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    iori_kakei

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    iori_kakei

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    10/31のフォ学オンリーに向けて書いていた最初の部分。イベストを先に読まずに書き始めたため、どうしようもないミスがありボツに……はい……カイオエの出会い方が違いますね……。さすがに、もったいないので、ここに供養……Ω\ζ°)チーン

    ボツになったフォ学カイオエの出会い部分 私立フォルモーント学園。
     近隣でも名高いまったく方向性の異なる三つの高校を統合し、一つの巨大な学園都市を作り上げた。
     学園の中心は統合した三校――進学校、芸能校、不良校であり、三つの校舎を中心に世界を牽引すると謳ってもおかしくはない様々な分野の研究施設が据えられ、多くの産業施設のみならず郊外では穏やかな田園風景やら酪農場が広がる。新しい校舎建築に伴い学園周囲の施設も着工していただけあって新しい空気が渦巻いていた。
     学園の設立は元々話が進められており、実際の統合と新校舎への移動はカインが三年進級時に成った。今までの校舎が名残惜しくも、新校舎は様々な設備が兼ね備えられており、彼のように配信メインの活動を行う学生へ手厚い保護も行ってくれると聞く。
     どこもかしこも新しい校舎に目を輝かせながら、カインは大きな正門を抜け芸能棟へ向かう。
    「カイン先輩っ」
     手元の案内図を見ながら歩いていると後ろより聞き慣れた声がカインを呼び止める。
    「おっ、ヒース! おはようっ」
     振り向いたカインは、駆け寄ってくる後輩へニカっと人好きのする笑みを向けた。
     多くの芸能事務所が本社を置く経済都市の中心にあった芸能校は小中高とエスカレーター式だった。その中で今回、高校だけが学園都市へ一足早く組み込まれる。カインへ声を掛けてきた二年生のヒースクリフは中学校時代の後輩だ。
     華やかな美貌のヒースクリフは小柄でも格好良さを売りにする一つ年下の幼馴染とアイドルユニットを組んで活躍している。
     いつもは従者の如く控えている幼馴染が見当たらず、カインはキョロりと近くを見渡す。彼が言わんとする疑問に気付き、ヒースクリフは苦笑がてら肩を竦めた。
    「シノは午前中、単独の撮影があるからパスしているんだ」
    「そうか。ま、先に新しい校舎を探検して、どんな設備があるのか教えやるか!」
     また同じ校舎で学べられると喜ぶ彼へ同意を示しつつ、不意に静まり返る周囲を訝しむ。
    「あ……」
     怯えた声を出すヒースクリフは徐々に青褪め、皆が見ている方角へ顔を向けたカインはなるほどと思いつつも、ある一点で双眸を見開く。
     爽やかな朝の空気が似合わない集団は素行不良が服を着て歩いているようなものだ。
     全体的に黒く、元は学ランだったものを独自に改造していたり着崩していたり。なんにせよ、悪そのものな集団の戦闘を歩く男に誰もが目を奪われる。
     凶悪で、凶暴で。しかし、艶めかしい夜を詰め込んだ色香に溢れた妖艶な男は世が世なら帝王にでもなっただろう。鮮血じみた髪はざんばらなのにだらしなさがなく、眠たげなエメラルドの瞳は気怠げで妖しい。
     今回、芸能校と進学校から統合相手として問題だと大反対された不良校の生徒だ。
    「twins wisの看板モデル、ミスラ……。ほ、本当に不良校の生徒だったんだ……」
     怯えたヒースクリフの呟きが素通りする。
     カインの意識は、ミスラに片腕を捕まれ、引き摺られるようにして憮然と歩く細身の青年へ集中する。
     朝日に照らされ煌めく灰色掛かった銀糸が柔らかく風に揺れ、ふわりと浮きかけた学帽を鬱陶しげに抑える細身の青年は、カインの隣に立つヒースクリフとは別種の研ぎ澄まされた美貌を持つ。
