Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    biommsour

    @biommsour

    過去に書いたものの置き場です

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 12

    biommsour

    ☆quiet follow

    ゆさあおバレンタイン

    🍫「遊作チャンに新着メッセージでーす」
     珍しく端末AIを気取ってメッセージの受信を通知してきたので、遊作は怪訝そうに横目でデュエルディスクのAiを見遣った。
    「……誰からだ」
    「知りたい? どーしても知りたい?」
    「…………」
    「んだよ、相変わらずノリ悪いなー。財前葵からのメッセージ。読み上げてやるよ」
    「何で読み上げる必要が……」
     遊作の言葉を遮って、Aiは勝手にメッセージを読み上げはじめる。わざわざ自動音声のトーンまで真似ている。
    「『色々と忙しいのにごめんなさい。もしよかったら、放課後、前に話をした公園のベンチに来てくれませんか。』だってさ……これってアレじゃん?」
    「アレとはなんだ」
    「遊作チャンの鈍感! バレンタインだろ!」
     Aiはすかさず、ホログラムでカレンダーを表示させる。今月のカレンダーが拡大され、今週末にズームした。
    「ほら! 見て! 今週の日曜は14日! バレンタインデー! 見てってば!」
    「ああ……」
    「すっげぇ興味なさそうだな!」
    「ないな」
    「じゃあどうすんのよ? 行かないって返事しとくか」
    「……いや、いい。行くから」
    「ふ〜〜〜ん? それって……」
     今度は遊作がAiの言葉を遮ってスピーカーをオフにしてしまった。Aiは視線だけで不服そうにこちらを睨んでいるが、遊作はしばらくそのまま放っておくことにした。構ってしまえばいろいろと面倒臭いことを言われるに違いないからだ。

     財前葵は同じ学校の生徒であり、遊作の闘いに加わってくれた同志でもあった。はじめは彼女を自分の復讐に巻き込むかたちで関わることになってしまったが、そのあと彼女は、自らの意思で自分に力を貸してくれたのだった。
     葵が公園で、感謝の気持ちを述べてくれたことを遊作は覚えている。彼女は握手してほしいのだと言い、それはなんて対等で清々しい関係だろう、と遊作は思った。だから、友人という括りが許されるなら、葵のことをそこに置きたいと思った。彼女から呼び出されたならば、遊作は行くまでだ。

    「藤木くん」
    「財前……さん」
     遊作が公園に着くと、姿勢良くベンチに座っていた葵が立ち上がって声を掛ける。
    「わざわざ、来てくれてありがとう」
    「いや、……ところで、何か用事があるのか?」
     葵が学校では見せない、少し砕けた柔らかな表情を向けてきたので、遊作は意外に思った。学校では誰に対してもどこか距離のある接し方をしているように見えていたからだ。
    「これ、良かったら貰ってほしいの……バレンタインだから、チョコレートです」
     瀟洒な紙袋に入ったチョコレートを目の前に差し出され、遊作は一瞬、きょとんとしてしまった。Aiが言っていた通りの展開になってしまったが、遊作は実際に自分がそういうものを渡される想像なんて、したこともなかった。自分はそういうものとは縁遠いのだと、長い間感じていたからだった。
    「あ、ああ。……ありがとう」
    「うん」
    「でも、どうして俺に」
    「感謝しているから、藤木くんには」
     それを言うのなら自分もそうなのだと、遊作は葵に伝えるべきか迷った。以前ここに来たときは、ただ彼女の言葉を聞いただけだった。後になって遊作は、自分の生活に、生きている世界に、彼女との繋がりが生まれたことを自覚したのだった。それは彼女から一方的に言い渡されるだけのものではなく、遊作からだって、伝えてもいいものではないのだろうか。もしかしたら、いまがその機会かもしれない。
    「それで……」
     と、チョコレートの入った紙袋を受け取ったまま逡巡している遊作に、葵が続けて何かを伝えようとする。葵の瞳が、ためらうように伏せられては、そっと、遊作の顔を覗くように向けられる。きらきらと、瞳の中で光が瞬いている。
    「それ、で……?」
     葵の瞳と目が合ってしまうと、何故かどきりとした。遊作は気になってしまって、言葉の続きを促すように訊き返す。妙な間があいた。
     葵はみるみるうちに赤く染まっていく頬に両手を当て、必死に隠そうとしながら、意を決したように遊作を見た。
    「はじめて、なの……、その、……お兄さま以外に、あげるのが……」
    「はじ、めて……」
     葵があまりにも恥ずかしそうに言うものだから、なんだか遊作まで気恥ずかしくなってしまって、お互い無言になってしまった。
     Aiだけがデュエルディスク越しに何とも言えないでいるふたりを見つめていた。別に助け舟を出したりはしないのだ。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💕💕💕🙏👍🍫☺💕💕☺🙏💞💞😍😍😍😍👏👏👏👏🍫🍫🍫🍫🍫🍫🍫🍫🍫🍫🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    biommsour

