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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    異世界お爺ちゃん。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(5)オレが悲しそうな顔をしていたのは、確かだろう。

    しかし、グラムからその様に尋ねられるのには違和感しかなかった。

    …というか今、樹ちゃんって言わなかった?

    ホワッツ?

    戸惑うオレをよそに、グラムは体を起こしてオレと向かい合うように座った。

    「何か嫌なことでもあったかの?おじいちゃんで良ければ聞いてあげるぞい。」

    「…え?」

    今度の発言は、明らかにおかしかった。

    "嫌なこと"なんて、オレのこれまでの事情を鑑みれば火を見るより明らかなのだが
    そんなことよりもグラムが何故この状況でこんな風に話しかけてくるのか謎だった。

    「ええっと…どうしてグラムさんがオレの嫌なことを聞こうとしているんですか?」

    聞きたいことは山ほどあったのだが、取りあえず思ったことを素直に尋ねてみた。
    オレがそう聞くとグラムはきょとんと目をパチクリさせ、不思議そうな顔をした。

    「何故…?孫が悲しそうな顔をしていたら、気になるのが祖父というものじゃよ。」

    オレは、ますます混乱した。

    "孫"?

    今、オレのことを"孫"って言ったか??

    「あの、グラムさんと出会ってからまだ大して時間も経ってませんよね?」
    「うむ。」

    「血の繋がりがあるワケじゃないですよね??」
    「そうじゃな。」

    「師弟関係や養子というワケでもないですよね???」
    「無論。」

    「…じゃあ、孫じゃなくないですか????」
    「いや、樹ちゃんはワシの孫じゃ…そしてワシは樹のお爺ちゃんなのじゃよ。」
    「?????」

    …困ったな、支離滅裂だ。

    もしかして、魂が格納された影響で頭がおかしくなってしまったのだろうか。

    魂と体が分離されているのは、やはりあまりよろしくなかったのではないか。
    オレは、とりあえず自分のステータスを確認してみることにした。



     【 氏 名 】 枕木樹

     【 種 族 】 ヒト

     【 年 齢 】 29

     【 適 性 】 孫■

     【 職 業 】 介護士

     【 能 力 】 体力:☆☆
             知力:☆☆☆
             防御:☆
             俊敏:☆☆
             耐性:☆☆☆☆☆
     
     【 孫 ■ 】 適応 鑑定 格納 出庫 返却 時効取得 換骨奪胎



    いつの間にか新しいスキルが増えていた。

    先程は『出庫』の部分までしか表記が無かったはずだ。
    オレは『返却』からスキルの説明を確認していった。


    返却  :格納したモノを元の場所に戻す。

    時効取得:格納したモノの所有権がスキル所有者に譲渡される。
         効力の発揮まで対象ごとに定められた時間の経過が必要となる。
         魂や肉体の所有権が移譲された場合、その魂や肉体は漂白される。

    換骨奪胎:漂白された魂が格納庫に存在している時のみ発動出来る。
         漂白された魂に新たな性質を付与する。


    『返却』は文字通りシンプルな効果のスキルの様だ。
    『出庫』との違いは手元に出すか、直接元の場所に戻すかの違いだろう。

    『時効取得』という言葉は大学時代、法律の授業で聞いたことがあった。
    たしか他人の家なんかを所有する意志を持って一定期間占有していれば
    所有権を元々の所有者から家を占拠していた人間に移せる制度だったか。

    もしかしたら、魂を長時間格納し続けたことで
    グラムの魂の所有権がオレに移ってしまったのかもしれない。

    あの%表示はその進行率を示していたのだろう。

    そして気になるのが"所有権が移譲された魂は漂白される"という不穏な文言。
    "漂白される"という言い回しからは、ほんのり洗脳的なニュアンスを感じる。

    『換骨奪胎』の"漂白された魂に新たな性質を付与する"というスキル説明と
    合わせて考えるに、これは…

    「オレのスキルの効果で、グラムさんがオレのお爺ちゃんに"成った"…?」

    この世界では、条件をクリアすることでスキルを追加取得出来るのだろう。
    推測でしかないが、あの時悪あがきで発動したスキルによってグラムの魂が
    格納された…『時効取得』のスキルは恐らく魂を24時間格納し続けることが
    習得の条件で『時効取得』獲得と同時に丸一日格納状態にあった魂は漂白された。