     そして、嫌そうに顰められた眉宇の下、長い睫毛に縁取られた色違いの瞳に言葉を失う。
     黄金と紅玉のオッドアイ――。
     カインの双眸は限界にまで見開かれ、食い入るように彼の瞳を注視する。
    「げえっ、ミスラにオーエンじゃねえか! なんだって、こんな朝っぱらから真面目に来てんだよ」
     また別の方角より現れた黒い集団の先頭を歩く体格の良い色男が嫌そうに声を上げる。
    「はぁ……おはようございます、ブラッドリー。ちゃんと遅れずに登校するなんて偉いですね。褒めてあげます」
     一度足を止めたミスラは怠そうに朝の挨拶を向け、もう一つの集団を率いてきた男を見下ろす。つい……と、ブラッドリーの斜め後ろに控えている水色の髪を持つ青年を一瞥し、彼らの後ろでびくびくと身を縮こまらせている集団を眺める。
     やたら上から目線のミスラへ苛つくものの、ブラッドリーは朝から面倒な顔を見たと深く溜め息を吐き、ミスラに捕獲されたオーエンを見下ろす。
     普段はなんであれ、皮肉げに挨拶をしてくるオーエンが口を閉ざし、感覚を研ぎ澄ませていく様を肌で感じる。このままでは遅かれ早かれ暴れるだろう。
     後ろに控えている水色の髪を持つ相方、ネロへ目で指示を出せば一つ頷きが返された。
     ネロが無言で後方の集団へ手を振ると彼らはホッと安堵し、一刻も早く逃げるべく足並みを揃えて水色の頭に導かれながら新校舎へ向かう。自然とミスラに引っ付いていた集団もネロの後を追う。残されたのは三人だけで、ピリピリと肌を突き刺す不穏な空気が流れる。
     不幸なのは芸能棟へ向かう生徒達だ。
     なぜか、芸能棟は不良棟の隣にある。本来は進学棟が中央に設置されるはずがとても発言力の強い大人達により不良棟から遠い場所へ設置されていた。反対に芸能棟は各芸能事務所及び保護者や学園から依頼を受けた複数の警備会社がひしめき合っている。
     このまま時間が過ぎれば警備員が乗り込んでくると事前に説明を受けていた不良校のトップスリーは理解していた。その上で、ミスラに道を譲って貰いたいブラッドリーと。彼がなにを望んでいるのか微塵も考えていないミスラはどこまでも平行線を辿る。
     そんな中、オーエンは捕らえられた片腕を引き抜こうにも微動だにしないミスラへ溜め息を吐き、いくつも突き刺さる無粋な視線に不快感を強め、苛立たしさを露わにしながら立ち止まっている芸能科の生徒達を睨み付けた。
     冷たく獰猛な眼差しにヒースクリフだけでなく、何人もの生徒が小さく悲鳴をあげる。
     カインは、色違いのオッドアイから目を逸らせず。信じられない思いで見つめていると不意にオーエンと目が合う。
     ザザッと木の葉を揺らし、二人の間を吹き抜けていく爽やかな風。威圧感を覚える鋭い眼差しがゆっくりと瞬き、形良い瞼が大きく持ち上がる。カインの耳は音を拾わず、風に誘われて上向く学帽が外れていく様がコマ送りのように見えた。
     持ち上がる互いの前髪。
     ひたり、重なる視線は驚きに染まる。
     オーエンは、少し離れた位置で呆然と佇む紅茶色の髪を揺らす生徒から目が離せない。
     やけに長い左の前髪が風で捲れ上がり、露わになる紅玉の輝き。
     黄金と紅玉のオッドアイは鏡を見ているようで。成熟一歩手前の整った男らしい顔立ちと、薄く開かれたぽってり厚めの唇にごくりと喉が鳴る。
     意志の強さを示す眉と、真っ直ぐに注がれる眼差しの真剣さを受けて肌が粟立つ。
     ハッと、一つ微かな熱を孕む息を吐いて佇むオーエンに、カインは己の下腹部に熱が集まるのを察する。
     無意識に。あるいは、そうあることが自然なようで、二人は同時に一歩を踏み出す。

     パパンッ――。

     当然の乾いた大音量に二歩目は地に縫い付けられた。
     ハッと我に返った二人の間を新たな風が吹き抜け、緩やかな時間が濁流のように流れ出す。
    「おっはよー、生徒諸君! 早う教室へ向かわねば遅刻じゃぞ!」
