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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    ぬいぐるみダンジョン

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(22)アラタルの街のとある商店、グラムは店の壁に
    掛けられた武具をとっかえひっかえ吟味していった。

    「武器はやっぱり剣が良いかのう…薬草と毒消しも買って…」
    「…爺ちゃん、さすがに装備過剰じゃない?」

    追手は上手く追い払えたものとして、引き続きこの世界での
    安定した暮らしを確立するため更に技術や力をつけていく必要があった。
    一日休んで復活したため、オレは改めてダンジョンを攻略することにした。

    "ならばそれなりの装備を整えねば"とはグラムの言で、
    朝食を済ませたオレ達は先日短剣を買った店を再び訪れていた。

    「しっかり準備しておくに越したことはないんじゃぞ、樹ちゃん。」
    「それはそうだけど…素人目に見ても買い過ぎだって、支払いも考えないと。」
    「…あのう、売る側としても買って頂けるのはありがたいことですが…
    ぬいぐるみダンジョンであればここまでの量は必要ないかと思われます。」

    オレに加勢してくれたのは店主である老年の男性だった。
    グラムが片腕に山盛り商品を抱えた姿を見て、見かねて声を掛けてくれたのだろう。

    「ほら、オレ達よりも詳しい現地の人もそう言ってるよ…少し戻してきて。」
    「ぐぬぬ、しかし樹ちゃんに万が一のことがあったら…」
    「そういう時のために爺ちゃんが付いて来てくれるんでしょ?
    信頼してるからさ、大丈夫だよ。」
    「むう…嬉しいことを言ってくれおる…むむう、仕方ないのう…」

    ニ対一では分が悪かったか、グラムは渋々商品を元の位置に戻していった。

    「すいません、助かりました。 うちの爺ちゃん心配性で…」
    「いえいえ、お孫さん思いの良いお爺様ではありませんか。」
    「いやー、あはは…」

    実際は、恐らく店主が思っているより遥かに度を越した"お孫さん思い"なのだが
    正直に言うワケにもいかずオレは何ともいえない感じの笑いで返事をごまかした。



    「…それでは代金を頂戴いたします、どうぞお気をつけて。」
    「ありがとうございます。」

    ひと悶着あったが、無事買い物を終えたオレ達は店を出て行った。
    最初にこの店を訪れた時からそうだったが、ここの店は店主が感じ良く
    接客してくれるので今後も買い物にはここを利用しても良いかもしれない。



    街から出てぬいぐるみダンジョンへ向かうと、入口にはいつも通り門番が一人立っていた。
    通算四回目、そろそろ見慣れてきた景色を眺めながらオレはダンジョンを攻略していった。

    「格納!」

    今回に限ってはグラムもサポート役に徹するとして自分の力だけで魔物を撃破していく。

    「出庫!」

    とはいえ、襲ってくるのは恐らく子供でも倒せるレベルのぬいぐるみ風のモンスターのみ。
    素人以下のオレの剣捌きでも倒せなくはないだろうが、スキルの訓練も行いたかったので
    逐一『格納』と『出庫』のコンボで敵を倒していった。

    「樹ちゃん、アレが次の階層に向かうための階段じゃ。」

    グラムが示した方向を見ると、だだっ広い平原の中に
    このダンジョンの入口と同じ様な岩のアーチがあった。

    「と、いうことは次がボスとの戦闘ってこと?」
    「うむ…昨日教えた通り、迷宮の主が待ち構えているハズじゃ。」

    踏破に失敗する方が難しいとはいえ、そこは一応ダンジョンである。
    グラムは昨晩、オレにボスモンスターの情報を教えてくれていた。

    「…」

    オレは意を決して岩のアーチをくぐり、歩みを進めた。
    なだらかな下り坂を少し歩くと、先程と同じような野原に到着した。
    この階層は上層よりも狭いようで、周囲にはに土壁が存在していた。
    とはいえ光源がないのに明るいことには変わりがなく、壁がある分
    目の前の光景に余計違和感があった。

    「!…」

    と、オレは風景の中に混じる異物にも気が付いた。
    大きなウサギのぬいぐるみが、ボタン製の目に真っ赤なオーラを宿してこちらを見ていたのだ。

    このボスモンスターは1.5m程の大きさのぬいぐるみ型の魔物で、ウサギらしく
    飛び跳ねながら移動してくると大きな口でかじりついたり、体当たりを仕掛けてきた。

    「このサイズだと、さすがに攻撃が重たいな…」

    大きくなってもそこはぬいぐるみモンスター、小型のもの同様力は強くないようだ。
    ただしサイズアップした結果一つ一つの動きに勢いが付くようになり油断していると
    転倒させられる程度の威力はあるようだった。

    「樹ちゃん、頑張るんじゃ!」

    グラムは心配そうな表情でこちらを見守りつつ、応援してくれていた。
    幸いにも、巨大なウサギは上の階層を徘徊している同型のウサギと
    同じ動きしかしてこなかったため攻撃を避けるのは比較的容易だった。
    とはいえ、シンプルに避け続けるための体力が足りていない。
    そろそろ倒さなければオレが勝手にダウンしてしまう。

