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    #モザイクの魔術師 5中編2.5
    本編内には入れないけど、一応書いておいたら楽かなあ、というメモ(語り手・海猫支部長)

    情けない。

    ゼンダに、支部へ帰ってかりんを休ませるよう言った。彼はおとなしく、かりんを抱えて部屋を出た。
    今日のゼンダはずっと、おとなしかった。普段はヒメジに負けず劣らず怒りっぽいあいつが、この場で一番「師匠」であった。私よりもずっと。
    情けない。

    犯人に対する怒りは、もうなかった。
    そもそも自分には、犯人を責める資格すらなかった。
    履歴書を見ても、それは同じだった。
    教え子を理不尽に奪われた怒りがまるで湧いてこない自分に驚いた。
    「メジロ」の名を貶された時だけ、名付けた自分のために腹を立てた。
    そんな自分に絶望していた。
    なんて、情けない。

    「ああすみません、これ送るまで、ちょっとだけ待ってください。終わったらいくらでも殴られますから」
    水脈の声に振り向くと、ヒメジの蹴りを躱しながら、水脈がスマートフォンを操作していた。
    「申し訳ありません、上司が石耳なので、メールの方が捕まるのです。支部長殿」
    操作し躱しながら、水脈はこちらを向いた。
    その眼差しと言葉に、ハッとする。
    全く似ていない。何一つ似ていないのに、不思議とそれは、先日訪ねてきた草生青年を思い出させた。
    「ぼくをこちらの担当から外してもらうよう要請しました。追ってそちらにも連絡があると思います」
    「担当を?」
    「はい。なので」
    水脈はスマートフォンをしまい、今度はヒメジの拳を避けなかった。
    予想以上に当たりが良かったのだろう、逆にヒメジがたじろいだ。
    「……ぼくに恨み言をいうなら、今のうちです。もちろん殴っても蹴ってもいいです。水脈への私刑が必要悪であることは、ご存知ですよね」
    「ああ」
    水脈は、前科者の集まりだ。
    勤務のために懲役などの刑罰ができない分を、社会的制裁で補う暗黙のルールはある。
    さすがにちょっと立ち寄った水脈に一々制裁を与える、などということはしないが、被害者宅にあえて加害者を派遣するなどは、よくあることだ。
    「あの事件の犯人グループで外回りができるのはもう、ぼくだけです。鏑矢の身辺調査書は読んでいます。こうなる覚悟はしていましたし、積年の恨みをぶつけてもらうのもぼくの仕事です。けど…」
    水脈は、何か表情を変えたようだったが、殴られた顔ではよくわからなかった。
    「…お嬢ちゃんにも悪いことをしました。罪状を増やすために来たわけでは、なかったんですが」
    「でしょうね」
    ヒメジが横っ腹に蹴りを入れて、水脈は転がった。
    「……ほ、報告書では、記憶がないと、だけ…」
    水脈はまだしゃべり続けた。たいしたものだ。
    追撃しようとするヒメジを一旦止めた。
    「しかし、あのお嬢ちゃんの様子では、ぼくの滞在中に、制裁を加えるのは、難しいでしょ…何もできずに、犯人と一つ屋根の下にいる、なんて…その方が地獄じゃ、ないですか…なので」
    「そうか」
    うずくまる水脈の前に立った。私よりも小さな身体だ。雅之も、随分と身体が小さい子だった。
    湧き出す思いは、やはり一つだった。
    「ひとつ聞きたい。君は、モザイクではないようだが、本当に君は加害者なのか?」

    顔を伏せうずくまったままの水脈の、半白の髪が更に白くなり、また元の髪色へと戻った。

    「りゅ、リュウグウでは、あるんですよ…ただ最初に、ゴミ同然の石で、石婚したせい、でしょうかね…結晶を食っ、ても…頭部に集中、しきらなくて…力も、血肉への渇望も、変身も、中途半端で…薬で抑えが、きくのは、助かる…助かります、けど…。
    誰の結晶か、までは…先程、申し上げた通り…」
    「そうか」
    こいつは、誰かの結晶を食っている。
    それは、雅之のものかもしれない。
    そこまで考えても、やはり怒りは湧いてこなかった。
    湧いてくるのは、いつまでもただ一つ。
    水脈の前に、かがみこんだ。
    「あんたが誰で、誰を屠ったかは、もういい。
     わしはただ…雅之を石耳にしてしまったこと、あの病院に行かせて死なせてしまったことが、ただただ悲しい…それだけなんだ」
    ずっと。
    ずっと、私の中には、それだけだった。
    本当に、それしか出てこなかった。
    水脈はうずくまった体勢のまま、申し訳ありません、と小さな声で言った。

    私の電話が鳴った。
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