花火大会「なんか今回、屋台少ない?」
「…そう、かも……」
夏祭り。
花火まで買い食いで時間を潰そうとしてるけれど、さっきから食べてるものの味がしない。味に集中出来ないぐらい周りを警戒してしまっている。
原因は隣にいる琉夏くん。
浴衣姿に赤いレンジャーのお面を頭に着けて、ご機嫌にイカ焼きに噛りつく姿はいかにも夏祭りを楽しんでるようにしか見えないけど、はっきりいって色気が凄い。
女の人達が二度見三度見する勢いですれ違いざまに熱い視線を向けてくる。
ただでさえ整った顔や金髪が目立つのに、それ以上に視線が…ざっくりとあいた琉夏くんの胸元に集中している。
それが分かるほど私も見てしまって…見えてしまっているのだけど…
「どした?恐い顔しちゃって」
「え?そ、そう?」
「うん」
コウみたい、と笑いながら指摘されて思わず眉間を擦った
「まぁ…オマエからの熱い視線は大歓迎だけどさ」
「えぇ?!」
ニヤニヤとお手本になるような笑顔で、これまたわざとらしく指先で浴衣を引っ掛けてひらひらと揺らしながら胸元を露出した。
「ヤ~ラシー♡」
「 わ、分かってるなら閉じて!」
「ははっ!」
大きい笑い声に視線が集まる前に慌てて浴衣を直そうと近付くと、食べ終わったイカ焼きの串を歯で噛りながら笑みを浮かべる琉夏くんの両腕が背後に廻った
「えっちなオマエ大歓迎♡」
「きゃあ!!」
そのまま強く抱きしめられて琉夏くんの胸元に鼻をぶつけた
・・・
「る、琉夏くん!」
「ははっ、ごめんごめん」
どん、と胸元を叩かれて腕を離す。
人が込み合う道の真ん中で抱きしめてしまったことに後悔も反省もないけど、恥ずかしそうに真っ赤になった可愛い顔を周りの奴に見せてしまったことはちょっと失敗したかな、と思った
「……琉夏くん」
「ん?」
むっ、とした表情と、ぶつけた鼻の痛みか、からかい過ぎたのか…ちょっと涙目になって見上げてくる
「…そんなに見て欲しいなら見てあげる」
「え…?…えっ…?」
何時ものように、もう、て怒られるのかと思ったら急に手を引っ張られ体制を崩した。
「ちょっ、ちょっと…どこ、行くの…」
「いいから」
戸惑ってるうちにどんどん歩いて進んで行く。
屋台は勿論、人も全くいない…気付けば何百年も植わり続けてるかも知れない大木に背中を預けてた(壁ドン……いや木ドン?)
「…花火、は…?…」
「まだ時間あるよ」
「…そう、だけど……」
「………」
「…その……えっと……」
「琉夏くん」
「…はい」
「見てあげるから、前、拡げて」
「え?」
「さっき見たいに拡げて?」
「…こ、こう?」
思わず敬語になってしまって、言われた通りに浴衣の前を拡げる。
木の陰にいるせいか風がひんやりとした
「………」
「…ね、ねぇ…」
「……」
「…あの、さ…」
「…………」
無言。ひたすら無言。
見えるのは彼女の旋毛だけ。
「琉夏くんの方が…」
「え?」
「琉夏くんの方が、ずっとえっちなんだから」
「え…っ?」
眺めていた旋毛が動くと胸に唇があたった
暗くてあまり見えなかったけど多分虫刺されじゃない
「行こう」
何事もなかったかのように、手馴れた様子で浴衣を直されると来た時と同じように手を引っ張られ花火会場へと戻れた