「叔父上、叔父上は唇同士を合わせた事はありますか?」
姪からの突拍子の無い襲撃には大分慣れ始めていたが、突拍子のない質問については慣れていなかった。
「ん?」
「その様な話を巴殿としたんです。私も経験はありますが、叔父上はどうかと思いまして」
そう言って、我が機体によじ登ろうとする姪を慌てて手で止める。
演算より先に行動するのが、我が姪である事をすっかり忘れていた。
そして、我が演算が出した答えはただ一つ。
姪は、我に唇を寄せ様としている事。
「叔父上!」
「我が姪よ。分かってはいるが、問わねばならない。何をしようとしている」
「唇同士を合わせようかと思っています!叔父上も分かっているなら、手を退けてください。主の言い付けで、叔父上を斬るなと言われているんですから!」
「我がマスターに謝罪と感謝を伝えよう」
手の下で暴れる姪に、やはりと思いながら何か姪の気が逸れる事を頭部ユニットの中で考える。
我には子は居たが、父として何かしてやれたのだろうか。
その中に情報さえあればと考えて、視界に映る姪の姿に演算が止まる。
姪は父親、我が宿敵である兄を早くに失ったと聞く。
これはこれで、姪なりに子として甘えているのではと別の演算の答えが出された。
姪を押さえている手を退けると、姪は我が腕を軽やかに走り抜けて肩へと辿り着く。
「叔父上、油断されましたね。私は八艘跳びもした義経ですよ!腕からここまで来るのは簡単な事です」
得意気に我に話す姪にそうかと返して、他にも何かあるのではと演算を始める。
子が喜ぶ言葉とは何かと考えると、口元のパーツに何やら柔らかい物が触れた。
「もう少し硬いかと思いましたが、これはこれで」
「………」
自身の口元に触れながら、姪は我が機体からひらりと飛び降りる。
演算よりも先に、逃げ様とする姪に手を伸ばしながら一言叫ぶ。
「この馬鹿者が!」
「今度はもう少し雰囲気作りを頑張りますね、叔父上ー!」
そうじゃないと言いつつも、姪を追いかける事はそれなりに楽しい事ではあった。