バーテンダーになりたかった訳じゃない。
バイトの延長線で、カウンターに立たされてしまっただけだった。
芸の肥やしになればと思いながら、シェイカーに頼まれたカクテルを作るために酒や氷を入れていく。
カランと音を立てて、最近やけに会う常連の塩顔のイケメンがいつもの席に座る。
先輩と二人で立っている時に、先輩が声をかけると嫌な顔をされた。
どうやら自分から注文するまでは、声を掛けられたくないタイプだったらしい。
だから俺もそれに習って、声が掛かるまで待つことにした。
グラスを拭いていると、やけに視線が突き刺さる気がして視線を上げる。
目が合った瞬間、バチッと音がした気がした。
「あ……えーっと、ご注文は?」
「ホーセズネック、貰える?」
「かしこまりました」
ホーセズネックは、レモンの皮を丸ごと入れるブランデーベースのカクテルだ。
珍しいものを頼むなと思って、レモンの皮を剥いてグラスの縁に掛けて中へと垂らし、氷を組み入れてレモンの皮を整える。
ブランデーを注ぎ、ジンジャーエールで満たしてクルリとマドラーを回す。
そっと客の前に差し出すと、俺の方へと戻された。
手順は間違えていないし、注文通りに作った筈だった。
「あれ?」
「それは君に渡すよ。意味は分かってるだろ、髙羽史彦さん?」
「んん?」
「今日のそれは私の奢りでいいよ。それと、君のギャグ。独り善がり過ぎるから」
自分が作ったカクテルを返された上に奢られて、最後にギャグのダメ出しをされた。
カクテルの意味は、先輩に教えられた気がするがすっかり忘れてしまっていた。
一先ずカクテルの意味を調べようと思って、スマホにホーセズネックを打ち込んで意味を読んだ。
「え?運命?」
この日、俺は信じていない運命の相方に出会ったのだった。