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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    三十路のおっさん、『魅了』スキルを会得する。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(27)「…スキルが増えてる?」

    室内に夕日が差し込んで来た頃にオレは目を覚ました。
    眠気が残るまま、なんとなしにステータスを開くと
    見慣れぬ文字列が増えていることに気付いた。


     
     【 氏 名 】 枕木樹

     【 種 族 】 ヒト

     【 年 齢 】 28

     【 適 性 】 孫■

     【 職 業 】 期待の孫■

     【 能 力 】 体力:☆☆
             知力:☆
             防御:☆
             俊敏:☆☆
             耐性:★★☆☆☆

     【 孫 ■ 】 適応 鑑定 通知 格納 出庫 返却 時効取得 換骨奪胎
                          
             爺たらし 改竄 輪奐一新 魅了 偽装 秘匿



    一気に目が冴えたため、そのままスキルの詳細を確認していく。
    相変わらず大半の項目が貧弱なままだが、今はスキルの確認だ。

    魅了:対象を錯乱させ、一時的に従属関係を強制する。
       スキルを発動した状態で対象と一定時間以上目を合わせ続ける、
       または声を聞かせ続けることで上記効果を発生させることが可能。

    偽装:ステータス表示を一部偽装することが出来る。

    秘匿:他者からの『鑑定』『看破』などによるステータスの閲覧を阻害する。



    「『秘匿』は爺ちゃんが保有してるのと同じやつかな?
    『偽装』…も、使い込めば色々便利そうな能力だし『魅了』は精神感応系だと定番のスキルだな。」

    逃亡を始めて以来、色々と誤魔化してきた結果が『偽装』と『秘匿』の習得なのだろう。
    『魅了』は何で習得出来たのかよく分からないし、オレの様なおっさんが所持して良い
    能力ではない気もするが…まあ、スキルが増えたこと自体は喜ばしいことだ。

    少しして目を覚ました祖父二人にも、新しいスキルのことを報告した。

    「どんどんスキルが増えていくのぉ~、お爺ちゃんはそんな樹ちゃんにメロメロじゃ~!」
    「タッくんは『魅了』なんて使わなくても魅力的じゃー!かわいいのう、かわいいのう!」

    なぜ唐突に『魅了』なんてスキルが出現したのか、早くも判明してしまった。
    この感じだと、モンストロが仲間に加わらなくとも習得出来ていた可能性が高そうだ。

    「そういえば『偽装』なんだけど…コレ、結構良い感じの能力なんじゃないかな?」

    一応死んだふりに成功した(ことにしている)とはいえ、今後もどこで何があるか分かったものではない。
    自衛手段の一つとして、ステータスを隠す方法も複数保有していて損になることはないだろう。

    「『偽装』。」

    スキルを発動させると、ステータスの名前欄に半透明の青い枠が出現した。
    出現した枠に指で触れると、続けて空中にキーボードのようなものが現れた。
    この辺は『改竄』と同じで、基本的に手入力で文字列を書き換える感じなのか。
    キーボードには文字が一通り揃っていて、「消去/解除/決定」などのキーもあった。

    「…んー、まだ名前しか偽装出来ないっぽいな。」

    枠の位置を移動させようとしたが、どう頑張っても動かせなかった。
    他のスキルと同じく、とりあえず地道に使っていくしかなさそうだ。

    「よく考えたら"枕木樹"ってこの世界だとガッツリ異世界の文字だな…変えた方が良いのかな。」
    「樹ちゃんと最初に出会った時に『鑑定』を掛けたが、その時は普通にこの世界の文字で名前が
    表示されとったから必要なかろうて…名前の読みが文字として表記されている感じじゃったな。」
    「そうな感じなんだ…『適応』も便利なスキルだけど、表示が完全に異なるのは良し悪しだなあ。」

    初めて顔合わせをした際、オレはグラムに『鑑定』されていたらしい。
    …まあ、それもそうか。あの短時間で情報がどの程度伝えられていたのか分からないが
    グラムにとってオレはこの世界的に明らかに浮いた格好をした素性の分からない怪しい人間だ。
    ハイレム王とも腹の内を探り合う様な状態であれば、オレがどれだけ貧弱そうでも警戒はするハズだ。
    そういう点では転移直後の『孫』も『格納』も、説明文が大した脅威にならなさそうな内容だったのはラッキーだったと言える。
    これがもし"魂を格納出来る"なんて書かれていたらグラムが無防備に『格納』の餌食になることもなかっただろう。
    …その場合、そもそも出奔させられる展開にならなかったかもしれないが…それはそれでヤバかった気がする。

