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    シャンバギ

    バギーの首を斬れないシャンクスと、それを知っているバギー

    その首を打ち落とせば シャンクスがやばい奴だと思ったことは何度もある。その中でもハデにやばいと思ったのは、バラバラの実を食べて間もない頃だった。
     ド派手な一発をかましてきた海賊船と交戦となり、いつも通りセットで動いていた。悪魔の実の能力に馴染めきれず、まだ四肢を繋げた状態で戦っていた時だ。そこに一本のナイフが飛んできた。避けようとしてその必要がないことを思い出し、思い切って首で受け止める。能力が発覚してからは慣れるためだと斬られる練習を仲間から受けて、その時に首も切ってもらっていたから問題ないことはわかっていた。しかし殺される目的のナイフを受け止めるのは初めて。怖さに一瞬だけ身体の動きを止めてしまった自分も少なからず悪いとは思うが、相手の油断を誘う作戦としては無論大成功。
     飛ばされた首で見えたシャンクスの目は瞳孔が開いていた。
     味方のおれですら背筋が冷えるほどの恐怖を覚えたのだ、その殺意を剥き出された相手は恐怖なんて言葉で済ませられなかっただろう。むしろそんなことを感じる暇もなく事切れたかもしれない。そのまま二人目に斬りかかり深手を負わせたシャンクスが返り血を浴びたところでやっと声が出た。バラバラにさせた身体を戻して振り返った顔は、恐ろしいほどに安らかな目つきに変わった。
     その豹変ぶりは嫌というほどに脳みそにこびりついて、忘れた頃に何かを引き金によみがえってくる。
    「チンピラ相手に覇気を飛ばすんじゃねェ! 戻れなくなったじゃねェか!」
     たまたま立ち寄った島でたまたま顔を合わせてしまい、一杯どうだと誘われて断ろうとしたところで数時間前に財布を譲ってくれた奴らが仲間を引き連れて戻ってきた。あまりのタイミングの悪さに置いて逃げるはずが「知り合いか?」とくだらない冗談をかましてくるもんだから仲間判定を食らい、町の外れへと並んで逃げるはめに。「ベックから面倒を起こすなって言われてるんだ」間違いなくそう言ったはずの男は愛刀を抜くこともせずに、追いかけてきた野郎ども全員を地面に伏してしまった。
     相手の油断を誘うために首を飛ばしてやったのに、招いてしまったのは最悪の状況。いや、無駄に争うことなく逃げ切れたからマシだと思った方がいいのか。とりあえず、さっきの町に戻ることはできない。
    「うっかりしてた」
    「うっかりですませられるかってんだ! 知ってんだろ、おめェはよォ……!」
    「首なんて普通はそう簡単に飛ばないからな。久しぶりだったから間違えたんだ」
     とんでもねえのとしやがったなこいつ、と、バタバタと倒れていった輩を見下ろしている間にシャンクスに腕を引っ張られ乗り捨てられたボートに放り込まれた。向かいに座る男はまったく悪びれた様子のない謝罪の言葉の後に「それよりどうするんだ」と笑ってくる。これまでにも見たことはないが反省なんてしやしねェ。最悪だ。とりあえず迎えの船は別の場所に寄せてもらわないといけない。幸いにもこの島は少しばかり広い。さっきの町より少し小さくはなるが、このまま裏に回れば宿を探せそうだ。酒を飲んでも一晩は過ごせるぐらいの金はさっきの財布に入っていたはず。
     ボートとはいえ、いつまでもこいつと同じ船に乗る気はない。しかし残念なことに拾い物のせいかオールは一本。とりあえず事をわかっているシャンクスが自ら漕いではくれているが進みは遅い。日が沈む前までに降りれるか。
    「そういやおめェ、おれの首、斬ったことなかったよなァ」
    「何の話だ?」
     相手がシャンクスといえどただ静かに波を掻き分ける音を聞いているのもつまらない。あまり話したくはないが、そういえばとふと浮かんだ疑問を尋ねることにした。
    「おれが悪魔の実を食って、戦闘でも使えるようにってレイリーさんやギャバンさんたちが特訓してくれた時があっただろ」
    「あったな」
    「そん時、てめェも面白がって容赦なくバカスコ刀振ってきた癖によォ、首だけは刃すら向けれなかったよなァ」
    「―――そうだったか?」
     レイリーさんたちは料理でもするように当たり前にやってくるもんだから、最初は泡を拭いて気絶したのは覚えてる。それから何度もやられて慣れてくれば、分離した首を浮かせて戻すことは難なくできるようになった。不意を突かれた時は戻す前に文句を言えるぐらいの余裕ができるようになったが、シャンクスは一度として首から上に手を出すことはなかった。
    「今、試してみるか?」
    「ケッ。今じゃ意味ねェ。つーか、そう易々とおれ様の首を取らせるわきゃねェだろ! バカシャンクス!」
    「……」
    「文句あんのかァ?」
    「……いや。それより、降りたら酒でもどうだ」
    「断る! これ以上てめェと一緒にいてもロクなことにならねェ……!」
     さっきは斬らせたくせに。とでも言いたげな、いや、あの顔はそう言っていた。はっきりと顔に「易々と首を狙われたくせに」と書いてあった。軽いノリで誘ってきてるわりに口は誤魔化しきれていない。口角の上げ方がウソをつく人間のそれと同じだ。
    「じゃあ漕がねえ」
    「はア? じゃあ貸せ。おれが漕いでやる」
    「日没までに降りたかったらおれから取ってみろ。ただし、下手したら海に落ちるぞ」
    「この野郎……! 卑怯だぞ、シャンクス!」
    「海賊なんだから卑怯なのは当然だろ」
     こんなボロい船で暴れたら落ちるというより、壊れて否応なしにシャンクスの世話になりかねない。それだけは避けたい。海に落ちることよりも一緒に酔い潰れた方がマシである。「どうする、バギー」ろくに暴れることもできないせいで、この後を確信してにこやかに名前を呼ぶ声に抵抗することもままならない。
    「たくよォ……、てめェの奢りだろうな?」
    「奢りじゃないと飲んでくれないだろ」
    「あったりめェだ……。いい酒期待してるぜェ」
     とことん飲んでやると腕を組む。いい酒か、と再び漕ぎだしながらシャンクスは遠い水平線に顔を向けて視線だけが振り向いてくる。
    「船にならもってこいの酒がある」
    「そりゃあてめェの船にだろうが」
    「もちろんそうだ。どうだ? 町じゃなくて俺の船で飲まないか」
     このまま船まで向かうか、なんて人の意見も聞かずに大海原に方向転換しそうな空気。そもそもシャンクスの船にあるということは、かなり高い確率で船長室、つまりはこいつの部屋にあるということだ。
    「てめェの部屋で飲む気なんざねェぞ。そもそも町と船、どっちがちけぇんだ」
    「はははっ、そりゃあ町だ。船は少し離れたところに停まってるからな!」
    「だったら町へいけ!」
     つまらないと笑いながら崖沿いに進んでいく。
     今にも壊れそうなボートに一本のオール。早く着いて欲しいと急く気持ちとは裏腹に、主導権を握るのんびりとした男からオールを奪う気にはならない。そして男も疲れたと休憩するくせにそれを寄越してはくれない。何が楽しいのかと聞かれても何も楽しくはない。ただ不快なだけ。
    「酒の一本ぐらい持ち歩いてたら、ここで飲めたのにな」
    「飲むことばっかだな」
    「それはそうだろ?」
     どうやらこいつはすでに酔っているらしい。「バギーと二人で同じ船に乗ってるんだ」鼻歌でも歌いだしそうな陽気なリズム。おれはおまえと二人で同じ船に乗っていることは好きではないのに。しかもこのおんぼろだ。
    「おれ様を船に乗せたきゃ、ド派手な船を用意するこった」
    「ほお……! そうしたら乗ってくれるのか?」
    「ド派手な船にゃ、大量の財宝と宝の地図がいんだろ」
     それぐらいだったら簡単に準備できそうだなと笑い声。
    「まあ、一海賊の船長を奪い取ろう、てんだ。ただで乗せられると思うな」
    「すでに高くついてるだろ。他に何がある」
     海賊と海賊がぶつかり合って始まるのは陽気な宴の酒飲みじゃない。その前に必ずあるのは、命をかけた殺し合いだ。
    「どこぞの臆病な四皇の赤髪が、おれ様の首を斬り落とせたら乗ってやってもいい」
    「―――はっ、急に難易度上げやがったな?」
     覚えてろと開いた瞳孔は、ずっと昔にみたあの日の目と変わりがない。それだけでこいつにおれの首がとれるかの答えがわかる。今は到底無理であっても、この先何年後かはできるようになってるかも知れないが、少なくともおれたちは海賊で、今のところやめる予定はない。
     どちらも海賊であるうちに約束は果たされるのか。
    「覚えてたらなァ……!」
     悪質な笑みに道化の笑みを返す。睨み合いの末、どちらともなく吹き出せば「絶対乗れよ!」「てめェには無理だ!」「なんだと!」バカみたいな押し問答を繰り広げ、さっさと酒を飲ませろと一向に漕ぎ出そうとしないオールを奪い取った。
     
