目の周りを赤く腫らせている髙羽を尻目に、私は温かな布団の中から抜け出した。
ぬくぬくとしていた布団の中とは違い、暖房を消していた部屋の寒さにぶるりと震える。
流石に寒いなと思って、上着を探しているとズボンの裾を掴まれた。
「おや、起こしたかな?」
「何処行くの、羂索」
まだ動くのは辛いらしく、起き上がろうとしては小さく声を上げていた。
このまま起こすのは悪いと思って、しゃがんで布団の中に居る髙羽と視線を合わせる。
その乱れた髙羽の髪を更に乱す様に撫でて、ちゃんと質問に答えてやった。
「君が、動けないだろうから何か買ってくるよ。君くらいだよ、私をこうして使えるのは」
冷蔵庫の中身はどうせ空っぽなのだから、買って来ないと何も食べられないだろう。
無理を強いた自覚はあるし、髙羽はそれなりに大切な相方でもある。
それ位は、私がやってもいいとは思っていた。
すると髙羽は視線を左右に揺らし、ぽつりと蚊の鳴く様な声で呟く。
「カップ麺ならあるし、後で一緒に……なんでもない、行ってらっしゃい」
言い切る前にハッとした表情を浮かべて、毛布を目深に被って布団の中へと隠れてしまった。
何を言いたかったか直ぐに分かっていたが、敢えて知らないふりをして布団の上から髙羽に抱き付く。
ぐえっと言う髙羽の声を無視し、顔まで被った毛布を捲って顔を覗き込む。
耳まで赤くなっている髙羽を満足そうに見つめて、耳元で囁く。
「一緒に後で買い物にでも行こうか。君が立てればの話だけど」
「聞こえてたなら、わざわざ聞き直さなくてもいいって」
横目で私を見た髙羽が気まずそうに呟きながら、尚も布団の中に隠れようと蠢いていた。
「一応、君の事を気遣ったつもりだったんだけどね。それより、私も中に入れてくれないのかい?暖房のリモコンが見付からなくて、寒いんだ」
リモコンの場所は分かっているが、暖房を付けてしまうと布団の中に入る口実が無くなってしまう。
髙羽は少し悩んだ末に、毛布を捲って私を中へと入れてくれた。
さっきと変わらず暖かな布団の中に、思わず安心してしまう。
「リモコン、何時もの所にあったよ。羂索の所からは見えなかった?」
「うん、知ってるよ。でも、暖房を付けたら入れてくれないだろ」
「羂ちゃんが寒そうなら入れるけど」
冷えちゃったねと呟きながら、私の背中に腕を回して背中を叩く髙羽に少し悩んだ。
女の体と違って男の体は、脚の可動域が狭い。
だから腰が痛いと言う髙羽の反応は正しいが、それよりもこうして体を寄せる事に無警戒なのはどうなのだろう。
「君って懐に入れた人間には、パーソナルスペース狭くなるの?」
「え?だって、羂索の体冷えてたし……」
「まぁ、いいや。それよりも昨日、私と何をした覚えていないの?」
私の言葉で、髙羽は何かを思い出したらしく慌てて私から手を離す。
そんな事を私が許す筈もなく、離れた手を掴んで口へと寄せて舌先で指を舐める。
「ひっ、け、羂ちゃんっ!あの!!」
「ねぇ、髙羽。姫納めがあるなら、姫始めもあるよね」
髙羽が逃げる前に腕を掴んだまま、布団へと寝かせて髙羽の上に乗る。
事の事態をやっと把握した髙羽は、上に乗っている私に手を伸ばす。
「いや、マジで腰が」
「大丈夫、ちゃんと私が面倒を見るから」
理由を付けて逃げようとする髙羽の口を塞ぐように、唇を重ねてやった。