    「とはいえ使わないことには能力も成長しないから…うーん、とりあえず氏と名の間にスペースでも入れとこうかな。」
    「まだ覚えたてじゃからな、ワシと一緒にスキルの練習をするんじゃ!」

    モンストロはオレのステータスを見てずっとはしゃいでいた。

    「後は…"耐性"がパワーアップしてる…というか"耐性"ってなんだっけ?」
    「"耐性"は魔法や病などに対する適応力や免疫力と言われておるな。
    星の数が多いほど強力な魔法が低リスクで使えたり、病気になりにくくなるとか。」

    様々な事象に対する適応力の総合計みたいなものか…
    となると、他の項目同様星の数が多くなるに越したことはない。
    この項目だけ妙に伸びているのは、やっぱり"孫■"のスキルが強力なせいだろうか。

    「…ん?」

    ふと、ある項目の表示に違和感を覚えた。

    「あれ、何だコレ…バグ?」
    「どうしたんじゃ?」

    グラムが不思議そうな顔でオレに『鑑定』をかけ、画面を覗き込む。

    「いや、年齢がおかしくて…」
    「おお、確かに…樹ちゃん、若返っておるではないか。」

    あまり連呼したくないが、時の流れの結果としてオレは現在三十路のオッサンである。
    しかし、今現在目の前で開かれているステータス画面では"28"と表示されていた。

    「孫■は勿論、『輪奐一新』の説明も文字化けしてたし…やっぱり色々と不安定なのかも。」

    これまでに何度もステータスは開いていたが、年齢や名前の表示に気を配ったのは最初の一回くらいで完全に見落としていた。

    「タッくん、もしや『偽装』獲得のために年齢を…」
    「いや、アイドルじゃないんだからサバ読んでもしょうがないでしょ。」
    「まあまあ、実年齢より老けているならともかく若い分には良かろう…儲けもんじゃな。」
    「儲けもん…なのかな…?」

    表示だけ若返ったところで別に嬉しくないのだが…実害はなさそうなので、放置で問題ないだろう。

    「それよりもタッくん、スキルの練習をするならお爺ちゃんが『魅了』の実験台になるぞ!」
    「え?」
    「なんじゃと!?モンストロ!抜け駆けは許さんぞ!ワシだって樹ちゃんの『魅了』を体験してみたいというのに!」
    「え?」
    「樹ちゃん、ワシがモンストロを押さえておくから今のうちにワシに『魅了』を掛けるんじゃ!」
    「タッくんに『魅了』を掛けてもらうのはワシじゃああああ~ッ!」
    「ぬうっ…こやつ、魔法特化型のくせになんという力…!…ッ『相撲レスラー』の効果か!」

    『魅了』は名の知れたスキルだが、鍛えるとなると正直ちょっと手に余る。
    『改竄』と同じく、出来れば人間を練習台にすることは避けたかったところだが
    祖父二人はオレの考えを他所にやる気を出しており、実験台になる気でいる様だ。
    モンストロに至っては当然の様に"祖父(熊)"のスキルを使いこなしているのだが
    ハッキリ言ってこんなことでスキルを発動させないでほしい。

    「ええと…はあ、分かったよ…分かったから二人とも落ち着いて。」

    直接脳の情報を操作する『改竄』とは異なり、今回は『魅了』である。
    説明に"効果は一時的なもの"とあるし、習得したての今なら威力も大したことないだろう。
    スキルの説明的にも危険性は低そうだったので試しに『魅了』を発動してみることにした。

    モンストロの目を真っすぐに見つめ続ける。
    少しすると、モンストロの表情が少し緩んだような気がした。

    「…どう?」
    「タッくん…なんと愛くるしい…愛おし過ぎて胸が締め付けられるようじゃ、我が孫よ…」
    「いや、そういうのじゃなくて…『魅了』が発動中の感覚とかさ…」
    「頭がいつもより"ふわ~っ"となって、夢見心地でうっとりするようじゃ…」
    「創作物で見かける『魅了』のイメージと大体同じ感じか…そうか…となると、
    同じ感じだからこそイケメンでもないおっさんが使うのは絵面がキツそうだ…。」
    「タッくんは間違いなくイケメンじゃ…祖父であるワシが保証しよう…。」

