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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    枕木モンストロは枕木樹のお爺ちゃんである。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(25)「ふえええええん! ごめんよおーっ、タッくん!
    孫を手に掛けようとするとはお爺ちゃん一生の不覚、許しておくれええええ!」

    "元から君のお爺ちゃんでしたが、何か?"といった具合のベアドルイドに
    グラムがこれまでの経緯を説明すると、ベアドルイドはオレに抱き着いて喚き始めた。
    熊だけにパワーがあるのか、普通に息苦しい。グラムのハグと良い勝負かもしれない。
    …なんかこういう展開、この世界に来た次の日くらいにも一度経験した気がするな。

    「別に気にしてないから、大丈夫だから!
    というか鼻水出てるし! はい、鼻かんで! シュンして、シュン!」
    「プシュン! シュン!」

    その辺に生えていた雑草をちり紙代わりに、ベアドルイドの鼻水を拭ってあげた。

    …この高齢者の世話をしている感…仕事を思い出して何ともいえない気持ちになる。
    元の世界では行方不明ってことだから、現場は混乱するし、シフトは組み直しだしで
    何だか申し訳ない気持ちになってきた…主任と同僚の皆様、急に消えてゴメンナサイ。
    とはいえ異世界への転移は事故の様なものなので、そこはもう納得してもらうしか。

    オレが職場に向けて念を送る一方で、鼻をかみ終えたベアドルイドは目をキラキラとさせていた。

    「うーっ…タッくんは優しいのう! お爺ちゃんが絶対にタッくんのことを守ってあげるからの!」

    正直大したことはしてないハズだが、ベアドルイドの好感度は爆上がりしたらしい。
    孫と祖父で主と従の関係にあるとはいえ、さすがに上がり方が急ではないだろうか。

    …そういえば"孫■"のスキルに『爺たらし』とかいうのがあった気がする、成程。

    「わはははは、我らの孫は愛嬌がある上に格好良くて優しいじゃろう!」
    「そうじゃのう、そうじゃのう!」

    実際は愛嬌も格好良くも無い三十路のおっさんであり、褒め方が過剰過ぎて
    言われてもあまり嬉しくないのだが最近はもうスルーするようになってきた。
    恐らく眷属としての"祖父"はこういうものなのだろう…グラムも気を使って
    とかではなく、この過剰な持ち上げはたぶん素でやっているものと思われる。

    それにしても『輪奐一新』が眷属生成に特化したスキルだったとは。
    "対象を祖父に変える"…説明文からして完全に『換骨奪胎』の上位互換だ。
    オマケに、おそらくノーリスクで連発可能…もしもオレが侵略者だったなら
    今頃この世界は大量のお爺ちゃんで埋め尽くされることになっていただろう。
    オレが悪役じゃなくて本当に良かった。

    「ところで樹ちゃん…折角仲間が増えたんじゃ、ステータスを確認してはどうじゃ?」

    オレの気持ちはお構いなしに、グラムは上機嫌で話しかけてきた。
    "祖父"としては、オレを守れる仲間が増えてホクホクなのだろう。
    まあ、経緯はともかく同行者が増えたことは事実である。
    どんな能力を保有しているのかはたしかに気になるところだ。
    やはり、ベアドルイドのスキルをそのまま引き継いでいるのだろうか。

    「…えっと、じゃあ、ステータスを見せてもらってもいい?」
    「勿論じゃ、好きなだけ見なさい!」

    本人からの同意も得られたので、遠慮なく『鑑定』をかけさせてもらう。


     
     【 氏 名 】 

     【 種 族 】 祖父

     【 年 齢 】 0

     【 適 性 】 祖父

     【 職 業 】 祖父(熊)

     【 能 力 】 体力:☆☆☆☆
             知力:★★☆☆☆
             防御:☆☆☆
             俊敏:☆☆
             耐性:★★☆☆☆
     
     【 祖 父 】 祖父と孫 高齢者講習 溺愛 孫パワー 衰え知らず 孫の声援
             
             老骨の意地 おみとおし 虫の報せ 孫と一緒

     【 祖父(熊) 】 相撲レスラー ほっこり冬眠 引っ掻きワープ スタンプ型熊式療養

             火炎耐性★★★ 魔力感知★ 黒い森の老獪 月輪の呪い ふわふわベア



    色々と聞きたいことだらけなステータスではあるが、オレがまず気になったのは…

    「あれ、名前ないんだ…?」
    「タッくん、モンスターに名前がある方が不思議じゃぞ!」

    ベアドルイドはオレの疑問に的確な解答を返してくれた。
    モンスターは基本的に自我を持たず、周囲にひたすら被害を与える存在。
    いうなれば消耗品の様な存在なので、名前の概念がある方がおかしいか。

    「お主は確かに魔物であった…が、今はもうお爺ちゃん。
    名前がないのも不便というもの…そこで樹ちゃん、ここは
    孫としてこの"新生ベアドルイド"に名前を授けるべきじゃ。」
    「オレが決めるの?!」

    孫として、と言われても自分が望んで祖父に変えたわけではないのだが…
    こうして増えてしまったものは仕方ないのでパーティに加えるしかないだろう。
    これが世に言う"名づけ"というやつか、いざ決めるとなるとなかなか難しいな。

