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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    アラタルの町、到着。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(12)「樹ちゃん、アレがアラタルじゃ。」

    グラムが示した方に目線を動かすと遠方に大きな石壁が見えた。
    この世界の共同体は基本的に柵や壁といったもので囲われており
    元の世界よりも人工と自然の境界線がはっきりと区別されていた。
    街道ダンジョンを抜けた後も目的地まで一直線に駆け抜けたため、
    アラタルに到着したのは昼下がりくらいだった。

    「あれが、アラタル…」
    「うむ、アラタルはゴカドよりもローレム王都寄りの町。
    ハイレム王が追手を放ったとしても、派手な動きは出来んじゃろう。
    逃亡資金の残額を考慮しても、稼がずに移動し続けるのはこの辺が限界じゃな。」

    グラムの言葉にオレは重圧から解き放たれた様な気持ちになった。
    まだまだ気は抜けないが、最悪の状況からは脱することが出来たのだ。

    「王都から追放されて今日で四日…往復三日程度の旅程を
    想定をしていたなら、そろそろ異変に気付くかもしれない。」
    「そうであっても、これで暫らくは時間稼ぎが出来るじゃろう。
    万が一に備えて発見された時の対策も考えておくとしようかのう。」

    「…本当に頼もしいね、グラム爺ちゃん。」
    「当然、ワシは樹ちゃんの騎士じゃからな!」

    孫からの賛辞に気を良くしたのかグラムはオレの頭をガシガシと撫でた。
    人に頭を撫でられるのも何年ぶりだろうか、個人的に悪い気はしなかった。

    「町には着いたけど、これからはどうする?」
    「それは勿論……宿探しじゃ!
    ひとまずは三日程度、それなりの価格で泊まれそうな場所を探す。
    その次は冒険者登録…『時効取得』の如何によっては旅費稼ぎに必要な
    労力を減らすことが可能となるやもしれぬが、それは確実な話ではない。
    冒険者登録を行う利点も多々もあるから、冒険者デビューは必須じゃな。」

    小説の主人公であれば迷うことなく冒険者登録しちゃうんだろうけど
    平々凡々な自分がいざ冒険者登録となると、やっぱり緊張してしまう。
    今後のためにスキルの練習なんかも始めないといけないだろうから、
    これまでとはまた違う方向で忙しくなりそうだ。

    税金を払って町に入り込むと、オレ達は住民に話を聞きながら
    拠点として利用出来そうな宿を探して回ることにした。

    「…はいよ!そんじゃあ3日分の宿泊費、確かに頂いたぜ!」

    会計皿の上に載せられたドロン金貨を数え終わると、虎頭の店主は笑顔でそう言い放った。
    笑った際に剥き出しになった牙は鋭く尖っており、こうして見せつけられると普通に怖かった。

    町の中を探索すること数時間、オレ達は「虎風庵」という宿屋に連泊することに決めた。
    虎風庵は虎の獣人であるゼブラとその一人娘であるリミカが切り盛りする小さな宿屋だ。
    宿泊用の部屋は全部で四つ、一応食堂も併設されており悪くはなさそうだった。
    宿自体の評判は悪くなく、比較的空いている日が多いという調査結果を参考に
    泊まるなら地味めな場所が良いだろうとグラムが最終的にここを選んでくれた。

    虎なのに"ゼブラ"とはこれ如何に、と思ったもののこの世界には
    シマウマがいない可能性もあったのでツッコミをいれるのは控えることにした。
    周辺は大型の宿屋で取り囲まれているため宿自体の存在感が薄く、ゼブラには
    申しわけないが逃亡者の潜伏先としては良さげな場所なのではないかと感じる。
    コチラの思惑など一切知らないゼブラは、久々の連泊希望客に上機嫌となり
    カウンターの奥に引っ込んでいった。

    「すいません、コレを渡しておかないといけないのに…」

    ゼブラと入れ替わりに、今度はリミカが割符を持って来た。
    割符は二枚一組の板で、代金の先払いなどを確認する際に用いられるそうだ。
    客側と店側で板を一枚ずつ所持し図柄を合わせることでその証明とするらしい。

    「いえ、お気になさらず。」

    オレが割符を受け取ると、リミカは軽くおじぎをした。
    ガッツリ虎の姿であるゼブラとは対照的に、リミカは普通の人間にしか見えなかった。
    毛髪や瞳の色は親子で同じだが、それ以外に外見的な特徴は一致していなかったのだ。

    後々グラムに聞いてみたところ、
    異種族間で子供をもうけた場合、その形質が受け継がれるかどうかはムラが大きく
    件のゼブラとリミカのように容姿が大幅に異なる場合もままあるということだった。

    「では、また後程。」
    「はい、行ってらっしゃいませ。」

    向こう三日間の寝床を確保し終えると、オレ達は冒険者ギルドへ向かうことにした。

    ファンタジー小説といえば冒険者ギルドだが、オレの場合召喚早々
    とんでもない事態に陥っていたのでこうした施設を訪れるのもこれが初めてとなった。

    施設に入ると前方に複数の受付が並んでいるのが目に入った。
    壁には依頼書らしき紙が張り付けてあり、数人の冒険者たちがそれらを吟味していた。
    付近には雑談スペースもあり、施設の奥の方には素材の査定コーナーや事務スぺース
    二階へと続く通路や階段が見えており、いかにも冒険者ギルドらしい構造となっていた。

