らしくあれたらと思う先「はい、ランちゃん、あーん」
「あーん……、んむぅ……」
目の前に優しく差し出された茶色い塊を口に含むと、溶け出していた甘い味がゆっくりと口の中に広がっていく。多分この甘さは、チョコレートそのもののだけではない気がする。
確かめるようにして味わいながら目線を真正面へ向けると、差し出されたままの親指と人差し指が映り込んだ。摘んでいたものを抜き取ったためか、指と指の間には隙間ができており、各々の指の腹には僅かに茶色いクリームがついているように見える。
口元へ運ぶまでの間に溶けたのだろうか。自然と惹かれる。手にしてた本を閉じ、膝の上に置く。空いた両の手を、伸ばした。
目の前にある大きな手、その握られている残り三本の指と手の甲を、自身の左手で上から包み込む。右手はその反対側から重ねるようにして、そうして彼の右手を固定する。
2019