声が聞こえた。
俺の名を呼ぶそれは、俺にすべてを忘れていいと囁いた。
背負わせた重荷も、勝手な願いも、もう俺を苦しめないからと。
とても優しい、とても寂しそうな声で。
誰かの名前を口走った。
それだけは、焦燥に埋め尽くされた頭の片隅でも理解できた。だが、それが誰のものなのかを考える余裕はなく、俺は力を失って倒れ伏した彼の身体に取り縋った。
滑稽なほどに震える指先を叱咤して、男の身のうちで悲鳴を上げているコアの状態を探る。そこに満ちているべきエーテルの欠乏は甚大で、捥ぎ取った羽の損失により浅くない罅割れが生じていた。
悩んでいられたのは、ほんの一瞬。刹那にも満たない時間だった。
かつて研究所で施されたことがある、コアに触れる遣り方を知っている。けれど俺にはそれを試した経験は一度もなかった。それに、これが男の望んだ結果であるのなら、俺の手は彼の意思によって拒まれるかもしれない。
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