    「おっはよー、生徒諸君。ほほほ、清々しい朝じゃのう。急がねば全校朝礼に間に合わぬぞ」
     色とりどりの紙吹雪を撒き散らしながら突如として現れた双子がクラッカーを片手に声を張る。
     睨み合っていたミスラとブラッドリーは忌々しげに舌打ちを鳴らす。
    「ブラッドリー、そこまでじゃ。約束したであろう。今日だけはおとなしゅうすると」
    「ミスラよ。オーエンを連れて早う教室に向かうが良い。でなければ報酬はないぞ」
     約束の言葉に顔を歪め、ケッと不快感を吐き捨ててブラッドリーは足早にミスラの横を通り過ぎ、新校舎へ向かう。気が削がれたミスラはくわりと大きく欠伸をし、なにやら呆然としているオーエンを訝しみつつも引き摺って歩き出す。
     強く掴まれた片腕を振り払えず。地に落ちた学帽が風に転がされ、カインの足元へ向かう様子を見つめながらオーエンは最後まで自分と同じオッドアイを見つめ続けた。
     不良達がいなくなればそこかしこで安堵の息を零す芸能科の生徒達。
     ヒースクリフは佇んだままのカインを心配そうに見上げ、そっと彼の片腕を突く。
    「カイン先輩。俺達も行かないと……」
    「あ、あぁ……」
     オーエンの姿が見えなくなって初めてカインは気を取り直す。ふと、進もうとした足元に留まる学帽に気付いて拾い上げた。
     学帽というよりキャスケットに近い形状の帽子は小さくて。ふわりと漂う冬の朝を思わせる澄んだ香りに唾を飲む。
     ヒースクリフがなにか言う前に学帽を握り締めてカインは晴れやかな笑みを浮かべ、恐る恐る歩き出す他の生徒達へ振り向く。
    「早く行こうぜ! 新しい校舎を俺達の色に染めてやらないとなっ」
     随分な物言いだが茶化した口調は笑いを誘い、青褪めていたヒースクリフも頬を緩ませながら軽くなる足取りで新校舎へ向かった。
     統合後、初の全校朝礼はいくら体育館が大きくとも生徒すべてを収容出来るはずもなく。各教室にあるモニターを通して行われた。
     そこで紹介された各校の生徒会長は見事にそれぞれの校風を模しており、若手タレントとして活動している芸能校の生徒会長ルチルの美貌すら圧倒する妖艶な不良校の生徒会長ミスラと、凛々しくも穏やかで正統派王子様然とした美形のアーサーに芸能科の生徒達は騒がしい。
     そして心配する。美しさは負けていなくともカリスマ性は圧倒的に差がある。
     微妙に進学校の生徒会長とキャラが被っているように思えた。
     これは……芸能校として負けていられない。ポヤポヤと天然な自分達の生徒会長を盛り立ててやらねば――と、妙なところで芸能科の生徒達はまとまる。
     そんな中、面倒だと。ついでに俺が一番強いんで……とだけ言い残し、挨拶を終えたミスラを不良校の生徒達は誰も見ていない。
     自由に過ごす彼らは学校が統合しようがどうなろうが関係なかった。
     ただ一人。机上に双子の手で菓子を山盛りにされたオーエンだけは朝の光景が忘れられず。ぼんやりと包装を破って飛び出したチョコレートの甘さを堪能しながら目に焼き付いて消えないカインを思う。
     カインもまた、机に突っ伏しながら腕の中へ囲い込んでいる小さな学帽を見つめていた。

     波乱万丈になると思われていた三校統合は思いの外、順調な滑り出しだった。
     他の二校を気に掛けず、ひたすら勉学に勤しむ進学科。
     元より芸能活動中心で学園生活もそこそこな生徒が多い芸能科。
     どこであろうと我を通しつつ、圧倒的なカリスマ性と力を持つミスラと他の追随を許さぬ統率力を持つブラッドリーによって最低限の統制が取れている元不良校現普通科は互いの縄張りを踏み越えない限り、それなりの付き合いをしている。
     最初こそ不良達に怯えていた芸能科の生徒達だが、たった数日で役作りのために彼らを観察したり、時には明るく声を掛けたりと刺激的な隣人に慣れつつある。
     カインもまた落ち着いた日常を送る一人であったが、数日前の統合初日に拾った学帽を返せないまま学生鞄に保管していた。
