毎日SS 友達の誕生日プレゼントが買いたいから、それに付き合って欲しい。
朝食の時に、一日の予定を聞いたらそう言われた。モリヒトとケイゴは趣味が合う。休日になんとなく一緒に出掛けるとはよくあるが、目的を持って誘われることは殆どない。
「別にいいが、お前……友達いたのか?」
「しっ、失礼な!いるよ、少しは……」
最初は否定したものの、段々と声が小さくなる。ここで、それは誰か?と聞かれたら、恐らく言葉に詰まるのだろう。
「とりあえず、準備出来たら出掛けよ」
「ああ」
友達って誰だ?と思いながら、曖昧に返事をした。何故こんなにも、もやもやするのか判らない。
「付き合わせちゃってごめんね」
「別にいい」
出掛けるから昼は好きに食べてくれ、と留守番のニコたちに言い残し、モリヒトはケイゴと駅ビルに来ていた。ケイゴが迷いなく、色々なテナントが入ったファッションビルのシューズショップに入る。
「靴なのか?」
「うん、今日はまだ下見だけど、こういうの好きかなと思って」
「そうか」
よく通る場所ではあるが、入るのは初めて。
ケイゴは何度か通っているのか、店員にも覚えられていた。確かに、彼が履いていそうな靴が並んでいる。
デザインも良く、カラーセンスも悪くない。ケイゴとは、好みが似ている、と思っていた。
「どういうのがいいかなぁ」
「……それは、オレが知るわけないだろう」
ちら、とモリヒトの様子を伺うケイゴが、何故か無性に腹が立つ。
会ったこともないお前の友達の好みなど知るわけがないだろう。
声を掛けてきた店員と話し始めるケイゴを横目に、店の奥まで入った。店頭に並ぶスニーカーを、無心で見比べる。見れば見るほど、どれもモリヒトの好みだ。
「ねぇモリヒト」
いつの間にか、真剣にスニーカーを見ていたらしい。
「どう?このブランド」
「……悪くないな」
「ちょっと試着してみない?」
「いや、別に……」
「友達、モリヒトとサイズ同じなんだよ、お願い」
なんだそういうことか。ケイゴがわざわざ自分をここに連れてきたのは、その友達と同じサイズということで都合が良かったのか。面白くない。
「モリヒトに似合うだろうし、ね?」
これとかどう?とケイゴがスニーカーを手に取る。この店の中で、いちばん、良いなと思ったものだ。
ケイゴにねだられ、店員に声を掛けられては、断るにも断れない。渋々サイズを告げた。
「へぇ」
「いいね、似合ってる。格好いいよ」
「そうか?」
「うん、ばっちり」
褒められれば、満更でもない。足元を映す鏡を見る。確かに、今日のデニムと相性がいい。この店の靴は、他のボトムとも合いそうだ。
「やっぱここの靴にしようかな。ありがとね、モリヒト」
「……ああ」
そういえば、友達の誕生日プレゼントだったな。このまま乗せられたら、自分の小遣いで買うところだった。
「どう思う?」
「まぁ、いいんじゃないか」
ケイゴの友達が誰なのか、知らない。ただ、着る物や持ち物にこだわりがあるモリヒトでも、このスニーカーを貰ったら嬉しいだろうな、と思った。
名前も知らぬ、会ったこともないケイゴの友達に、何故か強烈な嫉妬を覚えながら、ぶっきらぼうに答える。
「よかったぁ」
機嫌が急降下していくモリヒトに対して、ケイゴは上機嫌だ。今日は買わないということをあらかじめ伝えていたのか、脱いだ靴は何も言わず箱にしまわれる。
「オレの用は済んだから、後はなんか適当に遊ぼう」
「なんだそれ」
基本的に、なにごともきっちりしたがるモリヒトとは違い、ケイゴはゆるい。ソフトゥーンを掛けられた時もあっという間に順応してしまった。
「だってモリヒトと遊ぶの楽しいじゃん」
「ぐ……そうか」
店を出て並んで歩く。そんな風に言われて、悪い気はしない。
「なぁケイゴ」
「なに?」
「オレとケイゴは、友達だよな?」
「急に」
この店が見たい、と立ち止まった瞬間に、話し掛けた。ケイゴが、横に並ぶモリヒトを見上げる。返答次第では、これから急用が出来るかもしれない。
「当たり前じゃん。オレは、し……親友だと思ってるよ」
最初の肯定は目が合った。次の台詞では目を逸らされる。
「そうか」
照れくさそうにはにかむケイゴを見て、モリヒトは機嫌良さそうに後ろをついて行った。
十月七日。モリヒトあての誕生日プレゼントは、まだ知らない。