お前の翼落下した瞬間の空気は柔らかく、子どもの頃滝つぼに飛び込んで遊んだことを思い出した。衝撃の後に静寂と浮遊感、息苦しさと達成感がないまぜになって襲ってくる感覚が面白く、擦り傷だらけになりながら何度も飛び込みを繰り返したものだ。そう思うと今とまるで変わっていない。きっと私は何度同じような目にあってもこうやって空を飛んでいるのだと思うと不思議と恐怖は感じなかった。
目を閉じて激突を待つが、その覚悟は大きな翼にすっぽりと覆い隠されてしまう。
「ヴェントルー」
「全く世話がやける」
苦々しげにそう言ったヴェントルーは大きく宙を旋回した。
「今日のところは出直さんか」
「いや、まだだ」
「気づいておらんだろうが怪我をしているぞ」
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