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    ぬい𓌉◯𓇋

    @nui_773

    ぬいです/成人済み/文字を書きます✐☡/支部に投げる前のやつを投げたりしようかな⸜(*⃙⃘˙꒳˙*⃙⃘)⸝

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    POIPOI 22

    ぬい𓌉◯𓇋

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    夏の夜に唐突に海に行くタル蛍(現パロ)
    タ(記憶なし)と蛍ちゃん(うっすら覚えてる)
    付き合ってない、夏の話。

    #タル蛍
    chilumi

    夏の話夏はあまり好きではない。照り付ける太陽にじりじりと肌を焼かれる暑さに、未だに慣れないから。

    ああ、でもせっかくの夏なのだから、彼女と海とかプールとか行きたいな、などと考え、メッセージを送ろうかとスマホを手に取った。それとほぼ同時に彼女から送られてきたメッセージにふ、と口元が緩んだ。

    『今暇?』
    『暇だよ、どうしたの』

    そのメッセージはすぐに既読となった。普段俺がメッセージを送っても、こんなに早く既読はつかない。

    画面の向こうでスマホを握って俺からの返事を待っている蛍を想像すると、少し焦らしてやりたい気もするが、変に引っ張って『やっぱりいいや』と気が変わられても困る。少し迷って、結局すぐ返事をしてしまう。

    『夏らしいことがしたい』

    なんとも抽象的な要望に、俺は頭を抱える。夏といえば、海、プール、夏祭りとか? どこに連れて行けば彼女は喜ぶだろう、と考えたが、結局答えは出なかった。

    『どこに行きたい?』

    逃げとも言える返事をして、すぐに返ってくるであろう彼女からの返答を待った。

    彼女は、二ヶ月に一回くらいのペースで連絡をしてくる。しかも唐突に、日付が変わろうとしている時間に『ラーメンが食べたい』だの、朝の早い時間に『今日遊園地行かない?』だの言ってくるのだ。

    もうちょっと早く言ってくれれば、とは思うが……別に煩わしいとか、めんどくさいとか、そういう風には思わない。むしろ次は何をするのだろうと楽しみなくらいだし。

    もし他の予定が入っていたらどうするか? 簡単なことだ。

    ……俺が他の予定を断ってまで彼女に会いに行っていることを、彼女は知っているだろうか。たとえ知っていたとしても、「別に、私の方断ればいいでしょ」なんて飄々として言うのだろう。

    しかし、俺にとって彼女と会える時間は他の何にも変えられないものだ。この先、何があろうと彼女からの誘いを断ることはないだろう。

    『うーん……海、行きたい』
    『今?』
    『今。無理ならいい』
    『すぐ行く』

    車出して、と彼女に言われてしまえば、俺は頷くしかない。返事をしながらいそいそと服を着替える。
    『待ってる』と彼女からのメッセージににやける口元を誤魔化すことなく財布と車のキーを引っ掴んで部屋を飛び出した。

    『着いたよ』

    彼女の家の前までやって来てメッセージを送りながら車から降りる。彼女の部屋を見上げると、すぐに彼女が部屋から出て来たのが見えた。見送るためか、一緒に部屋から出てきた彼女の兄は、俺をじろりと睨んだ。

    「妹をお願いね。何かあったらわかってるよね」と無言の圧力にへらりと笑って手を振ると、相棒は眉を顰めて蛍に何やら言い聞かせていた。大方「遅くならないうちに帰ってこい」とか「あいつに何かされそうになったら殴っていい」とかそういうことだろう。そんな相棒の言葉に頷いた蛍が、小走りで階段を降りてこちらに走ってきた。

    「タルタリヤ」
    「蛍、お待たせ」
    「ううん、大丈夫。ありがとう」

    素気なくも、ほんの少しだけ笑みを浮かべた蛍を助手席に乗せて、車を走らせる。彼女は口数が多くなく、俺は口数が多い。必然的に俺ばかりが話すことになるが、別に不満はなかった。俺の話に相槌を打つ蛍が、たまに笑顔を見せてくれるならそれで満たされてしまうから。

