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    biommsour

    @biommsour

    過去に書いたものの置き場です

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    遊我とロミン/遊我とナナホ

     ロミンのはちょっと違うね、と言ったときの遊我の表情こそ、普段とちょっと違ったので、ロミンはことさら普段通りを意識して、そんなダサいものはとても着ていられないし、相応しい場には相応しい服装があるのだと、舞台に立つことに慣れた人間として、それらしく答えたのだったが、それはもしかしたら、照れ隠しだったのかもしれなかった。
     遊我の表情はほんの一瞬の変化で、ロミンの素晴らしい動体視力は、それを見逃さなかったけれど、そのあとの遊我はもう普段通りに戻っていて、それがまた、その一瞬を際立たせ、特別にするのだ。
     日々はそういう機微に富んでいて、砕けた光が鮮やかにきらめく瞬間を、ロミンは心に書き留めていく。それはいつか音楽になるのかもしれない。


    ────────────────────


     裏切り、という自分を傷付けた言葉が、他でもない自分の口から出たことにロミンはちょっと驚き、その言葉を聞いた遊我が横目でロミンを見やると、彼女は思わず、口を手のひらで覆う。
     弱みを握られ利用されていたとはいえ、自分が遊我たちに不義理をしていたことが明らかになったとき、機嫌を損ねた龍久はしばらく口も聞いてくれず、ロミンがしたこともなかった手料理で一生懸命にもてなして、それでやっと機嫌を直したのに、その本人は敵対する相手の口車に乗せられてあっさりと寝返ってしまうのだ。
     裏表がない、と言えばそこは長所なのだが、龍久は、王だとか社長だとかそういう肩書き、つまりは地位や名誉にめっぽう弱い所があって、それは自分に自信がないことの表れなのではないか、とロミンは冷静に友達を分析したりもし、龍久の、その思想や思考のなさがときどき、怖くなる。
     ロアは、龍久のそういうところをすっかり見抜いて指摘し、調子を取り戻した龍久に勝ちを譲ってしまったけれど、それは龍久が決闘に勝って勝負に負けた、という感じに思えるし、だからロミンは、ロアは人を励ますのが上手いのよね、別に言葉が優しいわけじゃないんだけど……と、なんだか口走ってしまったのだけれど、うん、それ、ボクもそう思うよ、と遊我がすかさず味方をしてくれたのは、意外だったから、ロミンは遊我を見返す。遊我はちょっと、なんというのか、ロミンがあまり見たことのない表情をしていた。


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     幼い頃……と、自分のことをいまだに幼いとは考えていない遊我が回想するのは、決闘に出会った頃やのちに自らのエースとなるカードをもらった頃のことなのだったが、もちろんそこに、苦手なものが苦手になったときの記憶は存在するものの、思い出すことをなるべく回避してきてしまったからか、彼女が目の前に現れて、思いがけない暴力に打たれたように、反射的に、遊我はその名前を口にしてしまったのだった。
     あのとき、一緒におにぎりを食べるはずだった彼女は、てんとう虫に頭を食べられてしまったはずだし、そうして泣く彼女を遊我は目撃してしまったはずなのだ。
     すると、瞬時に遊我の内に沸き起こるのは強烈な嫌悪感と恐怖とで、すぐに頭がいっぱいになってしまい、どうしようもなくなってしまう。
     逃げ出した遊我の手を取ったのは龍久で、だから、やっとの思いで遊我は恐怖を払い除けて対峙できたのだけれど、はたして、遊我が本当に逃げ出したくなるほど苦手なのは、虫なのか、それとも、彼女なのかは、もうすこし冷静にならなければ、たぶん気付くこともできない。
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    biommsour

