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    あさい(ぼらけLABO)

    @AsaiKmt

    成人済・腐/邪まな目で見て気ままに文字を書きます。

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    POIPOI 6

    次書きたい尾月のイントロ。死刑囚のogtと刑務官のtksmの話。
    半年以上前からチマチマ書いてるけど、全然進まない。

    そのときは、どうぞよろしく。 月島基は重々しい鉄製の扉を押し開け、靴底を擦るようにして通路を進んでいる。足音は鳴らない。片側が壁に、もう片側が鉄格子に挟まれたこの通路を歩むとき、足音を殺すのは月島の癖だ。これは、月島だけではなく、月島たち刑務官共通の癖だった。
     鉄格子の向こうには居室がある。膝高の位置に食事や本のやり取りするために差し出し口がついた銀色の扉が設置されていて、畳まれた布団と簡易な座机が置かれ、素っ気ない洗面台が壁に接着している。取り外しのできる隠し戸とその向こうには剥き出しの便器があり、そのすぐ奥の壁には唯一外と繋がる窓がある。広さは三畳半ほどだろう。とかくこじんまりとした畳敷きの居室の中で彼らは暮らしている。朝にはこの部屋で起床をし、飯を喰らい、夜になれば、この部屋で眠る。監視のためにと夜でも薄明るいこの居室の中、薄っぺらい布団の上に横たわり、廊下の方に頭を向けてひとりで眠るのだ。布団に顔を潜り込ませることすら、彼らには認められていない。
     彼らは死刑囚だ。全員が漏れなく人を殺している。正確には殺したことが事実であると裁判で認定されて、最高刑が選択された者たち。いわゆる凶悪犯と呼称される彼らはここに収容されて、刑が執行されるその日まで、長い長い待ち時間を、死に向かうだけの無為な日々をこの場所で過ごしている。
     全国に八つある拘置所の中でもっとも多い収容人数を誇るT拘置所が、今の月島の職場だった。
     どれだけ足音を殺したところで月島たち刑務官の巡回はすぐに彼らに知れる。格子の向こうから掛かる挨拶やちょっとした雑談に淡々と言葉を返しながら、月島は単独房の中に住むひとりひとりに注意深く目を遣る。特異動向がないかどうか。月島の仕事は、ここに居る彼らを刑の執行の日──死刑執行の日まで死なさずに生き永らえさせることだ。ただそれだけのために、彼らの生活の面倒を見る。ひとりひとりの表情に変わりがないことを確かめながら足を進めていく月島は、南西側の突き当りに位置する房の前でふと、動きを止めた。
     月島が覗き込んだ房にも、ひとりの男が拘置されている。顎に対称についた手術痕が目に付くその顔貌は、一度見るとなかなか忘れることができない、特徴的なかたちをしている。左右対称に、無機質にも見えるほど整然と並んだ顔のパーツの中、異様なまでに黒く光る目がある。
     この男はかつて二人の命を奪った。一審、死刑。彼は一切の控訴をせずに判決が確定し、以後、再審請求も恩赦の請求も一度も行っていないと聞く。
     男の死刑判決が出たその日、月島は当直明けだった。官舎に帰着して少し早い晩酌をしながらニュースを眺めていたとき、コメンテーターがああだこうだと論評を繰り返す代わり映えのしない画面の一番上に速報が流れたことを月島は今も鮮明に覚えている。それは、彼の職業病でもあった。刑務所や拘置所にやってくることになる被告人が気になってしまう。逮捕から公判に至るまで、ついニュースを追ってしまうのだ。だから、「速報 A坂議員宿舎殺人事件・尾形百之助被告、東京地裁、主文後回し」と流れた文字を目に留めた瞬間、月島は無意識のうちに姿勢を正し、食い入るようにその画面を睨みつけていた。
     月島は、当時、矯正管区警備隊で勤務する刑務官だった。月島はしばらく微動だにせず「主文後回し」の文字を見つめた。死刑を言い渡すとき裁判長は判決理由から説明を始めるのが通例だ。すなわち、主文後回しは死刑宣告を意味する。月島はじっと画面を見据えながら、こいつはK菅か、と思った。そうして、姿勢を正したまま、僅かに顔を顰め、のろのろと二缶目になるビール缶に手を伸ばした。
     K菅というのはT拘置所が所在する街の名前だ。刑務官の間ではT拘置所を示す隠語でもある。大都市にある、この国でもっとも規模の大きな拘置所。「K菅」は関東一円の死刑囚を収容している場所でもある。月島はその後三年経たずにT拘置所に異動になり、それからT拘置所勤務が五年を迎えた春に、死刑囚の住処である単独房を受け持つこととなった。
    「運動だ、二十七番」
    「あ。月島さん。今日の立会いはあんたですか」
    「名前を呼ぶな。……ほら。もたもたするなよ」
     二十七番。これは尾形百之助のここでの名前だ。名前というより呼称というほうが正しいだろう。死刑囚ともなると、彼らが敢行した犯罪はどれも発生当時世間を大いに騒がせた。どういう事件のどういう輩が収容されているのか他の死刑囚に知られてはならない。プライバシーというよりか、トラブル防止のためである。凶悪犯同士が結託したり、反目したり、狭苦しいこの世界で人間関係が深まることも、縺れることも、いずれも避けなければならない。そのために、看守は彼らを番号で呼ぶ。
     月島の端的すぎる指示に、「二十七番」はのっそりと立ち上がった。
    「ははぁ。これは失礼いたしました看守部長殿」
     薄ら笑いを浮かべながら、彼は自分の髪を撫でつける。艶やかな黒い髪がはらりと指の隙間から零れ落ち、彼の目を半分ほど隠している。
     月島は尾形の動きを横目で見ながらテキパキと彼の房の扉を開けた若い部下に小さく礼を言った。
     あのニュースを観た日から八年が経過していた。その間に月島は順当な昇進を重ねて看守部長となり、目の前の男は八年、このK菅の地で生き永らえている。
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    あさい(ぼらけLABO)

    MOURNING一風変わったふーぞく店のキャストogtとその客のtksmさんの話。を、書こうとしていて尾月になるまで続かないのでそっと供養。
    寝たいから、声を聞かせて バイトの時給は一万円だった。普通に考えて、高い。そして、冷静に考えれば胡散臭い。Q2とかで有名なテレクラの「テレ」じゃないバージョン。と、入店面接に際して店長から胸を張って説明されたが、ジェネレーションギャップがえぐすぎて理解不能だった。神妙な顔で勤務条件についてやり取りをし、早々にシフトを埋めた帰りの電車で「テレクラ」をスマホで調べてなるほどな、と思った。
    「お待ちしてました。ご指名いただいた『百』です」
     要するに、俺のバイト先は、客に声だけを提供するニッチな風俗店なのである。
     プレイルームは店舗型のデリヘルと大きく変わるところはない。客が変わるごとにシーツと枕カバーを取り換えるだけのシングルベッドと、14インチの小さいテレビと折り畳み式の安っぽいローテーブル。そして、シャワールームがワンセットになった小部屋で客にサービスをする。普通のデリヘルと違うところと言えば、シングルベッドの頭側の壁一面がマジックミラーになっていて、その奥に俺たちキャストが適宜座って声をお届けするという、独特な仕様が取られていることくらいだろう。接触が不能であることを重視するなら、デリヘルよりも覗き部屋(これも、店長が言っていた。例えがいちいち古いのだ)と言うほうが形態としては近いのかもしれない。
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