「俺はさ、五条の幸せを祈ってるんだよ」
そう言って俺の担任様は、他人事のように残酷な言葉のナイフを突き立てる。
「だからぁ。俺は悠仁と幸せになりたいんだって」
夏の陽射しの様な眩しい笑顔が一瞬だけ雲って、また直ぐに笑顔に戻る。
唯一違うのは、少し困った様に眉を下げて笑う所だろう。
「ごめん。それだけは、叶えてやれないん」
理由なんて聞かなくても分かってるけど、それでも俺は納得出来なかった。
五条家が後ろ楯になれば、上の連中だって迂闊には手を出せない。
それに、もしもの時は俺が上の連中をどうにかする事だって。
「ほら、五条。変な事考えんのやめやめ。明日から遠方の任務なんだからさ」
俺の頬を両手で包んで、また眩しい笑顔を向けられる。
笑顔が眩しくて、それと同時に触れられている手から伝わる体温が気持ち良くて目を細めた。
本当に好きだなと染々思っていると、その手は気付けば離れていく。
追うように手を伸ばすと、悠仁は俺から離れて行った。
「じゃ、頑張れよ!俺、もう行かないとだから!」
「いや、今のキスする流れだっただろ!!」
「んー、帰ってきたら考える!」
大人の余裕と言う様に、俺をからかって悠仁は行ってしまった。
はぁと深い溜め息を付くと、いつの間にか隣に居た傑に笑われる。
「通算何回目かな、フラれたの」
「まだ確定じゃねぇし。つか、フラれてねぇから!」
まだ気持ちも伝えてないのに、終わらせるなと言おうとしてピタリと動きを止めた。
「え、あれフラれたの?」
「大人の返しだと思うけど、私はね」
不敵に笑う傑に、言い返す事が出来なかった。