ヴェントルーが鳥と話している。ベランダに降り立った白い鳩はくるくると喉を鳴らし、それに対して「ああ」とか「そうか」とかヴェントルーは短く答えている。ベランダにでる掃き出し口のサッシを跨ぐように座り込んだヴェントルーはきっと腰が痛いだろうに気にするでもなく座り続けていて、窓枠に頭を預けながら虚空を眺めている。外に出した右足だけはベランダ用のスリッパを履いているが左足は素足のままで、脱力した様子のヴェントルーを気遣ってか白鳩はクーと鳴いた。
「わかった。ご苦労だった」
ヴェントルーが片手を上げて鳩に応えると、鳩はもう一度だけクーと鳴き飛び去った。どうかしたのか?と聞いてもああ、と言ったっきり喋らない。ようやく口を開いたかと思ったら「息子が死んだ」と呟いた。
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