    「…えーっと、モンストロとかどう?」

    元魔物なので、"モンスター"を少しひねってモンストロ。
    安直過ぎかな…とは思ったものの、響きは悪くない気がする。

    「うおーっ! 孫が名前をくれたぞ! ワシはこれからモンストロじゃー!」
    「良い名前じゃのう…ふむ、ステータスにもしっかり反映されたようじゃな。」

    グラムに言われてステータス欄に視線を戻すと、氏名欄に名前が追加されていた。


     【 氏 名 】 枕木モンストロ


    そこはやっぱり苗字がつくのか…違和感はあるが、本人が喜んでいるのだから良しとしよう。
    年齢0は生まれて間もないからだろうか…見た目は完全にお爺ちゃんなので違和感がすごい。

    まあ、慣れるものとして…次はスキル一覧である。
    祖父のスキルは独特な名前が多いため、パッと見で効果が
    予想出来るのは『火炎耐性』と『魔力感知』くらいだった。

    ただし、オレの『鑑定』では詳細が分からないので本人に効果を教えてもらうことになった。



    相撲レスラー    :対象と肉弾戦を行う場合、身体能力が強化される。

    ほっこり冬眠    :対象と期間を指定して土塊の中で強制的に睡眠状態に入らせる。
               スキル対象は設定した期間が経過するまで覚醒状態に戻らない。

    引っ掻きワープ   :ひっかきスタンプを複数設置すると、スタンプ間を転移出来る。

    スタンプ型熊式療養 :対象の背中を踏む事で、治癒効果のあるスタンプを貼付出来る。

    火炎耐性★★★   :炎による損傷を一切受けつけない。

    魔力感知★     :魔法が使用された場合、それを感知出来る。

    黒い森の老獪    :森の中にいる場合、自身の存在を消失させることが出来る。

    月輪の呪い     :対象を熊の姿に変えることが出来る。

    ふわふわベア    :リボンやスカーフ着用時、周囲に癒しの効果を与える。



    独特なのは名前だけではなかった。 何だ、この奇天烈なスキル内容は。

    強いのか弱いのかよく分からないものもあるが、"祖父(熊)"という職業を持つ者が
    他に存在しているとは思えないので、この辺はいわゆる"ユニークスキル"というやつなのかもしれない。
    冷静に分析してみると、効果としては身体強化、転移、治癒、呪いetc…と、
    事前に予想したとおり魔法使いっぽいスキル構成になっている気はする。

    更に『火炎耐性★★★』である…"★★★"なんて表記、初めて見た気がする。
    以前グラムから聞いたところでは"★"は"☆"五個分の量を表しているらしい。
    人間は様々な要因で調子が変動するため"☆"一個がどの程度の量を示しているのかは
    いまだによく分かっていないそうだが、グラムのスキルですら"★"一個止まりなので
    少なくとも『火炎耐性★★★』が凄まじく強力な性能なのは理解出来た。
    実際、説明に書いてある内容を要約すると『火炎無効』である。

    「…そういえば、言われるままにステータスを確認してたけど外に出なくていいの?」

    スタンピードが発生した際はモンスターがダンジョン外に溢れ出ることが多いという。
    ぬいぐるみモンスターがあふれ出したところで大したことはないだろうが、それでも
    スタンピードという現象自体が騒ぎになっているかもしれない。

    「騒ぎになっておるじゃろうなあ…人が集まる前にトンズラせねばならぬ。」
    「ワシは冒険者証を持っておらんから、見つかるとマズいかもしれんのう。」
    「何で二人ともそんなに余裕なの!?」
    「溢れ出た魔物が弱いとはいえ、数を処理するには時間が掛かる。
    それゆえに、多少のんびりしても問題無かろうという試算じゃな。」
    「仮に門番と遭遇しても、タッくんのスキルでいくらでも誤魔化せるじゃろうし。」

    それは、いざという時は門番に『改竄』を使えということだろうか。
    確かにそれで色々と誤魔化せるかもしれないが、そんな悪役ムーブは
    普通に嫌だったのでオレは二人を急かしながら地上に戻ることにした。

    明らかに数が増えているぬいぐるみモンスターを蹴散らしながら
    地上に戻ると、門番は遠くの方で溢れ出た魔物を処理している最中だった。

    「スタンピードで生じた魔物を討伐した旨を伝えて来るから、二人は先に戻っていなさい。」

    外へ出るとグラムがそう言って門番の方へ向かったので、
    オレとモンストロは姿を見られない様に早足で町へ向かうことにした。

    「しかし、スタンピードって本当に危ないんだな…
    超初心者向けのダンジョンでも、グラムでさえ危ういレベルの魔物が出てくるなんて。」
    「お陰でワシはタッくんのお爺ちゃんになれたから、スタンピードさまさまじゃがの~。」

    モンストロは喜んでいるが、スタンピードで出現した魔物が何故か自分の祖父を名乗る
    生命体になって一緒に街まで戻るという展開は正直意味不明過ぎて自分でも飲み込み切れてない。
    頼りになるが、異様にキャラが濃くなってしまったグラム…モンストロも恐らくそうなのだろう。
    二人の祖父を御しきれるだろうか…今後の旅のことを思うと、ちょっとだけ頭がクラクラした。
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