    PASTあいゆオンリーの無配でした。ありがとうございました!
    愛の生活「久しぶりだな、この部屋もさ」
     久しぶり、というAiの言葉に、いったいどれほどの感慨が込められているのだろうか、と遊作は思い、けれど、いちいち感傷じみた気持ちを浮かべてAiを見つめるのは、なんというか、それは違う、と自分に言い聞かせて、ただ、そうだな、と彼は返事をした。
     心が壊れるかのような別離からしばらくして、Aiはひっそりと、遊作のもとへ帰ってきた。帰ってきたというのが正しいのか、遊作はこれから考え続けなければならない、と思っている。あのとき、Aiは遊作の目の前で、遊作の選択で、消滅したからだった。繋がりの途切れる瞬間を見た。あれは、確かに死だった。
     Aiは、体重を掛けると金属のフレームが軋んで耳障りな音をたてる質素なベッドに座って、壁の方へ視線を向けていた。ところどころ塗装が剥げた壁は内部のブロックが露出している。Aiの過ごしてきたシミュレーションという那由多の時間に比べたなら、まだ新しいと言えるかもしれないこの部屋の壁にも、遊作やAiやロボッピや、その前の住人たちの時間が、埃やシミとなり、キズや塗装の剥がれとなって、確かに堆積しているのだ、と遊作は考え、やはり、自分は幾らか感傷的になっているのだと自覚した。
    1969

    biommsour

    PAST以前ラキカで公開したロアロミの再録です
    「わたし、けっこう料理が上手くなったと思うんだけど……」
    「この惨状を見てもそう言えるワケ?」
     一般的に料理とは、鍋から噴水のようにあふれ出し、部屋を汚したりするものではないとロアは思うのだが、ロミンにとってはそうでもないらしい。
     彼女はその壊滅的な料理のセンスでロアの部屋をカレーの海に沈め(るだけならまだしもマンションごとカレー浸しにして管理組合にひどく怒られた)たのだが、そんなことではめげないらしく、初めて作ったカレーが案外好評だったのが相当な自信になったようで、それから今にいたるまで、彼女はときおり彼の部屋に、ただ、カレーを作りにくる。
     ロミンがカレーと呼ぶ極彩色は、刺激を与えなければ鍋の中にとどまっているところまで来たが(?)ほとんど爆発物だと思って取り扱わないと危険なそれを料理と呼ぶのが適当なのか、ロアは途中から考えるのをやめ、そのくせ、口に入れてしまえばわりといける味で、だから彼は、もう少しバンド活動を広げて、まだ一応は賃貸だったこの部屋くらいはせめて買い取らなければと、ふたたび鍋から噴き上がりはじめたカレーを見て、思ったりする。
    3748

    biommsour

    PAST大華と龍久
     両親は姉弟に対して、特にその役割や立場を押し付けるような教育方針ではなかったから、龍久ははじめ、大華のことを名前で呼んでいたし、そういう姉弟の関係性について、何も考えたことがなかった。確かに大華は姉であり自分は弟なのだが、この名前の通りに、大きな華の咲くように何事も派手なところのある姉を、そういう姉を持った弟にはよくありがちに、畏れ、圧倒されつつ、一番近くで一番遠巻きに眺めて育ったのだった。他人から見ればよく似ているまごうことなき姉弟は、しかし、本人たちにしてみれば、かなり違うところがあり、姉は常に強く、弟は常に弱かった。
     姉はいつしか龍久が名前で呼んでも反応してくれなくなり、大華をタイガーと読んで呼べと大仰に言い、龍久はちょっと困って、しばらくは姉の変化に戸惑うことになった。名前が変わることはそのまま、ふたりの関係性が変わることだった。別の名前で呼べという癖に、自分は頑なに、なんとか太郎だとか姉の印象丸出しで弟を呼び、正しく名前を呼ぼうとはしなくなっていた。もっとふたりが幼い頃は、姉は龍久と名前で呼んでくれたこともあるはずなのに、それはもう遠くなりはじめた幼少期の、思い出の中だけの出来事で、姉も自分もそこへ戻ることは二度とないのだと、弟はいつも不意に、姉との関係を思い知らされる。
    2060

    recommended works