    PASTあいゆオンリーの無配でした。ありがとうございました!
    愛の生活「久しぶりだな、この部屋もさ」
     久しぶり、というAiの言葉に、いったいどれほどの感慨が込められているのだろうか、と遊作は思い、けれど、いちいち感傷じみた気持ちを浮かべてAiを見つめるのは、なんというか、それは違う、と自分に言い聞かせて、ただ、そうだな、と彼は返事をした。
     心が壊れるかのような別離からしばらくして、Aiはひっそりと、遊作のもとへ帰ってきた。帰ってきたというのが正しいのか、遊作はこれから考え続けなければならない、と思っている。あのとき、Aiは遊作の目の前で、遊作の選択で、消滅したからだった。繋がりの途切れる瞬間を見た。あれは、確かに死だった。
     Aiは、体重を掛けると金属のフレームが軋んで耳障りな音をたてる質素なベッドに座って、壁の方へ視線を向けていた。ところどころ塗装が剥げた壁は内部のブロックが露出している。Aiの過ごしてきたシミュレーションという那由多の時間に比べたなら、まだ新しいと言えるかもしれないこの部屋の壁にも、遊作やAiやロボッピや、その前の住人たちの時間が、埃やシミとなり、キズや塗装の剥がれとなって、確かに堆積しているのだ、と遊作は考え、やはり、自分は幾らか感傷的になっているのだと自覚した。
    1969

    biommsour

    PAST以前ラキカで公開したロアロミの再録です
    「わたし、けっこう料理が上手くなったと思うんだけど……」
    「この惨状を見てもそう言えるワケ?」
     一般的に料理とは、鍋から噴水のようにあふれ出し、部屋を汚したりするものではないとロアは思うのだが、ロミンにとってはそうでもないらしい。
     彼女はその壊滅的な料理のセンスでロアの部屋をカレーの海に沈め(るだけならまだしもマンションごとカレー浸しにして管理組合にひどく怒られた)たのだが、そんなことではめげないらしく、初めて作ったカレーが案外好評だったのが相当な自信になったようで、それから今にいたるまで、彼女はときおり彼の部屋に、ただ、カレーを作りにくる。
     ロミンがカレーと呼ぶ極彩色は、刺激を与えなければ鍋の中にとどまっているところまで来たが(?)ほとんど爆発物だと思って取り扱わないと危険なそれを料理と呼ぶのが適当なのか、ロアは途中から考えるのをやめ、そのくせ、口に入れてしまえばわりといける味で、だから彼は、もう少しバンド活動を広げて、まだ一応は賃貸だったこの部屋くらいはせめて買い取らなければと、ふたたび鍋から噴き上がりはじめたカレーを見て、思ったりする。
    3748

    biommsour

    PAST大華と龍久
     両親は姉弟に対して、特にその役割や立場を押し付けるような教育方針ではなかったから、龍久ははじめ、大華のことを名前で呼んでいたし、そういう姉弟の関係性について、何も考えたことがなかった。確かに大華は姉であり自分は弟なのだが、この名前の通りに、大きな華の咲くように何事も派手なところのある姉を、そういう姉を持った弟にはよくありがちに、畏れ、圧倒されつつ、一番近くで一番遠巻きに眺めて育ったのだった。他人から見ればよく似ているまごうことなき姉弟は、しかし、本人たちにしてみれば、かなり違うところがあり、姉は常に強く、弟は常に弱かった。
     姉はいつしか龍久が名前で呼んでも反応してくれなくなり、大華をタイガーと読んで呼べと大仰に言い、龍久はちょっと困って、しばらくは姉の変化に戸惑うことになった。名前が変わることはそのまま、ふたりの関係性が変わることだった。別の名前で呼べという癖に、自分は頑なに、なんとか太郎だとか姉の印象丸出しで弟を呼び、正しく名前を呼ぼうとはしなくなっていた。もっとふたりが幼い頃は、姉は龍久と名前で呼んでくれたこともあるはずなのに、それはもう遠くなりはじめた幼少期の、思い出の中だけの出来事で、姉も自分もそこへ戻ることは二度とないのだと、弟はいつも不意に、姉との関係を思い知らされる。
    2060

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