ともだち好きだ好きだと言われてそのままの意味に受け取るほど、そんなに思考が若くもないんだ。俺だっていい歳だからさ。
彼の言う好きってのは、人間として好いてくれているという事に過ぎないんだから。それだけでも満足しなきゃいけないと思っているよ。ただ無自覚な人たらしは本当にたちが悪いよね。
こないだサバイバーのドアを開けて入ってくるなり、一直線で俺の方に向かってきて『趙、これお前にやるよ』と花束を持ってこられた時は流石にびっくりして、頭の中がエクスクラメーションマークでいっぱいになっちゃった。直ぐ隣にいたナンバが『こいつは誰にでもそうなんだよ』ってぼそぼそ俺にだけ聞こえる声で呟いてくれたから、直ぐに正気に戻ってありがとって受け取ったけど。あれがなかったら、しばらくぽかんとしてた自信がある。ナンバに今度改めてお礼言わなきゃね。
それにしても花束、人生で初めてもらったな。衝撃的すぎて今更気がついたけど。白百合は好きだよ。何者にも染まらないって感じが好き。二人の会話で花の話をした記憶なんて全然無いのに、なんでこの花を選んでくれたのかな。さっぱりわからない。でも彼が俺のことを考えて選んでくれたのならば、とても嬉しい。彼の生活のほんのいっときに俺が介入したって事実があるだけで、目の前の酒が途端に旨く感じちゃうのは、都合が良すぎかな? 花束、飾る為の瓶なんてあったかな? あ、足立さんの置いてった酒瓶、あれなんていいかも。
でもさぁ。
一緒に過ごす時間が長くなるほど、心の奥底の一部がぎゅうと締め付けられるみたいに苦しいんだ。彼を大事な友人だと思う以上の気持ちが、俺を徒に惑わせ続けてる。自分事ながら可笑しいよね。横浜流氓の総帥やってた時には、自分の事なんて二の次三の次だったから、いざ好きにしていいってなっても全然やり方がわからないよ。どうしたらいいのかな。春日君って駆け引きが得意なタイプじゃないよね? 最初に出会った時からわかってたけどさ。今までの経験がちっとも役にたちそうにないんだけど。何にしても、下手に動いてこの心地よい関係が壊れちゃうのは嫌だなあ。例えば好きだと伝えても、俺の好きと春日君の好きは決定的に違うんだって、改めて痛感するのとか....つらいかも....
春日君大体、ヘテロセクシュアルだよね。うん。絶対男になんて興味ないじゃない。俺は春日君を性的な目で見てるけど....なんだこれ。言葉にするとすごく罪悪感のある発言だな。はぁ。絶対好きになっちゃ駄目なやつだったじゃん。勇者様を落とす自信なんてないよ。だって攫われたお姫様じゃないもん、俺は。