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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    ハイスペックお爺ちゃんと3つのクエスト。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(14)翌日、朝食を済ませたオレ達は冒険者ギルドへ赴いた。
    ギルドの壁には大量の依頼書が張り付けてあり、グラムは
    手慣れた様子で依頼書をちぎり取ると受付に持って行った。

    「ええと、依頼は一件ずつこなしていくことが推奨されているのですが…」

    依頼書がいきなり三つも提出されたため、受付嬢はかなり困惑している様子だった。
    受付嬢は…といったが、実際のところオレも困惑していた。

    「四人旅と比べると少ないですが、二人旅というのもそれなりに旅費がかさみます。
    最低ランクの依頼で稼ごうと思ったら、一日一件ではとても賄っていけませんので。」
    「しかし…」
    「ご安心を! パーティ単位の受注ではありますが、依頼は全てワシがこなします。
    星一つランクの依頼であれば、ワシも老骨といえど元冒険者…問題はありませんぞ。
    ある程度余裕が出てきたら、孫の指導も兼ねて一件ずつ受注する方針に切り替える
    つもりですので、どうぞよろしくお願いいたします。」

    口八丁手八丁…グラムはそれらしい理由とプロフィールを
    並べ立てると、あっという間に受付嬢を丸め込んでしまった。

    「分かりました…今回は一度、様子見も兼ねて依頼の同時受注を許可します。
    薬草の採取が二件、マルビットの狩猟一件…合計三件の依頼をお任せします。
    提出期限は本日中となっておりますので、その点だけは気を付けてください。」
    「お心遣い、ありがとうございます。」

    受付嬢は半ば諦めたような表情でオレ達を送り出してくれた。
    恐らくは依頼に失敗すると思われているのだろう。
    正直オレも不安だったが、そこはグラムの腕を信じて
    狩場となる森まで向かうことにした。

    「じゃあ、お爺ちゃんはサクッと依頼をこなしてくるからの?
    お腹が空いた時は、ワシのことは気にせずお弁当を食べなさいよ。
    あと、腹を壊してはいけないから水筒のお水以外はなるべく飲まないように。
    何かあればすぐにお爺ちゃんを呼びなさい…お爺ちゃんには孫の危機を察知
    出来るスキルがあるから、樹ちゃんは安心してスキルの練習に励むんじゃぞ!」
    「えー…あー…うん、分かった! 頑張ってね!」

    グラムは怒涛の勢いでオレに対する過保護っぷりを発揮すると、森へ向かって行った。
    グラムの姿を見送ったオレは、早速スキルの訓練を行うことにした。

    "訓練"といっても、その辺に落ちている物を片っ端から鑑定していくという地味な作業だ。
    本当はもう一つやりたいことがあったのだが、それにはもう少し時間が掛かるためまずは
    簡単に出来そうなことから始めることにしたのだった。

    「…鑑定!」

    オレは手始めに足元の雑草を鑑定し、詳細を確認していった。

    「『名もなき雑草』…なるほど、こういうパターンもあるのか。
    元いた世界だと大概の植物には名前があったからなんか新鮮だな。」

    オレはグラムが帰ってくるまでひたすら植物や虫、小動物を鑑定し続けた。
    グラムが戻って来たのは、オレが訓練を始めてから数時間後のことだった。

    「樹ちゃん、待たせたのう!」

    戻って来た祖父の手には、何やらガサゴソとうごめく麻袋が握られていた。

    「お帰りなさい、首尾はどう?」
    「採取も狩猟も、全て終わったぞ!」

    グラムは満面の笑みでそう言い放った。

    「え、一件だけ達成した…とかじゃなくて?」
    「うむ…マルビットの捕獲に毒消し草と薬草の採取、全て完了じゃ!」
    「えぇー…?」

    小動物の狩りや薬草類の採取は創作物では初心者向けの依頼として
    定番だが…実際に行うとなると、かなり時間が掛かる作業のハズだ。
    狩猟経験のないオレがいきなり一人で狩りに出掛けたとしても、一匹だって仕留められるか怪しい。
    いくらグラムが経験者とはいえ、こんなに早く終わるとは到底思えなかった。

    「実はな…樹ちゃんが"頑張って"と応援してくれた瞬間、全身に力が漲り始めてな。
    体は軽く感覚は鋭敏に…結果、自分でも驚くほど簡単に依頼が済んでしまったんじゃ。
    不思議に思ってステータスを確認したら、新しく『孫の声援』なるスキルを取得しておった。
    お爺ちゃんは、孫に応援してもらったらパワーアップ出来るそうじゃ。」

    不意に、グラムの種族名が「祖父」となっていたことを思い出した。
    眷属としての種族名とはいえ、まるで人間ではないみたいな扱いだ
    …なんて思っていたが、これは納得せざるを得ない。
    少なくとも、普通のお爺ちゃんは孫に応援されたからと言って超人的な動きが
    出来るようにはならないので、人外判定を受けても仕方がないのかもしれない。

    「まあ、仕事が早く終わるのは良いことだし…とりあえず、お疲れさま!」
    「うむ、その一言で疲労も吹き飛ぶわい…樹ちゃんの方は、どうじゃ?」
    「『鑑定』に変化は無かったけど、『時効取得』は終わった。
    昼食の前に澄ませておこうか…キラメキドロンの、使役実験。」
    「そうじゃな…満腹になると、頭の動きが悪くなる。
    万が一の事態に警戒するという意味でも、今済ませてしまう方がよかろう。」