    「…『格納』ッ…うわっ!?」
    「のわーっ!? 樹ちゃん!!」

    体当たりを仕掛けてきたタイミングでスキルを発動すると、迷宮の主はあっさり地面に転がった。
    同時に、スキルに集中し足元が疎かになっていたためオレは突進の衝撃で地面に尻もちをついた。

    「大丈夫、大丈夫…よっと。」

    オレはゆっくり立ち上がると、魔物から距離をとった。

    「…『出庫』!」

    ウサギとは逆の方向を向いて魂を『出庫』すると、
    微かなノイズ音が響いた後その体は細かな粒子となり崩れ落ちた。

    「ふう…何とか倒せたか。」
    「樹ちゃーんッ! ようやったあああああッ!」

    モンスターの崩壊を眺めていると、グラムが嬉しそうに駆け寄って来た。

    「ちょ、ちょ、ちょ…大袈裟だって…"失敗する方が難しい"って言ってたでしょ?」
    「樹ちゃん、何事も"油断は禁物"というものじゃ!
    "獅子は兎を狩るのにも全力を出す"と言うではないか!」
    「異世界の知識滅茶苦茶使いこなすね…まあ、それはそれとして
    モンスターと対峙する時は今後も慎重にいくから、大丈夫だよ。」

    極端にランクが低いとはいえ、ここがダンジョンであることに変わりはない。
    ガランゴン山道でボアと対峙した時も、自分では倒せないと感じた程度の
    能力しか持ち合わせていないことを忘れてはいけない。

    「ゲームなんかだと、報酬の宝箱とかが出てくるんだけどな。」

    一人で脳内反省会を開いた後、オレは改めて周辺を見回した。

    「稀に綿や糸を落とすそうじゃが…まあ、どのみち大したもんじゃなかろうて。」
    「ダンジョン自体のランクも凄く低いもんね…そういえば、帰りはどうするの?」

    「このダンジョンに関しては普通に歩いて逆戻りじゃぞ。
    強大なモンスターが徘徊するダンジョンだと、入口に繋がる
    時空の歪みの様なものが出現することもあるそうじゃがのう。」
    「帰るまでが遠足です…ってヤツか、仕方ないな。」

    いわゆる"転移魔法"があれば楽なのだろうが、自力で水魔法を会得するだけでも
    かなりの時間が掛かることを鑑みると、そうした魔法を獲得する難しさは考えるまでもなく。

    適当な会話を二言三言交わしてから、上層へ戻ろうとした時…





    「…地震!?」



    「樹ちゃん、伏せるんじゃあーッ!」





    突然地面が揺れ出すと、オレはバランスを崩し地面に倒れこんだ。
    グラムはそんなオレの上に覆いかぶさると、揺れが収まるまで必死で踏ん張っていた。
    ダンジョンとはいえ洞窟の様な空間…天井が崩落しないかと揺れの間気が気ではなかった。

    「…止まったかな?」
    「ふう…空気の読めん地震じゃったな。」

    しばらくすると、揺れは少しずつ収まっていった。
    グラムとオレは立ち上がると、上層へ向かうため振り返った。



    「…え。」
    「な、なんじゃと…!」



    驚いたことに、通路の前に…





    "熊"がいた。





    しかも三匹である。
    通路を塞ぐように横一列に並び、立ち上がった状態で腕を組んでいた。



    「爺ちゃん、これは!?」
    「コイツらは、モンスターじゃ!」

    オレ達の声に呼応するかの如く、三匹の魔物は咆哮した。
    元の世界に居た時ですら、熊になんて遭遇したことがない。
    記録に残る数々の襲撃事件から知識としてはその恐ろしさを
    理解していたが実際に対峙すると自然と脂汗が噴き出してきた。

    「…鑑定!」

    オレは気を取り直し、モンスターの鑑定を行った。



     【 名 前 】 カミツキ戦隊☆ベアレンジャイ!!!

     【 種 族 】 ベアシールダー/ベアファイター/ベアドルイド

     【 年 齢 】 

     【 適 性 】 

     【 職 業 】 

     【 能 力 】 体力:★★☆☆☆
             知力:☆☆☆
             防御:★★☆☆☆
             俊敏:☆☆☆☆☆
             耐性:★★☆☆☆
     
     【 連 携 】 ベアナックル ベアシールド ベアマジック★

             ベアブレード 喰い散らかし ベア連携 強化コンボ


        
    …オレは愕然とした。

    名前があまりにもふざけ倒しているのはともかく、恐るべきはその能力の高さだった。
    知力を除いた全ての能力値が☆五つ以上、三匹の平均値や合計値なのかもしれないが
    少なくとも先程のウサギの様に素人でも勝てる相手ではないということは確かだった。

    「樹ちゃん、後ろに下がっていなさい。」
    「わかった…爺ちゃん、お願い。」

    「頑張って。」

    オレは『孫の声援』を発動させるため、グラムを応援した。

    「ぬほほ~っ、孫の声援は心にしみるのぉ…!」

    グラムから放たれる圧の様なものが、一層強くなったような気がした。

    「一体、何が?」
    「さっきアレは地震ではなかったということじゃ…
    異常に強い魔物の出現…これは、スタンピードじゃ!」

    グラムは剣を引き抜くと、熊型モンスターに刃を向けた。
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