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    てぬたろ

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    てぬたろ

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    #TPVワンドロライ
    4月15日、お題「WE」「願いごと」より
    ATSV ミゲミゲ(パパ×928)

    ※しネタです。
    ※パパミゲが凶弾に倒れる場面のお話です。

    僕は君の影踏むばかりパシ、と乾いた音。
    姿も声も魂も同じ形をしたもう一人の『ミゲル』が目を丸くしてこちらを振り返った。
    「どうしたんだ?」
    「蜘蛛がいたから。」
    手のひらに潰されて動かなくなった蜘蛛が乾いたように固まって俺の目の前に転がっている。『ミゲル』は死がいを指先でつまみ上げると小さなゴミ箱のポッカリと開いた丸い口へと落とした。
    「普通の蜘蛛だったな。」
    「珍しくもない蜘蛛だ。君も蜘蛛には詳しいだろ?」
    「もちろんだ。俺も君と同じ分野を研究してるから。」
    『ミゲル』がなぜ「普通の」と言ったのか俺にはわかりかねた。
    「逃がしてあげればよかったのに。あの蜘蛛は別に悪さなんかしないんだし。」
    日当たりのいいリビングの窓を指さした彼にそう言われて、何気ない彼の言葉に俺の胸の中心が針で刺されたかのようにうずいた。今まで室内に蜘蛛が這っていたら「普通」にそうしてきたという漫然な習慣に指をさされたようでやるせない。
    「……悪いことをしたな。」
    「次は俺が窓を開けるから、君が逃がしてやってくれ。」
    そんなことを彼が言ったその日のことがずっと心に引っかかって忘れられずにいた。

    腕の中にいる事切れた彼の体を抱きしめながらその日のことを俺は思い出していた。彼を助けたかっただとか、救えたんじゃないかとか、そんな事を考えながら、俺はあの日のことを思い出していた。
    「俺もヒーローになれたらよかったのに。」
    「君は君のままでいい。そのままでいてくれ。」
    「君はそう言うと思ったよ。」
    がっかりもせず最初からわかっていたという顔で『ミゲル』は笑った。
    「……俺は君のようになりたい。」
    「そんなのだめだ。君にはかっこいいヒーローでいてもらわないと。俺の夢なんだから。」
    結婚生活も失敗して、…娘の成長を見守れるのはもちろん幸せだ、でも仕事もうまく成果をあげられなくて、最近は俺自身にいいことなんて何もないんだ、と彼は立て続けにやはり笑いながら言う。そんな俺にはきっと訪れない人生を語る彼が眩しくて彼のように笑うことができないでいた。
    「悪くないじゃないか。俺は羨ましいよ、君が。」
    「そうかな?俺は君が羨ましいのに。君は俺が羨ましいのか?」
    「もし選べたら、俺はヒーローにならない道を選んでいたかも。」
    「もったいない気がするけど。俺たち、同じなのに正反対のことを願ってて、変な感じだ。……でもだから気が合うのかも、ほらS極とN極みたいに。」
    「……そうかもな。」
    ちょうどその時、俺の右手の甲を蜘蛛が這った。俺はなんの感慨もなく左手で蜘蛛を叩いた。
    パシ、と乾いた音。

    あの日、笑顔だった『ミゲル』は失われてしまった。
    もし君が俺で、俺が君だったらどれだけ良かったか。きっと君は俺より上手になんでもできてだろうし、俺がなれなかった本物のヒーローになれたんだろう。もうずいぶんと流していなかった涙の雫が頬を伝い、彼の青ざめた頬にハタハタと落ちていく。
    「せめて君のそばにずっといられたらよかった。」
    そうしたら守れたかもしれなかった。
    「俺が変わりに撃たれてしまえばよかった。」
    銃弾ひとつくらいこの体ならどうってことない。
    「……。」
    違う、と思った。それ以外のなにかが内側からミゲルの喉を、心臓を、無惨に破り裂いて外の世界に飛び出そうとしている。
    「……。」
    血と涙に濡れて一層に冷たくなった『ミゲル』の体を強く、強く掻き抱いた。こんな人生の終わり方をした彼がやはり俺は羨ましくてならなかった。
    もし本当に君が俺で、俺が君だったら、君は俺を救えたんだろう。君に救われる俺は世界一の幸せ者になれるのだろうし、もし君に救われなかったとしてもこうして君の腕に抱きしめられるなら。
    「……。」
    彼の亡骸を抱えながらそんな事を考える自分自身を俺は心から軽蔑した。
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    てぬたろ

    DONE #TPVワンドロライ
    4月20日、お題「蜘蛛」「ヒーロー」より
    ATSV ミゲミゲ(パパ×928)

    ※いずれミゲミゲになるミゲとミゲ
    ※99ミゲがパパミゲを特別だと意識するきっかけのお話
    君がそう呼ぶのならばモニターとスクリーンだらけのオフィスでミゲルは今日も仕事をしていた。オレンジ色に発光する光の粒子ばかりを見続けていると、太陽の陽の色を忘れてしまいそうになる。それが健全が不健全で言ったらもちろん後者なわけなのだけど、使命に駆り立てられているミゲルにとってはどうでもいいことだった。
    あらゆる次元のスパイダーマンを観測できるようになってわかったことがある。
    ひとつはあらゆる次元の『ミゲル・オハラ』を観測してみてもスーパーパワーを得るのはこのアース928の『ミゲル・オハラ』、つまり自分だけだということ。
    ふたつめは蜘蛛から直接スーパーパワーを得ていないのは自分だけだということ。
    無限に広がる数えることもバカバカしくなるの次元のすべてを見たわけではないのだから、本当にミゲルが一人きりであるとは言い切れないにしても、ミゲルに孤独感を感じさせるには十分だった。孤独は胸を押しつぶすような不安をミゲルに与え、安らぎから遠ざける。他の次元のスパイダーマンと関わるようになって少しは孤独感が薄れているかもと思うこともあったが、顔色は一向に悪いままだった。
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    てぬたろ

    DONEセステオ(24話後)

    スミルナアンドカプリ
    セスとテオと香りのお話。
    セスの恋心が周りからみてもわかりやかったらかわいいです。

    ※セスがペトロとある程度打ち解けてます。
    香る恋心手に緑色を詰めこんだ籠を持って、セスは軽やかにペセルス城の長い長い階段を降りていく。足元でちょこちょこと精霊たちもセスと階段を一緒に降りていく。
    かつてはセスもランジェレスにあった城に暮らしていたとはいえ、このペセルス城はそれよりももっとずっと構造が複雑だ。オデアの首都にある城より小さいはずだが、ペセルスの城内を把握するためにあちこち散歩をしてはときどき迷子になった記憶はまだ新しい。とはいえここでセスに許されていることは少なかったから、城内とその周辺を歩き回るほかにすることもなくてセスが当初危惧していたよりはずっと早く把握できていた。
    すっかり慣れたペセルス城の台所へとセスはやってきて、使用人の中から見知った顔を探す。お昼すぎのこの時間帯、彼女が書斎にいるテオのためにお茶を用意することもセスはしっかり把握していた。歩くことに疲れた精霊たちはセスの頭と肩の上から探すようにキョロキョロとしている。もしかしたらセスの真似をしているだけかもしれなかった。
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