    グラムは麻袋を地面に置くと、背負っていたカバンからキラメキドロンを取り出した。
    …もしかしなくとも、キラメキドロンを抱えたまま森を駆け回ってたのか。
    スキルのバフ効果が強すぎるのか、種族としての"祖父"が強力過ぎるのか。

    今朝起きた際にキラメキドロンの魂の格納状況を確認すると、進行率は86%になっていた。
    "魂の漂白"には丸一日掛かるので、時間にすると約四時間…お昼頃には完了する計算である。
    仮に使役出来なかった場合、体力が回復したキラメキドロンを討伐するのは難しいということ
    だったので、万が一逃走した際の被害を抑えるためにも町の外で魂を返却することにしていた。

    オレは地面に寝かされたキラメキドロンの体に触れると、
    このモンスターが自分の言うことに従っている姿を強くイメージした。
    グラムの時はこれで『換骨奪胎』が発動したので今回もいけるはずだ。

    「『返却』」

    オレは思い描いたイメージを維持しながらスキルを発動した。

    瞬間、キラメキドロンの体は小さく跳ねた。

    『出庫』の時のように手元に熱っぽさを感じることはなかったが、
    説明通りの効果ならこれでモンスターの魂は体に戻ったのだろう。

    オレ達はそのまま、モンスターがどう動くのか様子をうかがった。

    しかし、キラメキドロンは全身をゆらゆらと揺らすだけでその場から動かなかった。

    「えーっと…成功、したのかな?」
    「魂が戻っているにも関わらず攻撃も逃走もしないということは
    成功なのではないかのう…? 何か命じてみれば良いかもしれぬ。」

    グラムの助言を受けて、オレは少しばかり思案した。

    「じゃあ…ええと、そこの樹に向けてコインを打ち込むことは出来る?」

    オレがそう語りかけると、キラメキドロンは
    ゆっくりと体を動かし…指定した樹めがけて勢いよく貨幣を撃ち込んだ。

    「…使役出来たみたい。」
    「うおおおおっ! 上出来も上出来、素晴らし過ぎるぞ、樹ちゃんっ!!
    キラメキドロンの使役が出来るなんて、樹ちゃんは天才じゃああああ!!」

    グラムは興奮してオレに抱き着いてきた。
    異世界転移後、三回目のチョークスリーパーである。

    「グラム爺ちゃん、苦しいから…!」

    三回目ともなるとさすがに慣れてきたため、オレはするりとグラムのハグから抜け出した。

    「おっと、ついつい興奮してしもうた。
    しかし、使役が成功したとなるとキラメキドロンの状態が気になるところじゃな。
    訓練ついでじゃ、このままコヤツのステータスを『鑑定』してみようではないか。」

    確かに、
    通常とは異なる手段で使役状態にしたモンスターが
    どんな状態になっているのかは気になるところだった。

    「『鑑定』」

    オレはキラメキドロンにスキルを発動した。



     【 名 前 】 枕木樹の言うことに従う

     【 種 族 】 キラメキドロン

     【 年 齢 】 0

     【 適 性 】 枕木樹の言うことに従う

     【 職 業 】 枕木樹の言うことに従う

     【 能 力 】 体力:☆
             知力:枕木樹の言うことに従う
             防御:★★★★★
             俊敏:★★★★★
             耐性:☆
     
     【 繧ュ繝ゥ 】 枕木樹の言うことに従う 
             
             ドロンシューター バラバラスワップ
             


    「怖ッ!? いや怖いよコレ、何!?」
    「まあまあ…分かりやすくて良いではないか。」

    キラメキドロンのステータスは、グラムと同じく
    複数の欄の表示がおかしなことになっていた。

    「グラム爺ちゃん、"言うことに従う"の詳細は分かる?」
    「任せなさい…なになに、文言はどれも一緒のようじゃな。
    『枕木樹の言うことに従う存在。それ以外の存在意義はない。』とある。」
    「いや、説明文まで怖いんだけど?!」
    「樹ちゃん、それは今更…というヤツじゃぞ!」

    グラムは異様なステータス表示を特に気にすることなくオレをたしなめた。
    確かにオレは既にグラムの"祖父"だらけなステータス表示を経験している。
    しかし、今回は名詞ですらなく普通の文章が大量に並べられている状態で
    "おかしい"の方向性が違う、どことなく狂気さえ感じた。

    とはいえ、精神感応系の魔法は基本的に効果が負の方向を向いているイメージもあるし
    恐らくはこれ系統に特化していると思われる「孫■」を活用してこの世界を生き抜くの
    であれば今後もこうした若干ホラーな状態には何度も出会うことになるだろう。
    自分の命が掛かっているのだから、気合いを入れ直すべきなのかもしれない。

    「そうだけど…もう少し穏便な表示だと嬉しいかも。」
    「そこは今後の研究次第…という話になるじゃろう。」

    "孫■"はいまだによく分からない適性だ。
    何も分からない以上、自分で開拓していくしかない。

    「さて、実験も無事成功したことじゃ、
    そろそろお腹も空いてきた頃ではないかの?」

    ステータスの確認が終わると、グラムはいそいそとお弁当を取り出しはじめた。

    丸一日掛かる想定で受注した三件の依頼が予想外の速度で終わってしまった。
    森に残る理由もないため、他のスキルの訓練は街に戻ってからでもいいかもしれない。
    地面に鎮座するキラメキドロンを横目に、オレも手持ちのカバンから昼食を取り出した。

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