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    biommsour

    @biommsour

    過去に書いたものの置き場です

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    前に書いた了見さんと遊作くんの短文です

    🍣▼寿司のカードをデッキに入れたい了

    「は、……え? スシ? ……寿司?」
    「そうだ、寿司だ」
     遊作が未だに「?」という表情をしたまま、もう一度「す、し」と、独り言とも確認ともつかないようなニュアンスで口にしたので、了見は「寿司、だ」と念を押すように、はっきりと発音してから、決闘の時にみせる不敵な笑みを向けた。
    「入れるのか……デッキに……」
    「それもやぶさかでない」
    「そうなのか……」
     そうして会話は続き、カードというか寿司ネタ(?)について語る了見は、ちょっと楽しそうに見える。遊作はそれを意外だと思った。きっとその信念や哲学は、出会った頃と変わらないままなのだろうけれど、こうして変わっていくところもあるのだと、遊作は気付く。それはふたりの関係であるはずで、こんどこそ、途切れずに続いていくのだ。遊作は会話に相槌を打つ。そうだ、まさか、ということもあるかもしれない。物語のあともふたりの会話は続いていく。驚くなよ、と了見は再び不敵に笑ってみせた。「もう口上も考えてある」


    ▼寿司屋へ行く了と遊

     寿司を食べに行くぞ、と了見が誘ったので、遊作は面食らって思わず返事をすることを忘れてしまったのだが、了見はそのわずかな間を肯定と受け取ったらしく、遊作を寿司屋へと連れ出したのだった。
     了見に促されるまま寿司屋の暖簾をくぐり、カウンター席に着いた遊作は、物珍しそうに内装などを眺めてから、寿司屋は初めてだと、つぶやいた。
    「了見はこういう店、よく来るのか?」
    「私は幼い頃、父と……」言いかけた了見は、はっとして口をつぐむ。「すまない。無神経だった」
     遊作は気まずそうに言う了見から視線を外すと、清潔な硝子のケースの中に整然と並べられた寿司のネタを見つめた。「俺は了見のそういう話、嫌いじゃない……」
     それから了見を見て、まるで何か秘密がばれてしまった子どものような顔をしたのだった。そんな表情をこの男はいつからするようになったのだろう、と了見は思い、自分も自分で一体どうして、よりにもよってこの男に、父親との思い出話などをしはじめそうになってしまったのかを、不思議に感じた。そういう変化を、どう受け止めたらいいものかと了見が考えあぐねて黙ってしまうと、遊作はいとも簡単に、そうしてあの時のように、沈黙を飛び越えてくるのだ。
    「俺はウニを食べてみたい」
     遊作はそう言うと、今度はいたずらっぽく笑ってみせたのだった。


    ▼了と遊の短歌

    つくられた世界の仕組み見るときはきみにはきみの悲しさがある
    0と1 16進数 生きること即ちそれは考えること
    何回もデコードをしてひび割れた数列のなか「あいしています」
    ペールブルーよりも氷かそれよりももっと漂白されたい瞳
    ただ声を覚えていましたなによりもだから忘れた全部忘れた
    なにひとつ叶わなくてもいいからと言い切るきみがいつか環になる
    そういえば話もできていなかったいつも雨でふたりは嵐で
    土砂降りが終わらないからそのあいだ目をそのあとにくちびるを見る
    ほんとうに降るものは雨それと罰知っているからぜんぶゆるした

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    biommsour

    PASTあいゆオンリーの無配でした。ありがとうございました!
    愛の生活「久しぶりだな、この部屋もさ」
     久しぶり、というAiの言葉に、いったいどれほどの感慨が込められているのだろうか、と遊作は思い、けれど、いちいち感傷じみた気持ちを浮かべてAiを見つめるのは、なんというか、それは違う、と自分に言い聞かせて、ただ、そうだな、と彼は返事をした。
     心が壊れるかのような別離からしばらくして、Aiはひっそりと、遊作のもとへ帰ってきた。帰ってきたというのが正しいのか、遊作はこれから考え続けなければならない、と思っている。あのとき、Aiは遊作の目の前で、遊作の選択で、消滅したからだった。繋がりの途切れる瞬間を見た。あれは、確かに死だった。
     Aiは、体重を掛けると金属のフレームが軋んで耳障りな音をたてる質素なベッドに座って、壁の方へ視線を向けていた。ところどころ塗装が剥げた壁は内部のブロックが露出している。Aiの過ごしてきたシミュレーションという那由多の時間に比べたなら、まだ新しいと言えるかもしれないこの部屋の壁にも、遊作やAiやロボッピや、その前の住人たちの時間が、埃やシミとなり、キズや塗装の剥がれとなって、確かに堆積しているのだ、と遊作は考え、やはり、自分は幾らか感傷的になっているのだと自覚した。
    1969

    biommsour

    PAST以前ラキカで公開したロアロミの再録です
    「わたし、けっこう料理が上手くなったと思うんだけど……」
    「この惨状を見てもそう言えるワケ?」
     一般的に料理とは、鍋から噴水のようにあふれ出し、部屋を汚したりするものではないとロアは思うのだが、ロミンにとってはそうでもないらしい。
     彼女はその壊滅的な料理のセンスでロアの部屋をカレーの海に沈め(るだけならまだしもマンションごとカレー浸しにして管理組合にひどく怒られた)たのだが、そんなことではめげないらしく、初めて作ったカレーが案外好評だったのが相当な自信になったようで、それから今にいたるまで、彼女はときおり彼の部屋に、ただ、カレーを作りにくる。
     ロミンがカレーと呼ぶ極彩色は、刺激を与えなければ鍋の中にとどまっているところまで来たが(?)ほとんど爆発物だと思って取り扱わないと危険なそれを料理と呼ぶのが適当なのか、ロアは途中から考えるのをやめ、そのくせ、口に入れてしまえばわりといける味で、だから彼は、もう少しバンド活動を広げて、まだ一応は賃貸だったこの部屋くらいはせめて買い取らなければと、ふたたび鍋から噴き上がりはじめたカレーを見て、思ったりする。
    3748

    biommsour

    PAST大華と龍久
     両親は姉弟に対して、特にその役割や立場を押し付けるような教育方針ではなかったから、龍久ははじめ、大華のことを名前で呼んでいたし、そういう姉弟の関係性について、何も考えたことがなかった。確かに大華は姉であり自分は弟なのだが、この名前の通りに、大きな華の咲くように何事も派手なところのある姉を、そういう姉を持った弟にはよくありがちに、畏れ、圧倒されつつ、一番近くで一番遠巻きに眺めて育ったのだった。他人から見ればよく似ているまごうことなき姉弟は、しかし、本人たちにしてみれば、かなり違うところがあり、姉は常に強く、弟は常に弱かった。
     姉はいつしか龍久が名前で呼んでも反応してくれなくなり、大華をタイガーと読んで呼べと大仰に言い、龍久はちょっと困って、しばらくは姉の変化に戸惑うことになった。名前が変わることはそのまま、ふたりの関係性が変わることだった。別の名前で呼べという癖に、自分は頑なに、なんとか太郎だとか姉の印象丸出しで弟を呼び、正しく名前を呼ぼうとはしなくなっていた。もっとふたりが幼い頃は、姉は龍久と名前で呼んでくれたこともあるはずなのに、それはもう遠くなりはじめた幼少期の、思い出の中だけの出来事で、姉も自分もそこへ戻ることは二度とないのだと、弟はいつも不意に、姉との関係を思い知らされる。
    2060

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