「隈だ。ちゃんと寝てる?」
事務所の廊下ですれ違った拍子に、ずいと迫ってその顔を覗き込む。それらが刻まれた目元へ手を伸ばしかけると、「うわあ」という大げさな声とともに後退られた。
ドッキリでもあるまいし、そんな過剰に驚かなくても。そのように思った懸念な顔が見えてしまったのか、相手は「すみません」と眉を下げた。
「ちゃんと寝てます」
「ふうん。じゃあ昨日は何時に寝て、今日は何時に起きた?」
「昨夜は日付が変わる前に寝て、今日は朝七時に起きました」
間髪入れずに返ってきた答えに隙はない。だが、惜しかった。
「嘘つき。今撮ってる映画、現場が押してるって聞いたよ。このところきみの出番が集中していて、スケジュールも毎日詰まってるって。そんな状況で、零時前なんて温い時間に寝られるわけがないでしょう」
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