俺は、夜道を先生と二人で歩いていた。
剣道の防具と竹刀を背負って歩く俺の後ろを、先生はゆっくりと歩いている。
「田中君、夜道は気を付けて歩くんだよ」
「はい。分かっています、先生」
「それならいいんだ。夜道は危ないからね」
木々が生い茂り、街灯も無い夜道は確かに危険である。
不審者については、俺の体格を見れば一目散に逃げ出すから危険性は少ない。
ならば、何が危険なのだろうか。
先生は、一体俺の何を心配しているのだろう。
背負った防具が揺れて、月明かりが俺と先生の影を映し出している。
「……?」
映し出された影に、見慣れぬものを見付けて首を傾げた。
俺と先生が居るのだから、影は二つであっている。
だが、二つの影が異なる形を映し出しているのだ。
一つは揺れる防具の影がある俺。
もう一つは、三角の尖った耳と、それと大きな口。
その影に気を取られて、何かに躓いてしまった。
「田中君。転んでしまったね」
先生に声を掛けられた瞬間、咄嗟に口から言葉が出た。
「いえ、小銭を落としてしまったので拾おうと思ってしゃがみました」
「そうなのかい?小銭は拾えたのかな?」
「小石の間違いでした。先生、ここまで送っていただき有り難うございます」
「まだ君の家は遠い。送って行くよ。君が転ばない様に」
獣の匂いがまだ残る中、先生は俺の後ろをゆっくりと歩く。
まだ着かない家まで、俺を送るために先生は付いてくるのだ。