「先生。僕、先生の首が欲しかったんです」
寝室に潜り込んできては、私の寝首を掻こうとする晋作を殴り飛ばす事数十回。
英霊になったとは言えども、そろそろ手が痛くなってきた事を理由に晋作の私の首への執着する理由を探す事にした。
私の首を欲しがる晋作は、例えるなら無い物をねだる子供の様な感情と言える。
飴を買って貰えない子供が、あれが欲しいとねだっている。
そんな感情だと言えるのかもしれない。
生前の晋作はまともとは言えなかったが、人の首を欲しがる事はなかったと思う。
ただ武士である以上は、首が欲しい気持ちがあるのは仕方がない事なのかもしれない。
だが私の首への執着は、武士のそれからは大きく外れていた。
「確か晋作は彼の地を拓く前に、戊辰聖杯に参加していたな」
彼が過去に参加していたと言う戊辰聖杯で、首に執着するきっかけがあったのだろう。
そのきっかけさえ分かれば、晋作を止める事が出来るかもしれない。
そうと決まればと早速魔術師の元へと赴いて、戊辰聖杯についての記録はないかと問い掛けた。
「私達が行ったのは戊辰聖杯が終わった後なので、それ以前の記録は無いんです」
「そうですか。少し確認したい事があっただけなので、気にしなくても大丈夫ですよ」
手掛かりがない事を察して、その場を後にしようと踵を返すともう一度魔術師に引き留められた。
「もしかして、首の事ですか?それだったら、思い当たる事があります」
「聞かせて貰っても?」
魔術師もどうやら、晋作の私の首への執着を不思議に思っていたらしい。
晋作のやる事ならば、多少なりとも目は瞑っていたから敢えて報告はしていなかった。
報告がないならば、魔術師も手を出す訳にはいかずにやきもきしていたらしい。
「地球の蘭丸君が、宝具としてノッブの首を持っていたらしくて」
地球のと聞いて、他にも森蘭丸が居るのかと聞こうとしたが、確かに蘭丸Xと言う別世界の森蘭丸が居たので口を噤む。
魔術師の話を要約すれば、晋作は戊辰聖杯で地球の森蘭丸と対峙して考えが変わったと言う事になる。
だからと言って、何故それが私の首への執着になるのか皆目見当が付かない。
「それで、首が欲しいと」
「みたいです。宝具にはならないのに」
そう言って悩む魔術師に、同意する様に頷いた。