    途中でコンビニに寄って、コーヒーと肉まんを買って、半分こした肉まんを嬉しそうに頬張り、俺のコーヒーを飲んで「苦い」と眉を顰める蛍に笑いながら蛍の分のミルクの入ったコーヒーを手渡す。

    「君のはこっちだよ」
    「うぇ、ブラックなんてよく飲むよ」

    蛍から受け取ったコーヒーを一口飲みながら、未だ渋い顔をしながら自分の分のコーヒーを飲む蛍を再び助手席に乗せる。

    「俺は大人だからね」
    「対して年齢変わらないじゃん」

    他愛のない会話を交わしながら助手席のドアを閉め、俺も車に乗り込んでエンジンをかける。

    「海、誰かいるかな」
    「さあ? でももう良い子は寝る時間だし、多分誰もいないよ」
    「じゃあ私たちは悪い子だね」
    「少なくとも、こんな時間に出かける子は良い子ではないだろ」
    「あはは、そうかも」

    あっという間になくなってしまった肉まんに、蛍が「もう一つ買えばよかったかな」と残念そうにするから、俺の食べかけを小さな口に突っ込む。

    「むぐ」
    「俺のあげるよ」

    もぐもぐと咀嚼をしてもう半分の肉まんを食べ終えた蛍は、満足そうに息を吐きだした。

    「ごちそうさま」
    「美味しかったね」
    「うん……って、タルタリヤあんまり食べてないくせに」
    「あは。そろそろ着くよ」

    座席に深く腰掛けていた蛍が、ぱっと顔を上げて窓の外を見る。少し遠くに見える海に目を輝かせた蛍が窓を開けると、ざあ、と波の音が聞こえた。

    「到着〜」
    「ありがとう、タルタリヤ!」

    シートベルトを外していそいそと車から降りる蛍に続いて俺も車を降りる。鍵をかけて海岸に続く階段を降りると、真っ黒な海が目の前に広がった。

    「海だー……」

    目を細めながら感動したように声を漏らす蛍に、海だね、と返す。

    「もっとあっちに行こう」

    不意に俺の手を掴んだ蛍がぐいぐい俺を引っ張って波打ち際に駆けていく。珍しくはしゃいでいる蛍に手を引かれて、波がギリギリ届かない位置に立つ。ちらりと隣に立つ彼女の方を見ると、波に反射した月の光が彼女をきらきらと輝かせていて、一瞬息を飲んだ。

    まるで、この世のものじゃないみたいに。

    ちり、と頭に痛みが走って、見覚えのない服に身を包んだ彼女が、ぼんやりと彼女と重なって見えた。ぱちりと瞬きをすると、その影は蜃気楼のように消えてしまった。

    「きれい」

    目を丸くする俺をよそに、目を伏せながら蛍が言葉を溢す。その言葉は、独り言なのか、俺に向けて言った言葉なのか分からなかったから、返事の代わりに繋がれた手に少しだけ力を入れた。この手を離したらどこか遠くへ行ってしまうんじゃないか、なんて考えが脳裏を過ぎったのだ。

    「タルタリヤ?」
    「……あ、うん」

    不思議そうに俺の顔を覗き込んだ蛍にハッとする。頭痛はすっかり消えていた。

    「……よし」

    俺の手からするりとすり抜けた蛍は、唐突に何かを決意して靴を脱ぎ始めた。何をするのか理解した時には、彼女はもう海に向かって歩き出していた。

    じゃぶじゃぶと波に抵抗しながら海の中に入っていく彼女の背中をぼうっと眺める。

    「ふふ、つめたい。……あっ」
    「あ、蛍!」

    無邪気に笑いながらくるりとこちらを振り返った蛍の体がぐらりと傾く。咄嗟に駆け出して彼女の手を掴み、その体を引き寄せる。ぎゅう、と抱きしめて、彼女が無事であることを確認して、ほっと息を吐きだした。

