雪 この年初めてとなる雪が降り出したのは前の日の晩だった。日付が変わり明け方に近付くにつれて雪の粒は大きくなり、人々が目を覚ます頃には視界に映る景色を純白に染め上げた。
色も、音も、温度も消し去っても、雪は尚も欲張って昼を過ぎても弱まる気配すら感じられなかった。
ササライは寒さでかじかんだ指先に気休め程度の温かく湿った息を吹きかけた。
姿を変えた中庭にひとり佇んで鈍色の空を見上げると、乾いた粉のような雪が頬を叩く。
さらりとした結晶は肌の上に留まるもすぐにササライの体温で溶けていき、冷たい水の感触に身震いして羽織ったマントのフードを被り直す。
「――さん、兄さんっ!」
衣擦れの音すらも吸収していく濃密な静寂を切り裂いたのは、聞き慣れた弟の声だった。
1955