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    dumb_bomb_

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    模索しながら書いたシャンバギ

    頂上戦争後、シャンクスの船に乗って逃げることにしたバギー

    酌み交わすだけの夜であっても 肩の重みに溜息は尽きない。
     宝の地図を条件にお願いを聞いてやったはずが、咄嗟の嘘だった、なんてことを言い出した。だからマリンフォードから安全に離れる為に船に乗ってやった。船員は何やら言いたげな顔をしていたが、船長が承諾したのだから仕方なく受入れたようだった。
     それからしんみりしているのは似合わないと飲めや騒げやと宴が始まる。あれだけの海賊や海軍が死に、世界を変えるほどの戦争で体力も精神もそれなりに削れたはずだが、旨い酒が提供されたとたんこの騒ぎだ。おれもさっきまではその中心で飲んで騒いでいた。今じゃ人の少ない端まで移動して、というより引きずられるように連れて行かれた。
     「バギー飲まないか」と振り返らなくてもわかる声に背中で拒否を示したが、連れてきた囚人たちは四皇から声が、酒の誘いを断ったぞ、さすがキャプテンバギーだ、と勝手に騒ぎだす。注目され崇められるのは嫌いではないが、誘い相手はあのシャンクスだ。ここで酒を飲み交わしたいとも思わないし、話したいことも何もない。「おめェとは飲まねえ」「飲もうぜ」繰り返される変わらない問答。こうなった時に大体折れなきゃいけなくなるのは「高い、いい酒があるんだ」どうだと出てきた銘柄に舌打ちをしながら頷く自分である。
     部屋にあるから部屋で飲もうと誘われて断った。理由は特にないがシャンクスの部屋で飲む気は一切なく、何度か同じやり取りを繰り返して「持ってこねェなら、おれァは向こうに行く」と浮かぼうとしたところで、両足を取られた。
     足質である。
     こんな船の上で取られたとしても何不自由はないが、仕方ないから待ってやると肘をついた。約束にもならないやりとりなんて守らなくても良かった。ここにいなくともあの足は海に放り捨てられもしないし、殴られることもなければ杭を打たれることもない。切られることはあるかもしれないが、切られたところで、である。あいつは一度でも自分の懐にいれた相手を傷付けることはない。当たり前といえどわかっていることに、うげぇ、と舌が勝手に出てくる。
     遅いなと待って数分、酒とグラスを持つ手が近づいてきた。足はどこだとのそのそと歩いてくる様を眺めていれば脇に挟んでいた。二本あった腕が一本に減ったのだ、それなのにわざわざ無意味な荷物を増やして取りに行くのはハデバカだ。
     こっちの悪態など知る由もない片腕の男は邪魔になったのか、忙しい手を持ち上げて人の足を適当に落とした。勝手に持って行ったのだからもっと丁寧に扱ってもらいたい、などと思うこともない。三本の傷が入った目はさあ飲もうと隣に腰掛ける。
     それから何を話したかなんてほとんど覚えていない。長年溜まったままの恨みから始まり、昔話なんぞで盛り上がり、だからおまえは嫌いなんだとまた恨み言を始めた。こっちは文句ばかりを並べてやってるのに、耳に入るのは「そうか?」「俺は楽しかったぜ」とまあ呑気なもの。昔を思い出すような言い合いやバカ笑い。おれが覚えていないことを語り始めるから何言ってるんだと顰めてみせたところで止まらない。覚えてないのかと勝手に話し続ける。あたりにはそこそこ値の張る酒、それからおれを釣った高級な酒の瓶が転がっている。こいつと飲むのが嫌いなわけではないし、旨い酒は飲んでるだけで気分が良くなる。笑い合って肩がぶつかったところで、なんで肩を並べて酒を飲み交わしてるのかとも思わない。酒は不味くならない。
     かといって、肩にある重りをいつまでも支える必要もない。ヒィヒィ後を引いていた笑い声は静かになり、この時間を味わうような意味をなさない間延びした声もなくなった。「退けろ」「重ェ」「邪魔だ」と文句を垂れたところで相手はシャンクスだ。悪びれるような言葉もなければ離れることもない。別にいいだろと許しを求める言葉もない。あったら気持ち悪いと思うか、心にもない癖にと思うかだ。いらないのだ。そんな言葉は。
    「おい、寝てねェだろうな」
    「……」
     うんともすんとも言わない塊に声を荒げて、聞こえていないのか変わらぬ調子で「なあ」と声が落ちた。
    「あんだよ」
    「バギー」
     改まって名前なんか呼んでどうしたと思うことなく唇が歪む。成長した証なのか浴びるほど酒を飲んできた証拠なのか、あの頃とは違う声音、名を上げてきたことを思わせることもできる低くどこかを震わせる声。久方ぶりに咄嗟に呼ばれた時はなんとも思わなかった発音が、なんとも思わない時間に何かに触れた、気がした。もちろん気のせいだ。
    「バギー」
     何かを請いてくる。その音が何を欲しているのかを分かる己の勘の良さが嫌になる。何年振りだか分からないほど久しぶりに会ったのに、離れていた、知らない時間のほうが長いのに、何故こんなことをわからなくちゃならないのか。
    「吐くなら他所いけ、ハデバカ」
    「ひどいなあ」
     嫌になる。
     言いたいことわかってるくせにと言葉裏に隠して笑ってくる。
     本当に嫌になる。
     素直に無言のお願いを聞いてやるのも嫌だし、かといってこのまま甘やかすのも嫌だ。ヤダヤダヤダ。「なあバギー」変わらず呼ばれる。なあと話しかけてくるならその続きを話せばいい。話さず口にもしないのであればやる必要はない。言ったとしてもやらないが。人を試しているのか欲しいなら欲しいという男がいつまで経ってもそれを言わない。肩に回っていたはずの手は腰を掴んでいた。
    「酒が足りねェからちょっくら取ってくらァ」
    「おれの部屋にある」
     アルコールが巡る身体に響く声。断っても断っても折れてくれやしない。むしろ折れさせられるのはこっち。宝だなんだとちらつかせては頷かせようとする。今だった部屋に宝の地図があると挫けることなく誘ってくる。そりゃあ宝の地図には興味あるし、こいつが持ってる酒は間違いなく旨いだろうことはわかる。かと言ってそれにホイホイとついて行くべきでない。酒は飲み交わしても、船長室はまた話が変わる。面倒臭いのはこいつかおれか。いや絶対こいつだろ。
     だがいつまでも酒のない時間を過ごすわけにもいかない。ほどよく回っている酔いが醒めてしまう。「なんだよ」「ちょっとぐらいいいだろ」「バギーのくせに」隣からはぶつくさと文句が垂れてくる。どうやら媚びることはやめたらしい。顔を拝んでやろうと首をはずして覗いてやれば、忘れた記憶が老けた顔で戻ってきた。
    「はっ」
     笑えた。いい年したおっさんが、四皇の赤髪がなんて顔をしてやがんだ。
    「てめェ、今度こそ本当に宝の地図あんだろうな?」
    「! ああ! たぶん、引き出しだったかなあ。違うか? いや、あるぞ、確か」
    「んだよ、その曖昧な言い方はよォ……今度もウソだったら承知しねェからな、シャンクス」
    「はは、たぶんある」
    「そこは確信持って言え」
     不満だらだらだった顔は勢いよく持ち上がると、へんな効果音が聞こえてきそうなほどに一変した。突き出てた唇はだらしなく広がり、頬の筋肉は機能をなくす。明かりがついたような表情に、大量の息を吐いても「早く行こう」と気にする素振りはなし。人に寄りかかりながら立ち上がろうとするから、手を離せと押しのけようと肘を突き刺しても「いいだろ別に」と上機嫌で無駄に体重をかけられた。漏れてくる変な笑い声に気持ち悪いと思いながら、こういうところは変わってねェのかよと放置していたグラスは手首を外して回収する。
     船長室の前についてもこの腰に添えられた手は離れない。ドアを開けろと髪の毛を掴むが開けてくれの一点張り。
    「おれは腕が一本しかないんだ。バギーは二本あるだろ」
    「知るか、自分で失くしてきたんじゃねェか。部屋で飲んで欲しけりゃてめェで開けろってんだ」
     唾を吐き捨てた台詞に「なんだよ、ケチだなあ」と漸く腰が解放される。てめェの部屋なんだからてめェで開けるのは当然だ。間違ってもおれがシャンクスの部屋の扉を開けるなんてことはあってはならない。
    「バギー」
     先に部屋に入ったシャンクスに誘われるかたちで足を踏み入れる。伸びてきた手は腰ではなく、背後の開きっぱなしの扉を静かに閉めた。
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    dumb_bomb_

