再度ダ・ヴィンチ女史達が、詳しく田中君の霊基を調べて分かった事があると言われた私と以蔵、龍馬が呼ばれた。
「あれ、おたく等も呼ばれたって事はそっちも関係あるってことですかね?」
医務室に呼ばれて向かうと、新撰組の面子が医務室の前に立っていた。
「新撰組が何の用じゃ。新兵衛の事ならわし等だけで十分やき」
「以蔵。今は同じマスターの元に集まった同志だ」
突っ掛かろうとする以蔵を止めて、一先ず田中君の状態を知りたいのもあり先に医務室の扉を先に開ける。
中に居たのはダ・ヴィンチ女史とホームズだけで田中君の姿は無かった。
私を認識出来ない以上、共に居ても仕方がない。
部屋の前で止まっているとホームズから、部屋に入る様に促された。
「部屋へどうぞ」
「あ、あぁ。すまない」
私を先頭に部屋に入るが、呼ばれた人数が人数であるせいで端まで詰める事になり狭く感じる。
全員が入ったのを確認してから、ダ・ヴィンチ女史がホームズと顔を合わせてから離し始めた。
「みんな集まったから話し始めるよ。内容については田中君の事だ。彼について調べて行く内に、どうしてもSAITAMAの特異点が絡んでいる事が分かった」
かの聖杯戦争の話を出され、頭を強く打たれた様な衝撃が走り目の前がぐらつく。
記録となった筈のあの聖杯戦争が、一体彼に何を齎してしまったのだろうか。
足元から崩れていく何かに、顔を俯かせていると以蔵に脇腹を肘で突かれる。
脇腹の痛みにハッと顔を上げると、ダ・ヴィンチ女史が話を続けて良いか視線で訴えていた。
そんな女史に申し訳なく思いつつ、続けて欲しいと言えば女史が話し始める。
「岡田君からの情報だと、田中君と倒れる前にSAITAMAの話をしたんだよね?」
「あぁ、覚えちょるか聞いた。そしたら、新兵衛の奴。かるであは来なかったって言ったき」
以蔵の言葉に、場に居た者全員がざわついた。
私の記録にあるSAITAMAには、カルデアが来ていた。
しかしあの田中君には、カルデアが来なかったのだ。
反応に付いては予想していたのか、ダ・ヴィンチ女史は驚いた様子は無かった。
「田中君が言っている事が正しかったら、私達が知っているSAITAMAとは異なっている。何せ、私達は実際にSAITAMAに行って修復したからね。まだちゃんと田中君本人の口から聞いた訳ではないから確証は少ないけど、私とホームズは一つの仮説を立てみた。ここに召喚された田中新兵衛は、私達カルデアが修復に間に合わなかった世界線のサーヴァント。そして何らかの事情で、このカルデアの世界軸に召喚されてしまった。だから、記憶を保持していても可笑しくないと思う。また彼には、SAITAMAの記録は見せていない。もし、この仮説が合っていて武市君だけを認識出来ない異常の理由としては」
「SAITAMAの地であの田中君は、私を殺した事になっているからだろうか」
ダ・ヴィンチ女史の言葉を遮って、思わず声を出してしまった。
もし彼女が言う話が本当であれば、田中君はあの場で私を殺してしまう事になるのだ。
きっと私の最後の言葉も聞けず、アマサカ神に操られたまま私を殺めた。
「そう言う事だ。ミスター武市。彼が君を殺す事で、あの場は決着が付いてしまう。彼にとって君の存在が大きい事は、我々も記録を見て分かっている。そんな彼が操られたとは言え君を殺したとなれば、精神的異常をきたすのか仕方がない」
「もし、彼の異常がSAITAMAにあるなら……どうすればいいんだ。あの特異点は修復して、存在していない筈だ」
存在しない場所に行く事は、例えカルデアの技術があったとしても無理だろう。
どうしたものかと、考え込んでいると土方が口を開いた。
「それで、新撰組が呼ばれた理由はなんだ?」
確かに呼ばれているが、今の話では関係が無さそうにも思える。
もしかすると関わりがあるからと言う理由で、呼ばれただけなのかもしれない。
そしたらただ呼ばれただけになるのは、申し訳ないと思ってしまう。