    「……また、こいつか」
    「カイン先輩? またって……あの例の人ですか」
    「あぁ。……はぁ、相変わらずキッツイなあ、コメントが」
    「もう、ブロックしたらどうです?」
     昼休みの学食で食べ終えたトレイを片付け、食後の紅茶を楽しんでいたカインは手にするスマホを見て溜め息を吐く。
     向かい側で優雅に紅茶を楽しむヒースクリフは誰のことか思い当たり、困り顔で苦笑しつつアカウントブロックを勧めても実際はしないだろうなと胸の内で呟き、器用に文字を打ち込むカインへ肩を竦めた。
    「おい、奥様手製のレモンパイ、温め直してきた」
    「シノ……朝も母さんのレモンパイ、食べていなかったか?」
    「ふふん。奥様のレモンパイだけで俺は生きていける」
     艶やかな黒い短髪に包まれた小顔は子猫のような愛らしさを感じさせるものの振る舞いの男らしさがギャップ萌えだと人気を博するシノは片手のトレイにほかほかと湯気を立てるレモンパイがある。
     ヒースクリフの母親手製レモンパイが大好物な彼は嬉しそうにテーブルの置いた皿を見下ろし、銀のナイフだけで綺麗に切り分けていく。
    「そういえば、レモンパイを取りに教室へ戻った時、例の歌声が聞こえた」
    「例の歌声……て、歌の妖精?」
    「うん。まだ統合して数日なのに学園七不思議の一つになっている奴だ。……ちょっと、聴き入ってしまうくらいに上手かった」
     悔しげに顔を顰める幼馴染のシノへさもありなんと苦笑し、ヒースクリフも一度だけ聴いた歌声を思い出す。芸能科の誰かだろうと当初、噂された歌声はこの世のものとは思えない美しい旋律を奏でる声は七オクターブ、いや、八オクターブはある。
     声楽専門の生徒達は真剣に聴き入り、男とも女とも取れる美声は妖精のようだと。それから歌の妖精と噂されるようになった。
     これが芸能科の誰かならばまだしも、声楽専門の生徒らが人海戦術で探った結果、他校の可能性が高まり一時騒然となる。中には自身が所属する芸能事務所にも問い合わせをする猛者も出た。
     歌声の持ち主を探そうと動けば途端、歌は途切れてしまう。
     嫉妬すら湧かない歌声を聴いていたい気持ちが強く、最近は誰も探そうとしない――否、歌が聞こえる教室と方角を示し合わせば、どこから聴こえて来るのか自ずと知れたため捜索を断念したとも言える。
    「……それって確か、普通科の校舎から聴こえてくるって噂の?」
     特定の教室にいる生徒だけが聴く歌声をカインはまだ耳にしていない。ただ、三年生の間でも有名な歌の妖精について興味はあった。
    「噂と言うより……間違いなく、隣の敷地から聴こえてくるんだ。だから……その……不良の誰かじゃないか、て……」
    「ネロに聴いたら、探さないようにって凄まれた。ああいう顔をするとネロも不良なんだなってわかる」
    「こら、シノ!」
     普通科の生徒であるネロは珍しく真面目で人当たりも良く、購買部でバイトしていることから他校の生徒とも関わり深い。しょっちゅう腹を空かせるシノは購買部に駆け込む回数が多いこともあり、ネロとも親しい関係だ。そこからヒースクリフも顔見知りとなり、彼の繊細な気配りと人柄に触れて懐いている。
    「ネロがそう言ったってことは……間違いなく普通科の生徒か。一度、俺も聴いてみたいな」
     三年生の教室は進学科寄りだ。
     普通科側は一年生と二年生の一部のみ。噂を聞いた三年生が教室へ赴いても必ず聴けるわけではなく。三年生の間で歌声を耳にしたのは一人か二人だろう。
     小皿に切り分けられたレモンパイのお裾分けを頬張りつつ、カインは教室にある鞄の中身へ想いを馳せる。
     自分と同じ黄金と紅玉の瞳を持つ彼に会いたくて何度か普通科の校舎へ顔を出した。
     行き交う生徒へ特徴を伝えると誰もが青褪め、怯えながら逃げていく。もしや、とんでもない人物なのか不安を抱くも、無性にオーエンと呼ばれた彼が気になる。
