「暑……モリヒト、アイス食べよ」
梅雨明け十日とはよく言ったもので、晴天続きの通学路はアスファルトの照り返しも強く、暑い。
「いや、オレは別にいらん」
「えーっ、こんなに暑いのに?」
暑くなる前にと出掛けたものの、帰る頃には最高気温に到達する時間だった。ただ歩いているだけで汗は出るし、こんな日はミハルのように日傘が必要かもしれない。
何かと趣味が合うから、モリヒトとケイゴはよく休みの日によく一緒に出掛けていた。
開店と同時に店を巡り、適当な店でランチをして帰る。よくある行動パターンだが、それ故に気温のことを忘れていた。
今年一番の最高気温、エアコンを適切に利用し、不要不急の外出を避けましょう、とうたう天気予報。わかっていたのに、まさかそんな時間に屋外にいるとは。
モリヒトは強い。そもそもの暑さに強いのかもしれないし、修行のおかげで我慢強いのかもしれない。しかし、ケイゴは普通の男子高校生だ。しかも、屋外で活動をするような部活に入っているわけでもない。どちらかと言えば、エアコンの効いた屋内にいる方が多いインドア派だ。梅雨明けの猛暑に耐えられる筈がない。
「じゃあアイス買うからコンビニ寄っていい?」
「……わかった。待ってるから早くしろ」
「モリヒト入らなくていいの?暑くない?」
「買うものがないのに入るのは迷惑だろ」
「よくわかんないけど頭かたいな……」
コンビニの前でモリヒトに提案する。客でもないのに入店するのは憚られるという、よく判らないことを主張され、ケイゴ一人でコンビニに入った。照明を減らしてエアコンを効かせた節電店内は、これまでの汗が一気に引いていく。
一人なら、雑誌コーナーを物色してから、意味もなく店内を一周しただろう。しかし、今はモリヒトが外で待っている。アイスの販売ケースを開け、すぐレジに向かった。
「おまたせ」
「早かったな」
「うん、レジ空いてたし」
こんな暑い時間帯に、人は出歩かないのかもしれない。店内に客はいなかった。
「何買ったんだ?」
「ゴミ捨ててっていい?」
「なんだそれ」
別に食べたいわけではないが、ケイゴがどんなアイスを選んだのかは気になる。どうせコンビニ限定の新発売アイスだろう、と軽い気持ちで声を掛けた。
「なんか半分に割れるやつ」
中のアイスが張り付いたビニール袋を破る。一つにしては大きめのアイスは、木の棒が二本付いていた。袋を入り口のゴミ箱に捨てる。
「なんだそれ」
「半分あげる」
割ってシェアしよう、そういう意図で作られた氷菓子を、ケイゴは選んでいた。
「いや、オレは別に……」
「だってこんなに暑いのに、帰るまでなんもなかったら熱中症で倒れるよ?」
いくらモリヒトでも、と熱弁する。手にしたアイスは、気温と日差しに、早くも溶け始めていた。
「それに、こういうのやってみたかったんだ」
照れ臭そうにケイゴが笑う。モリヒトと同じく、ケイゴも友達と呼べる友達はいなかった。憧れてたんだ、そう言われては、無碍に出来ない。
両手で二本の棒を持ち、ゆっくりと力を込める。真ん中の細いくぼみに合わせて割れる仕組みだ。
「あ」
そういえば、ケイゴはあまり器用ではない。暑さも手伝ったのかもしれない。割るのに失敗した割り箸のように、片方が大きくなってしまった。
「へたくそ」
ふ、とモリヒトが笑う。ケイゴが買ったものだから、当然と小さい方を貰おうとした。
「モリヒトはこっち」
「いや、ケイゴが買ったんだから、お前が大きい方だろう」
「オレはコンビニで少し涼んだしさ、いつも付き合ってくれるし、そのお礼ってことで」
大きい方をモリヒトに押し付け、小さい方を食べる。溶けたアイスが棒を伝い、指についた。
「……ケイゴって、たまにそういうところあるよな」
「え?何が?」
「別に、なんでもない。じゃあ有り難くいただこう」
「うわこれめっちゃすぐ溶ける」
指に垂れてくる甘い水を避けるため、棒を持ち替えて手のひらを舐める。
「吸って食べられるやつにすればよかった」
「……そうだな」
「あ、ちゃんと分けられるやつにするよ?」
「それは別にどっちでもいい」
雲ひとつない青空と、溶けかけたソーダ味のアイスは同じ色をしていた。