

     その日はただ鍋をつつき、酒を飲み、改札前で別れた。無味乾燥な連休を越えたあとの仕事始めの日、まだ人の少ない執務室には尾形がいた。月島と目が合ったとき、彼はほんのわずかに頭を下げた。彼の唇はかすかにカーブを描いていて、ほんのりと赤かった。
     言ってしまえば、それだけだ。些細すぎるきっかけ。その日から、寒さを口実に二人で鍋を囲うようになり、鍋の季節が終えたころには、なんら理由を付けずとも、当たり前の顔をして二人で飲むようになっていた。
     そのまま、飲む場所が居酒屋ではなくてどちらかの家になり、家に帰るのを億劫がった相手を家に泊めるようになったあたりで、二人は恋人同士になった。自然に、シームレスに、そうなるのが当たり前というふうに転がって行ったせいで、先の展開も早かった。キスをし、身体を交わし、気づけば、一緒に住むことになっていた。
     随分と色々なことが起きた一年だった。
     今の月島には、仕事納めのあとに連れ立って同じ家に帰る相手がいて、年末年始を共に過ごす相手がいる。
     月島が自分の鞄のチャックを閉め、尾形の席に顔を向けたとき、尾形は既にコートを着込み、首元にマフラーを巻いていた。去年のマフラーとは違う色のそれは、月島がこの間のクリスマスにプレゼントしたものだった。
    「あんた、年始は?休めるの?」
    「赤日は休むぞ。さすがに」
    「そうじゃなくて。基さんだって、休み、取らねぇと駄目だろ」
     尾形は眉根を寄せ、心底呆れた、という顔をして見せながら、器用に唇の先を尖らせていた。
     尾形が案外表情豊かな男であることを、月島はもうすっかり当然のこととして受け容れるまでになっていた。ころころと表情が変わる。ちょっとしたことで嬉しそうににんまりと両目を細めるし、ちょっとしたことで不服そうに頬を歪めて眉尻を下げる。
     普段はどこか年の割に老獪な佇まいをしていて、可愛げのなさが取り柄のような男が、自分の前ではただ年相応に素直で、可愛らしい姿を見せるのだ。
     月島は尖った唇の柔さを思い出しながら、ひっそりと笑みを噛み殺した。
    「まぁ、いいだろ。それより、どうする?今日は。どっか飲みにいくか?それとも家で鍋でもするか?ああ。明日はさすがにちょっと掃除しないとだな。それに買い出しもしないと」
     月島は尾形の機嫌を取ろうと意図的に明るく声を響かせた。つらつらと言葉を重ねているうちに、その声に多少はあったはずのわざとらしさがするすると消えていく。心がふわふわと浮きあがり、ぽんぽんと弾んでいく。月島は言いながら、自分が年甲斐もなく、はしゃいでいることに気づいていた。
     一人で過ごす年末年始は、ただの連休だった。暇潰しに観るテレビ番組も、やけに特番が多くって興味が持てず、結局は暇すらうまく潰せない。仕事をしてるほうがずっと生産的だとさえ思っていた。
     わざわざ大掃除をする気もなかったし、鏡餅を飾ったことなんてなかったし、ここ五年ほどはわざわざ餅を買うことだって辞めた。正月らしい何かと言えば、せいぜい、気まぐれにお正月用にと売られている総菜を買うぐらいだ。
    「そう言えば、雑煮ってどう作るんだろうなぁ。ああ。そうだ。お前、大晦日は何食べる?ベタに蕎麦か?すき焼きするって家もあるんだってな」
     けれど、今年は違うのだ。
     一緒に過ごす相手がいるだけで、心持ちがまったく違う。一年のおしまいとはじまりが、ひどく特別に思える。正直、煩わしいとすら思っていた風習やらしきたりやらを、何かのアトラクションかという具合に、楽しむことができてしまう。
     月島は自分の変化に驚き、少しだけ呆れ、けれど、それ以上に嬉しく思う。
    「雑煮は、ばあちゃんに聞けば、わかります」
     尾形の唇はもう尖っていなかった。むしろ、彼は眩しいものをみるように両目を細め、じぃと月島を見つめている。自分の浮かれぶりを目に焼きつけているような尾形の眼差しは馬鹿みたいに柔らかい。尾形からすれば、月島も、ずっと表情豊かでわかりやすいと思っているのかもしれない。月島はつい小さく咳払いをした。
    「そうか。楽しみだな」
    「あの、それで」
     月島の目をまっすぐに捉えていた尾形の視線がすっと逸らされる。その目は、行く先なくしばらくうろうろと移ろい、やがて、コートの隙間から覗く月島のネクタイの結び目あたりに留まる。同時に、尾形が首を縮めるようにして、口許をマフラーに埋めた。定時で暖房が切れる仕様であるとはいえ、部屋の中はまだ暖かい。寒さを凌ぐための仕草ではなかった。
     職場での尾形は言いたいことを、はっきりと言葉にするタイプだった。たとえそれが衝突を産んだとしても、問題が解決するならどうでもいいという具合に、言葉を濁すということをしない。けれど、月島の前の尾形は──恋人としての尾形は時折こういうふうに伝えるべき言葉を言い淀む。
    「うん。どうした?」
     本人がこの癖に気づいているのかどうかはわからなかった。俯いた尾形は、いたずらを告白する子どもに似ている。散々と言い訳を考え尽くして、叱られる覚悟を決めているようでいて、月島が少しでも拒むような素振りを見せると、ひどく驚いた様子を見せる。そして、目を揺らし、唇の端を本当にわずかにだけ震わせて、傷つけられた、という顔をするのだ。
     月島は鞄を肩に掛け、尾形の前へと進んだ。尾形はまだ顔を上げない。
    「あの。それで。俺の、ばあちゃん。は、茨城にいて。いるんだけど。家に一人で。だから、去年までは、俺が正月に帰って。だから」
     たどたどしく紡がれる尾形の低い声を聞きながら、月島は、ひとりでにほつれていく表情を、どうにか取り繕うことに必死だった。ともすれば逸らしてしまいそうになる目を意識して尾形の額のあたりに留め、歪みそうになる唇の端をちょうどいい位置で固めて、顔全体を無難に、何事もなく、均そうとする。
     はしゃぎすぎてしまった。浮かれていて、年末年始を尾形に一緒に過ごせないという選択肢に思い至ることができなかった。尾形には尾形の年末の過ごし方があることに、どうして気づけなかったのだろう。尾形が祖母を大事にしていることは、共に暮らしている中でよくよくわかっていたはずなのに。自分の迂闊に、盛大にため息をつきたくなる。けれど、ついてはいけない。尾形を傷つけるのは、月島の本意ではなかった。
    「ああ、そうか。なら、」
     自分の喉から出た声が、思いのほか沈んでおらず、穏やかであることに月島は救われた思いがした。落胆はしている。残念に思っている。けれど、それを表に出すのは違う。月島が自分の頬を苦笑のかたちで動かし、その胸に彼得意の諦めを落とし込もうとしたそのとき、尾形がパッと勢いよく顔を上げた。
    「だから。基さんも、一緒に、来て、ほしいんですが」
    「え」
    「いや。駄目なら、それは、それで。いいんだけど。俺は、ほら。時期ずらして顔出せば、いいわけだし。三が日は、道も混むし。来てくれるんなら、運転は俺がするけど。ああ、でも、あんた、四日から仕事なら、」
     黒い目が、月島の目の奥をしっかりと見据えたのは、ほんの一瞬のことだった。尾形はすぐに目を伏せ、顎を引く。月島の喉仏のあたりに視線を留め、鼻の先まですっかりマフラーに埋もれながら、尾形はふつりと言葉を切った。
     部屋の中は静かだった。不快ではない無音だ。透明で、いやにぬくぬくとした沈黙が満ちていた。
     月島は、一度は沈んだはずの心が、あっという間に宙に浮きあがり、痛いぐらいに震えているのを感じる。胸に収まっているはずの心臓の鼓動が、喉元まで込みあげてきていた。月島は叫ぶように口を大きく開いた。 
    「いいぞ」
    「え」
    「というか、行きたい。連れてってくれ。お前のばあちゃん家」
     すぐ近くにいる相手に伝えるにしては、随分大きく、宣誓するような声が出た。尾形の頭が勢いよく上がって、彼の目が月島の目を捕らえて、ついでとばかりに伸ばされた尾形の手が、月島の手を捕らえた。
     月島は尾形の手を掴み直す。逆側の腕を窮屈な姿勢で伸ばして、一度は閉じたパソコンを立ち上げながら、月島は足早に自分のデスクの前に舞い戻った。
     横顔に視線を感じる。月島の動きにつられるまま隣に立った尾形の視線だ。それに構わず、月島は画面を注視する。目当てのアイコンを見つけるのに時間が掛かった。
     給与厚生システムのアイコン。滅多に使わないものだから、仕方がない。慣れない手つきで、プルダウンを選択し、休暇申請のページまで辿り着いたあたりで、息を飲む音が耳のすぐ傍から聞こえた。
     温かい息だ。月島がそっと肩越しに振り返れば、尾形は驚いたような、笑っているような、泣きそうになっているような──とにかく曖昧で、ふにゃふにゃとした不思議な顔をして月島の顔を見返していた。
     月島が尾形に小さく笑い掛けてやれば、尾形の手に力が籠った。笑ったまま、力を籠め返す。ぎゅうぎゅうに手を繋ぎながら、月島は、一月四日から始まる数日間、連休を取る旨を入力し、馬鹿みたいに晴れやかで、幸せな気分のまま、「申請」のボタンを押した。 
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    Replies from the creator

