「会話って一番大切な事だけど、みんな後回しにするんだよね」
伊東甲子太郎は、私にそう言って笑っていた。
新撰組ではあったが袂を分かち、そして斬り捨てられた者。
私とは相反する筈の相手が、何故こうして会話をしてくるのかが分からない。
「目的でもあるのか」
「目的?今の僕等は、一人のマスターの元に集った英霊だよ。目的なんてそれ以外にあるかい?それとも、カルデアでも掌握したいとか」
糸目をすっと開眼する伊東に、私は不快感を露に眉間に皺を寄せる。
同じマスターの元に集いし英霊が、カルデアの掌握を望むわけがない。
一部の英霊。いや高杉を除いてではあるが、勤王党の者はそう言った考えは持ち得ない。
「あれ、怒ったかな?いや、我等がマスターがさ言うんだよ。良かったら、武市瑞山に会話のコツを教えて欲しいって。笑っちゃうよね、生前の僕等だったら即殺し合いなのにさ」
「……何故マスターが」
「君と田中君だっけ?あと岡田君もだけど、ちゃんと会話してるの?見てる範囲だと会話らしい会話してないよ。あれだとさ、何一つとしてお互いに伝わらないでしょ」
痛いところを突かれたと思ったが、顔には出さずに視線だけを逸らす。
私なりに会話をしているつもりではあるが、こうして第三者から言われると返す言葉が見当たらない。
話し掛けられれば、ちゃんと言葉を返していた。
しかし言葉を返すだけで、あれは会話と言えたのだろうか。
もしちゃんと会話をしていれば、せめて田中君の末路だけでも変えることは出来たのかもしれない。
「……服部君はね、分からない事はちゃんと聞いてくれるんだ。それで、僕も何が分からないのか分かるのさ」
「私の言葉は難しいと言うのか?」
「それだよ。武市君は、言いきりだからいけないんだよ。ちゃんと会話してあげなって。言い切られると、どんな人間だって会話が出来ないんだからさ。ま、新撰組の連中は別だけど」
伊東はそう言って、私の元から去るように背中を向けた。
言い切ってはいけないと言われたのは、初めての事で理解するには少し難しく思う。
だが、これで田中君と会話が出来るならばそれはそれでいいのかもしれない。
そう思いながら、私は田中君を探しに行く事にしたのだった。