    更に魂が漂白されたことがトリガーとなって『換骨奪胎』も連鎖的に獲得した。

    状況を考察した時、オレはパーセント表示が99%の状態でステータスを閉じた。
    恐らくはその直後に表示が100%となり、推測した様な事態が発生したのだろう。

    結果魂の性質が変わり、そんな状態の魂を体に戻されたグラムはオレの祖父になってしまった。
    自分でも何を言ってんのか分からないけど、恐らくはそういうことなのだろう。

    「おお、ワシをお爺ちゃんにするとは…凄いスキルじゃ!やったな樹ちゃん!」

    オレの推測を聞くと、グラムは顔をほころばせ手をパチパチと叩いて喜んだ。

    「いやっ…喜ぶところなんですか、それェ!?」

    というか、性質が変わるにしても何で"お爺ちゃん"なんだろうか?

    お爺ちゃんのことなんて……ああ、いや、めちゃめちゃ考えてたな。

    感傷に浸ってこれ以上ないくらい自分の祖父のことを思い出してたわ。

    となれば、グラムがオレに対して異様に甘い"お爺ちゃん"になったのも
    納得出来る…出来るが、これはこれで色々とマズい事態ではないだろうか。

    そもそもグラムはハイレム国王の側近であり、オレを暗殺しようとしていたのだ。

    スキルの効果でご覧の様な状態になっているが、効果がどの程度続くのかも不明だ。

    かといって、このままハイレム五世の所に送り返しても明らかに支障があるだろう。

    オレがどうするべきか頭を悩ませていると、グラムは不意にオレの手を握った。

    「樹ちゃん…お爺ちゃんを赦しておくれ!
    命令だったとはいえ、孫を殺そうとするなど…ワシは実に愚かな祖父であった。
    これからは何があっても樹ちゃんを護るからどうかワシを見捨てないで欲しい!」

    グラムがあまりにも必死な形相で訴えかけてきたため、オレは思わず目を白黒させた。

    "殺そうとした"と言っている辺り、恐らく記憶は地続きなのだろう。
    オレを孫と認識して溺愛する"今の"グラムにとって、
    オレを殺そうとしたという事実は致命的な記憶なのかもしれない。

    初めて会った時の威厳は消え去り、グラムは怯えた様な表情でオレの手を強く握っていた。

    スキルの効果時間にもよるが、この様子だと少なくとも暫らくの間は
    途中でいきなり豹変して殺しにかかって来るようなことはなさそうだ。

    というか、オレは今後この世界でどう生きていくべきか…
    その問題はまだ、そもそも何ひとつとして解決していないのだ。

    この状況は確かに困った事態ではあるが、チャンスでもある。
    オレは深く息を吸うと、意を決してグラムに告げた。

    「グラムさん、オレと一緒に来てもらってもいい?」
    「…それは、どういう…」

    グラムはオレの意図を計りかねたのか、不安そうな表情でオレの目を見た。

    「オレはこの世界のこと、殆ど知らないから
    オレがこの世界で生きていくのを手伝って欲しいんです!」

    オレがグラムの目を見つめてそう伝えると、グラムはポカンと口を開け数度目を瞬いた。
    と、次の瞬間グラムは息をするのが苦しくなるレベルでオレの身体をきつく抱きしめた。

    「樹ちゃあああん!!!!!当たり前じゃろおおおおおおおお!!!!!
    お主を一人ぼっちにするなどあり得ない話じゃあああああああ!!!!!
    あんな強欲暗愚なハイレム五世の護衛なんぞ辞めじゃ、辞めッ!!!!!
    これからはお前だけの騎士として生きるんじゃあああああああ!!!!!
    ぬああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」

    「ぐっ…苦っ、苦し…」

    日頃から鍛えているであろう太い腕で締め落とされそうになりつつも、
    光明が見えたかもしれないという期待でオレは密かに胸を膨らませた。

    漫画の様に夢と希望の溢れる明るい異世界転移ではなかった。
    しかし、歪な形ながらようやく最初の一歩を踏み出すことが出来たのだ。


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