    「冒険者登録でございますね…では、こちらにお名前をご記入ください。」

    冒険者ギルドは独立機関であり、情報の秘匿性も高い
    ということでオレ達は本名で冒険者登録を行うことにした。
    冒険者としての活動や、年一回の税金の納入が無ければ
    登録が抹消されるという仕組みも本名を用いる後押しとなった。
    二人分の登録料を支払うと、非常に簡素な証明書が手渡された。

    「冒険者登録が初めての場合、
    ギルドや依頼の仕組みに関して説明を受けることを推奨しておりますが…」
    「えっと…じゃあ、お願いします。」

    グラムに聞けば事足りたのかもしれないが、
    ルールの改定なども想定して素直に説明を聞くことにした。

    移動するよう促されたため、二人で雑談スペースのテーブルに着くと
    程なくさっきの受付嬢とは異なる職員が資料と思しき紙を携えてやって来た。

    「アラタル冒険者ギルドの事務担当で、ベリルと申します。
    簡単にではありますが、冒険者の仕組みについてご説明させて頂きます。」

    ベリルと名乗った職員はテーブルの上に資料を置くと、早速説明を始めた。

    「まず、冒険者の階級…ランクについて。
    こちらの資料にある通り冒険者のランクは星の数で一から十に大別されます。
    登録したての段階は星一つに該当し、ギルドが提示した昇格試験や一定以上の
    功績を上げた場合ランクが上昇していきます。高ランクの冒険者となると国や
    各ギルドから直接指名で依頼が届くこともあります。」

    オレ達の場合、あくまで生活費を稼ぐための冒険者家業であるため
    名指しで指名されるリスクのある高ランク帯を目標に据えることはないだろう。

    「続けて登録の抹消について。
    星五未満の冒険者については、各ランクごとに登録抹消期間が定められています。
    とりわけ低ランク帯の冒険者は様々な事情から活動を休止してしまうことが多く
    星一冒険者においては最後の依頼達成から二週間程度活動が確認出来ない場合は
    登録を抹消させて頂いております。」

    問題があるとすればランク制度よりもこの登録抹消制度の方だろう。
    グラム曰く、猶予期間が一年間に拡大する星三つまではすぐに上げられる
    とのことなのでオレ自身の訓練と並行してまずはこのランクを目指したい。

    「依頼…ええと、俗に"クエスト"とも呼ばれておりますが依頼は基本的に
    壁に貼り付けてある依頼書を受付までお持ちいただくことで受注可能です。
    依頼受注後、その成果に関わらず期限内に報告が行われなかった依頼は
    自動的にキャンセル扱いとなりますのでご注意ください。」

    クエストといえば採取や討伐、護衛や捜索などが定番だが
    この世界の知識が殆どないオレの場合初心者向けの依頼でも時間が掛かる可能性は高い。
    グラムに同行する時はともかく、単独で依頼を受ける際は期限を意識した方が良いだろう。

    「また、ギルドでは素材や討伐した獲物の買取、解体なども行っております。
    ダンジョンで珍しいアイテムを獲得した場合は是非ギルドまでお持ち下さい。
    ここまでで、何か質問はありますか?」
    「えっと…ギルドで冒険者登録を行ってないと出来ないことはありますか?」
    「色々ありますが、まずは"迷宮型ダンジョンに入れない"という制限でしょうか。
    魔物が常在している迷宮型は危険なため、冒険者以外の立ち入りは禁じられています。
    国にもよりますが、無資格で迷宮型に侵入した場合厳しい処罰を受ける場合があります。」

    出現と同時に倒してしまったキラメキドロンはともかく、山道で見掛けたボアは出会った途端
    殺意全開で襲い掛かって来たし、一般人の入場規制されるのはやむなしといったところだろう。
    …というか、山道ですらあの感じだったのに折衷型が規制されてないのもなかなかだと思うが。

    「それと、冒険者ギルド内での素材の売買や解体も登録証所有者限定のサービスですね。
    一定ランク以上の冒険者の場合、関所や各共同体に支払う税金が免除される場合もあります。
    細かい事項まで含めると登録の恩恵は多岐に渡っているので…受付横、資料室に置いてある
    『冒険者ギルド細則』を閲覧していただければと思います。」
    「分かりました、ありがとうございます。」

    オレがベリルにお礼を言うと

    「構いませんよ。
    壁に貼ってある依頼書はある程度ランク別に分けてあるので、
    最初は小動物の狩りや植物の採取依頼を受けることを推奨します。」

    ベリルは柔らかく微笑み、資料を回収して去っていった。

    「グラム爺ちゃん、何か新しく更新されたルールはあった?」
    「いや、聞いている分には特段なかったぞ。
    説明といっても、本当に基礎の基礎といった内容じゃったからな。」
    「なら良かった…日も暮れてきたし今日はもう宿屋に戻っちゃう?」
    「それがよかろう。」

    ベリルを見送るとオレ達も席を立った。
    やるべきことは済ませたため、あとは「虎風庵」で過ごすことにした。
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