    「だいじょうぶ?」
    「……うん、ごめん」

    俺の腕の中に収まった蛍が、ぱちぱちと目を瞬かせて小さく溢した声は少し震えているような気がした。

    そろりと彼女を見下ろすと、僅かに見えている小さな耳が、少しだけ赤くなっているように見えた。普段何を言っても、何をしてもあまり表情を変えない蛍が、珍しいこともあるもんだ。面白くなって彼女の背中に回した腕に力を込めてみた。

    「タルタリヤ、もう、大丈夫だから」
    「ん〜?」

    聞こえないフリをして、ぎゅうぎゅうと抱きしめてやる。暴れることなく、すっぽりと大人しく俺の腕の中に収まる蛍は、小さくて、温かくて、柔らかくて、かわいい。

    きゅ、と胸をくすぐる感情に眉を下げた。すぐに我に返ったのか、蛍がじたばたと暴れ出す。

    「離して!」

    ぐいーっと俺の体を押して抵抗し出したから解放してやると、蛍は盛大なため息を一つ溢す。

    「助けてくれて、ありがとう!」
    「どういたしまして」

    吐き捨てるように礼を言った蛍が、砂浜に置きっぱなしにしていた彼女の靴の元までずんずんと歩いて行く。

    その背中を追いながら海から出て、そこでようやく水が入ってがぽかぽと音を立てる自分の靴に気がついた。あちゃー、と思いつつ、彼女に触れられたのだからまあいいか、と諦めた。

    「ねえ、怒ってるの?」
    「別に、怒ってない」

    靴を脱いでひっくり返しながら水を出す俺に、眉を顰めてじっとりとした目線を向けてくる彼女はどう見ても不機嫌なのだが。びっくりしただけだ、と唇を尖らせる蛍に思わずキスをしそうになった。

    「蛍……」
    「……ごめん、濡れちゃったね」

    俺の言葉を遮って、水を吸って色が変わったパンツの裾をつんつんと突く蛍が、また一つ息を吐く。

    「……大丈夫。すぐ乾くよ」

    君が無事でよかった、と笑って見せると、蛍は少しだけ顔を歪める。

    「あなたはいつも」

    ぽつり、と溢した言葉が聞こえなくて、え、と聞き返すが、次の瞬間にはいつもの顔に戻っていた。

    「ねえ、花火買ったよね?」
    「え、あ、うん、取ってくる」

    車の中に置きっぱなしだった、さっきコンビニで買った花火を取って蛍の元へ戻る。

    心もとないがコーヒーの入っていた紙コップに水を入れて、砂に埋めておいておく。幸い風はない。備え付けの蝋燭に火を灯して花火に点火した。じゅわ、と独特の音を立てながら花火が弾ける。

    「わぁ」
    「おお、結構すごい」
    「火、ちょうだい」
    「ん」

    両手に持った花火に火をつけて、弾ける火花にふわふわと嬉しそうに微笑む蛍が、その両手を上下に揺らす。

    「火で文字書ける」
    「ほんとだ」

    空中に描かれた肉まんらしきイラストに、ふは、と吹き出してしまった。なぜそのチョイスなんだ。

    「……美味しかったから」
    「ふ、ふふ、まあ、いいんだけど」

    次から次へと光を燃やして、星を描いたり、花を描いたり、暗闇に火のかけらを散りばめていく。

    ふと、蛍が空にくじらを描いた。

    「それ、くじら?」
    「うん」
    「好きなの?」
    「……うん、好き、だったと思う」

    蛍は、消えていくくじらを通して誰を見ているのだろう。どこか遠くを見るようにふにゃ、と目を細めて笑った彼女に、嫉妬に似た感情を覚えた。

    そんな顔、見たことないんだけど。

    「今は好きじゃないの?」

    ぽろ、と零れ落ちた言葉に、蛍は少しだけ驚いたように目を見張った。それから考えるように小首を傾げて俺をじいっと見つめてくる。その視線に何となくドギマギしながら、彼女の返事を待った。

