モリヒトは可愛い。本人に言ったら否定するだろうが、落ち着いているくせに時折見せる年相応な部分のギャップが可愛い。
珍しく、二人きりの土曜日。モリヒトからゲームに誘われた。リビングのテレビにゲーム機を繋ぎ、二人だけのゲーム大会が始まる。
「何回やっても結果は同じだよ」
「そんなのわからないだろ!もう一回だ」
モリヒトはゲームが苦手だ。反射神経が良すぎる余り、コントローラーという端末を通すと上手く動けなくなるらしい。
「パズルでもこれだからなぁ」
対戦型のパズルゲームは、自分のエリアのパズルを消すと、相手のエリアに妨害が入る仕組みだ。対戦で勝つには、戦略とスピード感が求められる。
カンシが、モリヒトに勝つには自分のフィールドに持ち込むしかないと言っていたが、ケイゴにとってそれはゲームなのだ。
しかも、今日に限って言えば、自分のフィールドにモリヒトから入ってきたのだ。
「くそー!また負けた!」
「だから何回やっても同じって言ったじゃん」
悔しがるモリヒトの方を向き、けらけらと笑う。あのモリヒトが、感情をあらわにする姿を見ると、対等になったような気がして嬉しくなる。
「ゲームでオレに勝つのは百年早い」
たまにウルフに体を貸せば、ぼろぼろになって返されるのだから、これくらい言ってもバチは当たらないだろう。
子供っぽい苛立ちが、可愛いとすら思った。もちろん、今はそんなこと言わないけれと。
普段は真っ黒な目をしているモリヒトが、今どんな顔をしているのか見たくなって顔を覗き込んだ。
「ちょっ、えっ……?」
真っ赤な顔で悔しがっているとばかり思っていたから、その表情に面食らってしまった。
「嘘、待ってモリヒト、そんな?そんな⁉︎」
俯いたまま肩を振るわせ、俯くモリヒトに狼狽する。黒い目には薄く涙の膜が張っているようにも見えた。
「うるさい、もう一回やるぞ!」
「えー、待ってよもうやめない?」
「嫌だ」
「小学生かよ」
ケイゴの困惑を無視して、モリヒトがゲームをコンテニューさせる。
画面が切り替わり、ゲーム開始のカウントダウンが始まるが、ケイゴはすっかりやる気を削がれてしまっていた。
「次こそ勝つから、吠え面かくなよ」
「負ける気がしないし、こんなの誰も幸せにならないよぉ……」
負けて済むなら、最初からそうしている。
しかし、手加減した勝利はモリヒトの望むものではないし、せっかく遊んでいるのに余計な気を回したくなかった。仕方ない、と画面に目を移す。
「……」
「…………」
結局、ケイゴの勝ちを三回繰り返し、とうとうモリヒトは何も言わなくなった。
いい加減諦めたのか、そのまま何も言わずゲームの電源を切る。
「あの……モリヒト?」
黙々とゲーム機を片付けるモリヒトに、思わず声を掛けた。遠慮なくぼこぼこに負かしたのは少なからず悪いと思ったが、むきになったのはモリヒトが先だ。
こうなったモリヒトは暫く手が付けられない。落ち着くまで触れないようにしよう、とテーブルに置いたスマートフォンを手に取る。
「ケイゴ」
「はっ、はい!」
スマートフォンはそのままテーブルに戻した。思わず姿勢を正し、ゲームを片付け終えたモリヒトを見る。
「今夜、覚えてろよ」
口をへの字に曲げ、負け惜しみのようにそう言った。
「えぇ……」
子供だ。完全に小学生だ。そう思うのに、捨て台詞とのギャップが凄すぎて、不覚にもどきっとしてしまった。
夜、いくらか機嫌を直したモリヒトに、子供っぽいところも可愛いと言ったら、またヘソを曲げてしまうだろうか。
ゲームには全勝したのに、モリヒトには勝てる気がしない。