    DOODLEシャンバギ

    精神的にバギーに甘えてるシャンクス。
    シャンが当たり前のようにお酒を片手にバギに会いに来てます。
    その蜜を吸わせて 昔は少し触るだけで怒られていた。
    「お前、本当に俺と同い年か?」
    「なにをすっとんきょーなこと言ってんだァ? テメェはよォ」
     指から滑り落ちていった空色の髪をもう一度掬い上げて親指の腹でさらりと撫でる。
    「俺の髪と全然違うじゃねぇか」
    「あったりめーよ! おれ様はちゃんと手入れしてんだ。テメェのなんかのと一緒にすんじゃねェ!」
     昔は、海賊見習いだった頃は、ニット帽に隠されたバギーの髪を暴きたくて暴きたくて、ちょっかいをかけては怒られた。突き刺すような陽射しの下でも、嵐に濡れた夜でも。夏島の蒸し暑い中でも。バギーは帽子を外すことはなかった。
     ハゲてるのかと聞いた時には「シャンクスじゃあるめーし、んなわけあるか!」と失礼なことを言われた。流石に子どもの時分からハゲることはない。あの時は言い返してレイリーさんから拳を落とされたなと思い出す。今思えばなかなかアホみたいなことで喧嘩したものだ。いつもそうだったが、あの時の自分は真面目に怒っていた。きっとバギーに言わせてみれば今でもその時のことは当たり前だと答えてくれるだろう。
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