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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    甘味巡りのほのぼの回。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(30)「オススメの甘味処?
     アンタらから、そういう質問が飛んで来るたぁ思わなかったな。」
    「昨日は聞き取りで一日潰れてしまったので、今日はのんびりしようと思いまして。」
    「あの騎士のねーちゃん、雰囲気ヤバかったもんな。
     観光案内も情報提供程度はサービスのうちだから構わねえが…
     そうだな…紹介すんならやっぱり、重たくない料理の方が良いか?」

    そう言うとゼブラは何やら本を取り出しページをめくり始めた。
    どうやらグラムとモンストロの胃を案じてくれているようだが
    宿の夕食は結構ガッツリお出しされているので今更感がすごい。

    「お心遣い痛み入ります…が、心配ご無用!
     我が胃はこの身と同じ様に頑丈である故に!」
    「食べられないもの以外は食べられるから、大丈夫ですぞ!」

    後ろに控えていたお爺ちゃんズは、かわるがわる"胃は頑丈"アピールを始めた。
    なお、三十路のオレは既にスイーツをガッツリ食べるのがキツくなりつつある。
    いくら"祖父"とはいえ、無闇にハードルを上げない方が良い気もするのだが。

    「そうか? なら、豊穣祭のフルーツタルトをオススメしておくか。」
    「豊穣祭のフルーツタルト?」
    「町の外れにある…ああ、"豊穣祭"ってのは店の名前でな。
     そこのフルーツタルトが今、若いヤツらに人気なんだと。」
    「へえ…ちなみに、どんな感じのタルトなんですか?」
    「そういうのは行ってみてのお楽しみじゃねえのか?」
    「わくわくドキドキじゃな、タッくん!」
    「…ヌピャルタのタルトじゃないですよね?」
    「"フルーツ"っつったろーが!」
    「樹ちゃん、まずは訪ねてみるとしようではないか。」
    「がほほ! フルーツタルトじゃ、フルーツタルト!」

    単純にこれまで口にする機会がなかったというのもあるが
    この世界の果物に関しては"フラム"という種が燃えるヤバい代物しか
    知らないので、ようやく真っ当なフルーツを食べることが出来そうだ。
    他にも数軒、甘味処の情報を教えてもらうとオレ達は宿を後にした。

    "豊穣祭"はアラタルの中心付近、町の出入口となる南北の門から
    一番距離がある通りの一角に店を構えているという。

    「すいません、"豊穣祭"という店を探しているのですが…」
    「ああ…それならここが最後尾なので、並んでおけば大丈夫ですよ。」
    「なんと、店が開く前から人が並んでいるとは!」

    長蛇の…とまではいかないが、朝も比較的早く来たにも
    関わらず、既にそれなりの人数が店の前に待機していた。
    どうやら思っていたよりも人気のあるお店のようだった。

    「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりですか?」
    「ええと、フルーツタルトってありますか?」
    「アポロンの天空タルトでよろしいですか?」
    「はい、お願いします。」
    「では、こちらのお席へどうぞ。」

    店に入る前から注文を取られ、すばやく席へと案内される。
    移動中、他の客の会話が自然と耳に流れ込んできた。

    『ヤバwデカ過ぎw』
    『ウケるwパねぇw』

    『適応』の効果だろうが、砕けたやり取りも良い感じに翻訳されて聞こえる。
    他にもタルトを注文した客がいたのだろうが、ついたてなどに邪魔されて肝心の料理はよく見えなかった。

    「アポロンって、どんな果物なの?」
    「リンゴじゃよ。」
    「もの凄く簡潔で的確な説明が飛んできた。」
    「『高齢者講習』は素晴らしいスキルじゃのう。
     異世界の知識もバッチリ習得出来るのじゃから。」
    「一応聞いてみるけど、全く同じものではないんでしょ?」
    「そりゃあそうじゃ、樹ちゃんの世界にもフラムはないじゃろう?」
    「そうだね、ない。」

    言語の相互翻訳や、様々な耐性を付与してくれる『適応』も
    大概なスキルだと思うのだが『高齢者講習』が便利過ぎて『適応』が霞んで見えてしまう。
    というか眷属である祖父の方が、主である孫よりもスキル性能が良いのはどうなんだろう。
    とりとめのない会話を垂れ流していると、ウエイトレスが件のタルトを持ってきた。

    「ほおー…」
    「こ、これは…」

    目の前に置かれたのは焼きリンゴ…もとい、焼きアポロンタワー。
    土台であるタルト生地全体を覆う様に敷き詰められた焼きアポロン。
    生地の中央付近から上方向に、何個も積み重ねられた焼きアポロン。
    そういえば元いた世界でも、この手の昇天ペガサスMIX盛り…
    否、メガ盛りスイーツが流行していた時期があった気がする。
    まさか異世界で食べることになるとは。

    「とりあえず上から解体していくか…」

    アポロのタワーを慎重に崩し、生地と一緒に口に含む。

    「ん、おいしい…!」
    「見掛け倒しということもなく、上手に作ってあるではないか。」
    「口の中が甘いのう! とっても美味しいのう!」

    アポロンは食感も味もリンゴと同等のものだった。
    リンゴの原種は美味しくなかった…と、テレビか何かで
    観たことがあり心配だったのだが、どうやら杞憂だったらしい。
    ただ、味はともかく量はメガ盛りである…全部食せるかどうか。
    そんな心配をよそに、祖父二人はタルトをモリモリ食べていた。

    「もう少し重たい甘味かと思っておったが、これなら問題ないな。」
    「がほほー! おいしいのう、おいしいのう!」

    どうやら、完食についても杞憂だったらしい。
    オレが控えめな量を食べる横で、グラムとモンストロは
    美味い美味いと言いながら高速でタルトを消費していた。

