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    qcmc8

    @qcmc8

    節操とはなんであろうか。なんでも美味しいです。

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    qcmc8

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    氷室と一人は分け目も何もかも反対、鏡に写したような存在ではという神の啓示により、思いつきました。オチが思いつかなかった……

    #氷K
    #K2
    #ひむずと

    一人との出会いは、村の幼児の健康診断だった。
    市で行われる検診の他に、神代先生と静江小母さんが両親や祖父母から相談を受けつつ、診療所の病室で子供たち同士を遊ばせたりして、基本的には母親を休ませることが目的の集まりと言った方がいいだろう。

    お前と同い年の坊っちゃまだ、と祖父に紹介され、頭を押さえつけられ、
    「こんにちは、ひむろしゅんすけです」
    と頭を下げさせられた。
    「おじいさん、僕には誰にもそんなことさせない
    でいいんです。……こんにちは、ごめんね、僕はかみしろかずとです。また会えたね。僕に頭なんか下げないでいいんだよ」
    淀みなく語る落ち着いた声。こんな子供が、こんな山の中の小さな村にいるのかと、その辺で転がったり、おもちゃをぶっ壊したり、癇癪を起こしたり、母親を求めて泣く幼児たちの中で俺は立ち尽くした。
    同い年という割には、一回りは体が大きく、切れ長の目元、長い手足。
    これより以前、俺と会ったことがある?
    俺にはここが一番古い記憶なのに、こいつはもっと前の記憶があるのか。
    思い出そうと何度も努力したが、本当の初めての出会いが思い出せない。勿体ないことをした。
    当時の俺は、一人の家族にはただ、憧れしか無かった。
    洗練された黒いスーツを着こなし、村から殆ど出ないのに外国語に通じた神代先生と、白衣の似合う、知的で、実際に教養というものを持った、映画や本の中で見る女性のような静江小母さんと、ふたりの良い所と静の部分が凝縮したような一人。
    いつも執事の村井さんや、お手伝いさんたちに傅かれる、公子様。
    反感を覚えなかったと言ったら嘘になるが、彼は俺や年下の子らに頭を下げさせたり、従わせようとはせず、村の大人たちからの特別扱いを拒んだ。その姿勢は、分別のないクソガキから見ても非常に好ましかった。

    そこから、仲良くなるのに時間はかからなかった。
    いつもひとりで本を読んでいる一人の周りには、遠巻きな子供しかおらず、そんなことを気にしない俺は、一人の手を掴んで虫取りに行ったり、サッカーしたり、まあ、何やかんや日が暮れるまでした。
    雨の日は診療室のテーブルでふたりで本を読むことになり、村井さんや静江小母さんに字や計算を教わり、小二の頃には東京の名門中学受験レベルの問題も、半ばキレながらやっていた。一人ができるのだから俺にも出来ると挑んでは、一人の方が一歩先を行くのだ。
    体育も、図画工作も、家庭科も、音楽さえ絶対かなわない。
    やがて、愛想良く活発に、つとめて明るく過ごせば、周囲の好意的な視線だけは俺に集まることがわかった。
    体力、運動能力ともに俺は一人にはかなわないが、一人は学校でもいつも小難しい本を読んでいて、何を考えているのか分からない、茫とした少年に育ったので、女子にも男子にも大人にも俺の方がモテた。
    八方美人が災いし、休み時間も放課後もひっぱりだこになった俺は、一人から見えるところで、一人が下校するまでという条件をつけた。
    校庭から見える教室や、図書室で持ってきた本を読み、授業とはまた別にノートを取り、ある程度の時間時なると学校の生徒たちに挨拶をし、帰路に着く一人が、声をかけてくれると、初めは引き止めた連中も諦めてくれた。
    彼らも一人のご両親と村井執事には世話になっているから、悪意は抱かない。ただ、彼にどう接していいのか分からないので、腰が引けているのだろう。

    帰路で追いかけっこしたり、横道に逸れて怪我をして一人に手当てして貰うこともよくあった。足を派手に怪我して、ランドセルや諸々の道具ごとおんぶして貰った時は、化け物かと思った。自分の本やランドセルだってあるのに、それらを小脇に抱えてスタスタ歩いて、
    「傷に響かない?痛くない?」
    とか、もうすぐだからねとか、気遣ってくれた。
    いつの間にそんなバカぢからになってたんだ。いや、体幹とはこういうことかと思い知らされたのだ。
    口から生まれたようと評される俺とは違って、余計なことは一切言わず、俺の話に頷くだけの大人しい一人に、何もせずに敗北を喫する日々は続いた。

    土曜日の授業の後、診療所でお昼をご馳走になっていた時に、静江小母さんがぽつりと言った。

    「なんだか、正反対ね。この子たち」

    その言葉に、村井さんと神代先生が、ダイニングテーブルに並んで座っていた一人と俺を交互に見た。
    「ああ……本当だな」
    「これは、気付きませんでしたな」
    お仙さんの料理が美味しくて、ガツガツと食べて口の周りを汚してた俺と、表情も変えず跳ねのひとつも起こさず食べるお上品な一人。
    確かに正反対だけど、それ、今に始まったこと?
    顔立ちも、全体に丸っこい印象の俺、お人形みたいな一人。
    性格も、行動も、興味の対象も、もう挙げた。
    まだほかになんかあったっけ?
    個体差はあれど、髪の色も目の色も肌の色も同じようなもんだし……。

    「鏡で合せたみたいに、髪の分け目まで逆なのね。あなたたち」

    小母さんがニッコリ微笑むと、小父さんも村井さんもつられて笑みを浮かべ、
    「ああ、本当だ。これは興味深いな」
    「ふたりの火と水のような部分にばかり、気を取られておりました」
    と口々に感嘆を漏らした。
    「へ?」
    俺は間の抜けた声を上げ、いつもの癖で変な顔になっていた、と思う。分け目?そういや逆かもな。いやでも、今?さも重大なことみたく?
    これみよがしに、深くため息をついて見せる一人。
    「お父さんもお母さんも、村井さんも気付いてなかったの?」
    「ええ。今奥様のご指摘があるまで、とんと」
    村井さんは頭を掻きながら小さくなっているけど、小父さんは特に変化もなく、一人に向き直すと、
    「一人は気付いておったのか?」
    そう、問いかけた。
    「当たり前じゃない。俊介と何年一緒にいると思ってるの?自分のカガミとして、相手をよく観察しろって言ってるの、お父さんだよ」
    「ハハハ、これは参ったな」
    「一人は俊くんが絡むと、途端に冴えるのよねえ。普段もそうならいいのに」
    「はははは、奥様、俊介くんは坊っちゃまにとって、それくらい大きな存在なのでしょう」
    「こんなに小さい村の中で、一人はいい友人と出会えたな」


    そんな一コマを、他者を通して見る社会というようなテーマの講義の間、思い出していた。

    あの日の小母さんの言う通り、俺たちは鏡像なのかもしれない。
    村の中から出られない一人、国まで飛び出した俺。
    患部を取り去る外科の技術を徹底的に叩き込まれた一人、遺伝子と内科領域から病にアプローチする俺。
    冬の朝の湖のようでいて、火がつけば燎原の焔のように焼き尽くすまで収まらない性格のあいつと、松明の炎のように周囲を照らしはするが、怒りの力が持続せず、誰にでも合わせて生きてきた、よく言えば流れゆく水のような俺。

    ひとつだけ正反対じゃないといいと、願うことがある。
    あいつも、そう思ってくれているだろうか。
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