    覚えたての『魅了』の威力が低いせいかどうかは不明だが、モンストロの場合は少し
    テンションが抑え気味になったくらいで言ってる内容は"祖父"特有の孫可愛やである。
    端的に言えば、普段と大して変わらない。

    「樹ちゃん、次はお爺ちゃんの番じゃ。」

    モンストロの様子を観察していると、側で控えていたグラムがスキルを催促してきた。
    結果だけ言えば…グラムも普段より頬が赤らんだ程度で、頭が多少ふわふわしていた
    ことを除けばそれほど様子が普段と異なっている感じはなかった。

    「はあー…気持ちよかったのう…」
    「いつもよりも孫を身近に感じることが出来た気がするぞい!」
    「よく分からないけど…まあ、満足したのならそれでいいや。」
    「うむ、これからは毎日『魅了』の練習時間を設けようぞ。」
    「え、本気で言ってる?」
    「鍛えられるものは鍛えておくべきじゃぞ、樹ちゃん。」
    「それはまあ、そうだけど…」

    正直絵面が地獄な気もするが、スキルはこまめに使って鍛えた方がいいのはその通りだろう。
    こんな感じで賑やかしく過ごしていると、不意に部屋のドアがノックされた。

    「はい!」
    「御寛ぎのところ失礼します…御夕飯の支度が整いましたので、食堂までお越し頂ければと思います!」
    「あ、分かりました!いつもすいません!」
    「大丈夫ですよ、お待ちしておりますね!」

    ノックの主はリミカだった。
    彼女は手短かに用件を伝えると、軽快に階段を降りていった。
    外はいつのまにか暗くなっており、夕飯時になっていたようだ。
    オレ達はスキルのチェックを中断すると、食堂へ向かうことにした。



    。。。。。




    「…以上で、スタンピードについての報告を終わります!」
    「…分かりました、遅くまで残ってもらってごめんなさい。
    今日はもう上がってくださいね、お疲れ様でした。」
    「はい、失礼いたします!」

    冒険者ギルドの一室…ぬいぐるみダンジョンのスタンピードについて
    報告を受けたベリルは、職員の姿を一瞥しつつ報告を書面にまとめた。

    「…ふう、こんなものかしら。」

    まさか、スタンピードが起こるなんて。
    件のダンジョンが発見されて以来、恐らく初となるスタンピード。
    しかも巻き込まれたのがあの祖父と孫だと知り、更に驚かされた。
    二人とも無傷で帰還したらしいので、震源地に出現した大魔性は
    大した強さではなかったのだろうが…とにかく、無事で良かった。

    ベリルは仕上げた報告書を丸めてヒモで括ると、片手で持ち上げた。

    「『転送』」

    スキルの発動と共に、羊皮紙はベリルの手から消え去った。

    「(小規模とはいえスタンピード、明日は忙しくなりそうね…)」

    ベリルは軽くストレッチを行った後、小さくため息をついた。



    。。。。。




    「ごっはん!ごっはん!ごっ…!? おおっ、なんじゃコレは!?」

    食堂にて、夕食の配膳を待っていたモンストロに"虎風庵の洗礼"が浴びせられた。

    「本日は雑穀の盛り合わせと魚の骨のスープ、それとヌピャルタのソテーです!」
    「ヌピャルタ!?ヌピャルタは初めて食べるぞ!!」
    「お父さんのヌピャルタ料理はとても美味しいので、是非ご賞味下さい!」

    モンストロの場合ヌピャルタ以外も食べるのは初めてなのではと思ったが、
    変にツッコミを入れると話が複雑になるのでここは黙っておくことにした。
    モンスターから人型になったとはいえ、一応モンストロは元熊である。
    果たして、口に合うかどうか。
    オレとグラムが見守る中、モンストロはヌピャルタに齧りついた。

    「はふ、はふ、はふ…うーむ……うまい!」
    「わ、ありがとうございます!」

    どうやら嫌いな味ではなかったらしい。
    今度は丸かじりする勢いでヌピャルタを頬張って咀嚼している。
    モンストロの様子を確認し終えると、オレも食事に手を付けることにした。
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