ベタって言わないでくれ それは、ツンッと鼻が痛くなるような寒い冬の朝だった。
「はいこれ、やるよ」
付き合って3年目の冬。12月に入ってから一気に寒さの増したガラルでは街中の至る所にホリデーの飾り付けがされ始め、夜になると街中がまるでおもちゃ箱のように輝き、賑やかな姿となる。朝食を終えたリビングで、無造作にキバナから渡された平べったい箱は、1から25までの数字が順に書かれており、ツリーやリース、雪だるま。おもちゃ箱の街並みをそのまま写したような見た目の物だった。
「……これは?」
「アドベントカレンダーってやつ。この間見つけてさ。ちょっと面白そうだなって」
「おお!これがあのアドベントカレンダーなのか」
「あのって?」
「この間ハロンに寄った時、母さんと家にお茶をしに来ていたソニアがドラマを見ていてな。そこに出てきてたんだ」
「へぇ……」
「これ、一日ずつこの小窓を開けてくんだろう?」
「うん、それで合ってる」
「今日の、今開けても良いか?」
「良いけど……」
「おっ!ポケモンの形をしたチョコだ!可愛いぜ」
コロンっとワンパチの顔を模ったチョコを見て顔を綻ばせたダンデは、好奇心を隠せない顔で次の日の箱にも指を掛けようとする。
「こらこら。こういうのは毎日一つずつ開けるのがルールだって」
「それ、ドラマのヒロインも言われてたな。とてもせっかちな性格だったらしくて、オレがテレビ画面を観た時には、彼氏から貰ったアドベントカレンダーを貰ったその日に全部開けてしまったんだ」
ピクリっとキバナが一瞬だけ片眉を上げる。それが、彼の動揺する時の癖であることを知っているダンデは首を傾げるが、何が彼の動揺を誘ったのかいまいち分からず、そのまま話を続ける。
「なんと、そのアドベントカレンダーの最後の小窓に、プロポーズ用の指輪が入ってたんだぜ!ソニアと母さん、それ見て『ベタだけど、ときめくー!!』って大騒ぎしてた……キバナ?」
いつの間にか、キバナはダンデが持っていたアドベントカレンダーを取り返し、ギュッと両腕で覆い隠すように抱え込んでいた。心なしか、顔が汗ばんで視線が狼狽えているようにも見える。
「なあ」
「やめろ、それ以上何も言わないでくれオレさまの心の安寧の為にも」
「すまない、えっとだ……つまり、オレ……ええとその。最悪なタイミングで、最悪な事を話したんだよな……えっとだ、えっと。あっ!!オレは、ベタな展開も好きだぜ」
「やめろよ傷を抉んなって」
そこで漸くダンデは確信する。幸せが詰まっているのだろう小箱を抱えているキバナを逃すまいと、ダンデはアドベントカレンダーを反対側から掴んで離さない。いよいよもって顔から煙が出てきそうな顔をしたキバナは、取られまいと引っ張り返すが、強く引っ張ったら箱が崩れてしまう事を懸念してるのか本気では引っ張れないようだ。成人男性2人で、やや遠慮気味で静かな引っ張り合いをした後、やがて観念したようにキバナは箱から手を離す。
「良いのかよ。きっと女性陣がいうようなベタな展開が待ってるぞ」
期待と、ちょっとだけの不安。それが混じったキバナの言葉を聞いて、いよいよダンデは蕩けるように笑う。
「25日の小窓、今すぐ開けても良いか?」
「バカ!そういうのは1日一つずつ開けるのがルールだって言ってんだろ!」
カーテンから差し込む朝日が、二つ並んだカップを照らしている。まだ冬は始まったばかりだが、今年は何時もより賑やかで特別なものになりそうだ。そんなことを考えながら、ダンデは幸せそうに笑うのだった。