「あ、ごめんごめん。君達には、田中君の史実の最期について聞きたかったんだ」
田中君の最期については、新撰組は一切関わってはいない。
だから聞かれても困るだろうと思い、口を開こうとした。
しかし、私が言うよりも先に斎藤一が答えていた。
「田中新兵衛の最期ねぇ。あれ、うちじゃないんだよなぁ。何処でしたっけ?」
「そうですね。田中新兵衛については、新撰組は蚊帳の外なんですよ。なので、私達も分からないと言うか……そこはどうなんです。武市瑞山とかダーオカとか」
「俺の方にも上がってねぇなら、俺も知らねぇな」
口を揃えて、知らないと言う所までは良かったのだ。
私が困ったのは、田中君の最期についての話題を振られてしまった事だった。
話しの流れ的に、新撰組はSAITAMAの記録を全て見た訳ではないらしい。
以蔵も以蔵で困ったのか、私にどうするかと視線を向けて来る。
「新兵衛さんの最期は、何も口を割らずに割腹からの頸動脈を斬った事による自死としか僕も知らなくてね。多分、以蔵さんも武市さんもこれ以上は分からないと思う。と言うより、SAITAMAの記録を見た方がいいかもしれない」
黙ったまま話を聞いていた龍馬が、新撰組と私達の間に入る様に口を挟む。
遠回しに聞かないで欲しいとも聞こえる言葉の選びに、新撰組も気付いたのか深追いはしなかった。
「腹掻っ捌いて喉掻っ切るったぁ、気合の入った奴だな。田中新兵衛は」
「副長。多分、それ今言う事じゃないですって」
「空気読んでくださいよ、土方さん」
「他に言いようがねぇだろ。仲間内の事を晒せねぇなら、それなりに探らせたくない腹があるって事だろ。これ以上、俺達が居ても意味はねぇ。屯所に戻るぞ」
土方の言う通り、田中君の事は彼が不在の今は探られたくはなかった。
この場に居る意味が無いと判断した土方が動き出し、それに続く様に斎藤と沖田が動く。
扉まで来たところで、土方が止まり続いて二人も止まる。
何かあるのかと思っていると、土方が振り向き口を開いた。
「俺達は、近藤さんが上に立つべき人間だと判断した。だから、芹沢を殺した。ただそれだけだ」
そう言うと土方は扉を開けて、廊下へと出て行く。
突然の事に口を開けたまま固まっていると、斎藤がへらりと笑いながらこちらを振り向いた。
「すみませんね。うちの副長、言葉足りなくて。あれはおたくの込み入った事情に首突っ込んだ詫びみたいなモンですよ。まぁ、おたくとは違ってうちの事情は歴史に残ってるから今更だろうけどな」
「斎藤さん、意地悪いですよ!ほら、早く行きますよ。土方さんが待っていますし」
沖田が斎藤の背中を押して部屋を後にするのを見送り、一気に襲う疲れに深い溜息が漏れた。
新撰組の芹沢鴨については知っているが、改めて本人たちの口から聞かされるとは思っていなかった。
「最後まで嫌味な奴らじゃき……わしが黙ってるからって」
「以蔵さん、よく耐えてくれたよ。いつ突っ掛かるかって、冷や冷やしていたしね」
「もしもの時は、お竜さんがナメクジ以蔵を喰って黙らせるから安心しろ。龍馬」
「食べちゃダメだからね!?」
龍馬と以蔵達のやり取りを遠くで聞きながら、私は田中君に罪を着せる事となった日の夜を思い出していた。
誰に話せる訳でもない、あの日の事。
歴史に刻まれる事もなく、かと言って土方の様に堂々と正しい事だと言い張る事も出来ない。
「武市君、ごめんね。今回は、かなり特殊な例だったから」
「あ……それは仕方ない事だ。もし、田中君を戻すとするならやはり」
あの地に行かなければと言い掛けた瞬間、警報音がカルデア内に鳴り響いた。
まさかと思い、扉を開けると目の前をマスターの腕を掴んで走って行く田中君の姿があった。
「田中君!?どうしたんだ!!」
突然の事に声を掛けるが、私を認識出来ないのだから声も聞こえない。
だからそのまま走り去っていく田中君を追う様に、私も部屋を出て走り出す。