    あさい(ぼらけLABO)

    MOURNING一風変わったふーぞく店のキャストogtとその客のtksmさんの話。を、書こうとしていて尾月になるまで続かないのでそっと供養。
    寝たいから、声を聞かせて バイトの時給は一万円だった。普通に考えて、高い。そして、冷静に考えれば胡散臭い。Q2とかで有名なテレクラの「テレ」じゃないバージョン。と、入店面接に際して店長から胸を張って説明されたが、ジェネレーションギャップがえぐすぎて理解不能だった。神妙な顔で勤務条件についてやり取りをし、早々にシフトを埋めた帰りの電車で「テレクラ」をスマホで調べてなるほどな、と思った。
    「お待ちしてました。ご指名いただいた『百』です」
     要するに、俺のバイト先は、客に声だけを提供するニッチな風俗店なのである。
     プレイルームは店舗型のデリヘルと大きく変わるところはない。客が変わるごとにシーツと枕カバーを取り換えるだけのシングルベッドと、14インチの小さいテレビと折り畳み式の安っぽいローテーブル。そして、シャワールームがワンセットになった小部屋で客にサービスをする。普通のデリヘルと違うところと言えば、シングルベッドの頭側の壁一面がマジックミラーになっていて、その奥に俺たちキャストが適宜座って声をお届けするという、独特な仕様が取られていることくらいだろう。接触が不能であることを重視するなら、デリヘルよりも覗き部屋(これも、店長が言っていた。例えがいちいち古いのだ)と言うほうが形態としては近いのかもしれない。
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