ヴィクガス習作(お誕生日おめでとう) ガストがリビングに入ると、キッチンにいたヴィクターが振り向いた。
「あぁ、ガストでしたか。ちょうど良かった」
「俺に用か、ドクター?」
ぐるりと周囲を見回すが、今はマリオンやレンの気配は感じ取れない。もしかしたら三人の誰かが通りがかったら声をかけようと思ったのかもしれないなと考えながら、ガストはヴィクターの側へ歩み寄った。
「コーヒーの試飲をお願いしようかと」
「試飲? 俺でいいのか?」
「貴方向けにブレンドしようと思っていたものですから」
「俺に?」
「マリオンやレンにも考えているので、それは後々二人にも試してもらおうと思っていますよ」
「へぇ。そういうことなら」
ひとりひとりに合わせて、コーヒーをブレンドしようと思っていたということだろう。ヴィクターは、サブスタンスや研究への興味深さが目立って見えるが、その実他人のことはよく見ていて、寄り添うこともしてくれる優しさも持っている。チーム全員がそれぞれ飲みやすいコーヒーを用意してみようという試みも、その一環だろう。ドクターのこういうところが好きなんだよなと、ガストは嬉しくなりながら、素直に頷いた。
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