    「好き、かも。……分からない」
    「何それ」
    「ふふ、教えない」

    いたずらっ子のような無邪気な笑みを浮かべた蛍に心臓が大きく跳ね上がった。初めて見たはずのその表情が、以前どこかで見たような気がして首を傾げる。きっとそれは、俺が知らない蛍で、ずっと、ずっと昔の話なのだろう、と飲み込んだ。

    「タルタリヤ」

    ひょこっと俺を覗き込んできた蛍が、ずいっと何かを手渡してくる。それを受け取ると、彼女がライターをカチカチしながらにんまりと笑った。

    「線香花火で勝負しよう。私が勝ったらアイス奢って」
    「よし、受けて立つよ。勝負となれば負けるつもりはないからね」

    地味だが、集中力を必要とする線香花火は割といい勝負になるだろう。その前に、と先程まで堪能していた花火を片付けてからしゃがみ込んで線香花火に火をつける。

    蛍の方をそろりと見ると、ぎゅっと唇を噛んで、少しずつ大きくなっていく火球を熱心に見つめていた。俺も集中しないと、と手元に目線を落とす。

    ばちばちと激しく火花を散らす線香花火は、脆く儚く、一時の夢のようだ、と思った。

    「あ」

    ぽとり、と先に光を落としたのは、俺の方だった。

    「私の勝ち」
    「あーあ、負けた」

    ちぇ、と軽く舌打ちをして未だに輝き続ける彼女の線香花火に目を向けると同時にぽとり、と光が落ちた。

    「あ、終わっちゃった」

    少し残念そうに呟いた蛍に手を差し出す。

    「そろそろ帰らないと相棒からの着信が鳴り始めそうだ」
    「……うん」

    ぎゅっと俺の手を握り返した蛍は、何か言いたげに口を開いて、何も言わずに口を閉じ、少し目を伏せてから小さく頷いた。

    寄せておいた花火を拾い、蛍の手を引いて歩き始めると、心なしか蛍の足取りが重いような気がしたが気にせずに歩く。

    「早いうちにアイス食べに行こう」
    「……うん」
    「なぁに、帰りたくないの?」
    「少しだけ」
    「そっか、でも困ったな。君を帰さなかったら、きっともう俺は二度と君に会えなくなってしまうよ」

    ポケットの中で絶え間なくメッセージを受信し始めたスマホを探り当ててマナーモードにしてやった。そんな俺の手元を見ながら、蛍は分かってる、と聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。

    不貞腐れているような様子の蛍を助手席に座らせてその顔を覗き込む。目を伏せている蛍の頬を撫でて、口を開いた。

    「今日は帰ろう。それで、夏休みが終わるまで、たくさん会おう」
    「うん」
    「いい子」

    ふ、と口元を緩めた蛍の前髪を手で避けて、その額に触れるだけのキスを落とした。怒るかな、と思ったが、予想とは違ってきょとんとしていた蛍が、一瞬間を置いてから額を押さえてうわっと叫び声を上げた。

    「ええ、そんなに嫌だった?」
    「い、いや、というか、びっくりした……」
    「嫌じゃないならいいや。さて、帰ろうか」
    「……うん」

    夏はあまり好きではない。照り付ける太陽にじりじりと肌を焼かれる暑さに、未だに慣れないから。だけど、まあ、それも彼女と共に過ごせるのであれば、少し和らぐような気もするし、夏も悪くはないのかもしれない。

    次はどこに行こう、何をしよう、そんなことを考えながら、助手席に意識を向けると、すうすうと小さく寝息が聞こえて来た。信号が赤になったタイミングで隣を窺うと、蛍は目を閉じていて……眠っているようだった。そんな彼女にくすくす笑いながら車を発進させ、帰路を辿る。
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