ねこじゃらし この日ササライの興味を惹き付けたのは、宮殿の中庭に迷い込んでいた一匹の猫だった。
薄茶色の長い毛に鮮やかな緑の目を持つやや大きな体躯の猫。
艶のある手入れされた毛並みと警戒心なく足元に擦り寄る様子を見るに、飼い猫であるのは間違いはないようで、ササライはこの迷い猫の情報を宮殿内外に掲示し、飼い主が名乗り出るまでの間、宮殿で保護をすることを決めた。
その話をササライの部下から聞いたとき、ルックはまた兄の悪い癖が出たと呆れはした。
けれどさして関心は持たなかった。迷い猫がどうなろうとしょせんは他人事であると考えていたからだ。
しかし、夜になりルックが兄の部屋の扉を開いた瞬間に中から聞こえてきたのはやけに陽気な兄の笑い声だった。
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