     









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    dumb_bomb_

    DOODLEシャンバギ

    精神的にバギーに甘えてるシャンクス。
    シャンが当たり前のようにお酒を片手にバギに会いに来てます。
    その蜜を吸わせて 昔は少し触るだけで怒られていた。
    「お前、本当に俺と同い年か?」
    「なにをすっとんきょーなこと言ってんだァ? テメェはよォ」
     指から滑り落ちていった空色の髪をもう一度掬い上げて親指の腹でさらりと撫でる。
    「俺の髪と全然違うじゃねぇか」
    「あったりめーよ! おれ様はちゃんと手入れしてんだ。テメェのなんかのと一緒にすんじゃねェ!」
     昔は、海賊見習いだった頃は、ニット帽に隠されたバギーの髪を暴きたくて暴きたくて、ちょっかいをかけては怒られた。突き刺すような陽射しの下でも、嵐に濡れた夜でも。夏島の蒸し暑い中でも。バギーは帽子を外すことはなかった。
     ハゲてるのかと聞いた時には「シャンクスじゃあるめーし、んなわけあるか!」と失礼なことを言われた。流石に子どもの時分からハゲることはない。あの時は言い返してレイリーさんから拳を落とされたなと思い出す。今思えばなかなかアホみたいなことで喧嘩したものだ。いつもそうだったが、あの時の自分は真面目に怒っていた。きっとバギーに言わせてみれば今でもその時のことは当たり前だと答えてくれるだろう。
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