    モンストロに至っては焼きアポロを手掴みで口の中にカパカパ放り込んでいる。
    熊の胃は容量も大きそうだ、タルトはあっという間に皿から消えててしまった。

    「美味しかったのう、タッくん!」
    「あー…うん、そうだね、おいしかった。」

    オレは皿に残ったタルトの残骸を口に放り込むと、急いで呑みこんだ。
    入店待ちも多そうだし、食べ終えたら早めに店を出た方が良さそうだ。

    会計を済ませ店を出ると、先程よりも入店町の行列は長くなっていた。

    「二人とも、おなかは大丈夫?」
    「この程度、大したことないわい!」
    「ワシもまだまだ食べられるぞい!」

    まだまだ余裕がありそうな二人に対し、オレは既に夕飯の心配をしていた。
    残りのスイーツがメガ盛りでないことを願いつつ、オレ達は次の店へと移動した。



    「お待たせしました、ボン・サレイショです! ごゆっくりどうぞ~!」

    やってきたウエイターが、注文した品物を三つテーブルに載せて帰った。
    豊穣祭と異なり、二番目の店は客の入りもそこそこで落ち着いた雰囲気だった。
    テーブルに置かれた小鉢を覗き込んで、まずは香りを確かめてみる。

    「名前からはどんな料理なのか全く分からなかったけど、美味しそうだね。」
    「サレイショのボール…ツヤツヤ輝く黄色い球形が実に美しいのう。」
    「しかし、さっきの天空タルトと比べると随分寂しい量じゃな…」
    「モンストロ爺ちゃん…アレは多分、タルトの方が例外だよ。」

    それにしても、どこかで見たことがあるような料理である。
    オレはボール状の菓子を一つ皿からつまみ、口に放り込んだ。

    「あ、なるほど。」

    口に含んだ瞬間、既視感の正体が判明した。
    多少味や形は異なるが、ボン・サレイショは
    元の世界でいうところの大学芋だった。

    「もしかして、サレイショってサツマイモ?」
    「ふむ…異世界で最も近い野菜はソレじゃろうな。」
    「味が完全に大学芋だったからね…」
    「レイショ系統の植物は土地が痩せていても育てやすいからな、
    料理の材料としてはどこの国でも一般的に使われておるはずじゃ。」

    確か、サツマイモもそんな感じだった気がする。
    世界が違えど似た食べ物があるのはありがたいことだ。

    この世界、パッと見は中世~近代辺りのヨーロッパだけど
    生活水準や文化的には印象よりも少し進んでる気がするな。
    こういう甘味を作るのにも、バターや砂糖が必要だろうし
    その辺はやっぱり、元の世界とは色んな点で異なっている。

    「タッくーん、もう一個同じのを頼んでもいいかの?」
    「これ、モンストロ…!もう少し味わって食べんか!」
    「…晩ご飯もあるけど、この感じならなら大丈夫か。
     でも、食べ過ぎないようにね。」

    食べ足りないらしく、モンストロは大学芋もどきを追加で注文した。
    一方グラムはボール状の芋を一個ずつ、じっくりと味わっているようだった。
    オレ達は芋ボールをタルトよりも早く食べ終わると、次の店へと移動した。


    「ワシュローター三人分でーす、どうぞ~!」

    店員がカウンターに置いた水筒を回収すると、
    オレはそれを後方で待っていた祖父二人に手渡した。

    「ほあっ、遂にモグモグすら出来なくなった!?」
    「こういうスイーツもあるんだよ、モンストロ爺ちゃん。」
    「飲み物か…であればこのままお昼に向かうとするかの。」
    「えっ、お昼? お昼、食べれる? …軽食でも、いい?」

    最後のお店は大通りの一角に位置する出店の一つだった。
    ドリンク専門店で、ワシュローターなる飲み物が看板商品である。
    件の飲料は半透明なオレンジ色の液体で少しばかりトロッとしている。
    使い捨ての紙コップなんて便利なものは存在していないため、容器は自前で準備しておく必要があった。
    幸い、その手の物品は常備してあるのでこうして三人分の飲み物を木製の水筒に入れてもらったのだ。

    「あー…でもこれ美味しい、はちみつレモンっぽい感じだ。」
    「ふむ、たしかに甘酸っぱく爽やかな飲み口で悪くない。」
    「どれどれ……むほほっ、これは確かに美味しいのう!」

    三人でワシュローターを分けて飲み、味を確認する。
    熊といえばハチミツ、モンストロがジュースを飲む姿は中々サマになっていた。



    「それにしても、ワシュローターって変わった名前だ。」

    空になった水筒を覗き込みながら、オレはなんとなくひとりごちた。

    「看板にワスフとシュラップが描かれておったから、その辺を組み合わせた造語じゃろう。」
    「えーっと…なんとなくだけど、ハチとハチミツってこと? それだとローターってなに?」
    「ワスフがハチで、シュラップがミツじゃな。 水はオーター…組合せてワシュローター!」
    「…『適応』スキルに相互翻訳機能がなかったら、多分もう死んでるな。」

    スキルは条件を満たせば絶対に習得出来るもの…というわけでもなかったはずだ。
    異世界からやって来た"勇者"の中にも『適応』がなかった人もいたかもしれない。
    まあ、勇者召喚は基本世界的な危機に対する最終手段のようなので、オレの様に追放されるパターンはレアケースなのかもしれないが。
    ともあれ未知の言語を一から習得するのは普通に大変なので、またしても『適応』さまさまである。

    「昼は控えめにしないと夜がつらそうだ…」

    町の中を暫らくぶらついていたがピンとくる店がなかったため、結局冒険者ギルドに併設された食堂へと向かうことになった。
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