    「そうだ。ネロが学帽を返すなら預かるって言っていたぞ。なんでも、オーエンという不良はトップツーらしくて強い上に心を壊しに来るとかなんとか。そいつと喧嘩をした奴で行方不明者も何人かいるらしい」
     カインが学帽を渡そうとしている件について知っているシノは、ネロにそのことを告げた。
     穏やかなネロの顔が途端に強張り、絶対に近付くなと念を押されたシノは、教えられた話に盛り過ぎだろうと軽く笑う。
     レモンパイへフォークを差し込んでいたヒースクリフの手が止まる。
     ごくりと喉を鳴らし、周囲を軽く見渡して、そうっと声を潜めた。
    「あの、さ……。東の芸能事務所に所属していた三年のモデルで今年から歌手デビューを控えていた人がいたよね」
     三年なら一通り顔を知っているカインは、モデル活動が忙しくて滅多に登校して来なかった男子生徒を思い出す。
     統合後、珍しく一日だけ登校してきた彼はやたらとカインに歌手デビューするのだとひけらかし、配信でしか歌を聴いてもらえないなんて芸能科にいる必要があるのかなど突っかかって来た。
     芸能科に所属していながら事務所へ所属せず、配信メインなのにアカウントフォロワー数が百二十五万という化け物クラスの人気を誇るカインをやっかむ生徒は少なくない。今までもよくある手合いで、この男子生徒は一年の頃よりカインを目の敵にしていた。
     当のカインは気にすることなく、そうか良かったなと嫉妬の欠片もなく純粋に祝った。
     そのことが男子生徒の羨望と妬心をさらに煽るなど知りもせず。
     トップモデル並みに顔が良く、幼い頃より剣道や馬術を嗜んでいるおかげで軍人のように鍛えられた逞しい肉体を持つ。明るく裏表ない性格と野生じみた勘の良さ。頭脳も芸能科の中ではトップクラスで、進学科のテストにも十分についていける。
     正しく、容姿端麗、質実剛健、文武両道を体現するカインは出来過ぎな人物だった。
     カインは一つ頷き、ヒースクリフへ先を促す。
    「その人、事務所でもちょっと扱いに困っていたようなんだけど……昨日、急に引退宣言して引き籠っちゃったんだ」
    「っ……それは、いや。一昨日は俺に凄く自慢していたぞ。俺よりも先に歌手デビューするんだとかなんとか」
    「う、うん。そう、なんだけど……うちの警備員が見たって言うんだ。昨日の昼……彼が不良……普通科の生徒に言い寄っているのを」
    「節操なしだな。そいつ、女で問題起こして揉み消して貰った奴だろ」
     美人なら誰でも良いのか、ヒースクリフにも言い寄ったことのある男子生徒へシノは忌々しげに舌打ちを鳴らし、食べ終えた皿を寂しげに見下ろす。
     女問題など初耳はカインは不誠実な行為へ眉宇を顰め、大皿に乗っているレモンパイの残りをシノの前へ置く。
    「相手は……その……金と紅のオッドアイで……物凄い美人に言い寄っていたけど、なにか言われているうちに顔が真っ青になって、最後は腹に一発貰って気を失ったみたい。東の芸能事務所から手配された警備員が回収したけど……肋骨が何本も折れていたらしい。その夜、引退宣言が出されて……もしかして、心を壊されたんじゃないかって……」
     ゾッとする話だが、腹の底で重苦しい不快感が蠢くのを感じ取ったカインはなんとも言えない複雑な面持ちで切り分けたレモンパイを頬張る。
     ヒースクリフの言葉に偽りはない。信じるに値する情報だが、カインの心からオーエンへの興味は消えず。ますます、どのような人物なのか確かめたい気持ちでいっぱいだ。
     授業に出席せず、どこにいるのかもわからない神出鬼没な人物。そのくせテストの点数は良くて、たまにミスラや不思議な雰囲気を纏う双子と行動を共にしている。
     どうすれば逢えるのか。
     食べ終えたレモンパイの皿へフォークを置き、一つ悩ましげな息を吐く。
     ヒースクリフとシノは互いに顔を見合わせ、どうしたものかと肩を竦める。

    <ここまでがボツシーンでした……>
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